長らく年配の男性向けというイメージの強かったグランドセイコー。しかし現代のコレクションでは、日本の自然を表した型打ちダイアルを採用したモデルや、スポーツウォッチ、ドレスウォッチなど、幅広いラインナップを取りそろえ、そのイメージを過去のものとしつつある。今回は、そんな現代のグランドセイコーを象徴する5つのモデルを紹介する。
Text by Tsubasa Nojima
[2025年1月28日公開記事]
クロノス編集部厳選! “オシャレ”なグランドセイコー
日本を代表する高級腕時計ブランド、グランドセイコー。1960年、世界最高級の腕時計を作り出すという決意のもとに誕生したグランドセイコーは、現在ではクォーツ、メカニカル、スプリングドライブという3種類のムーブメントを展開し、世界中で高い評価を得ている。
そんなグランドセイコーは、“誠実”や“謙虚”というイメージを持たれることが多い。日本の美意識を体現する独自のデザイン文法であるグランドセイコースタイルにのっとった、堅実な実用時計としての面がそのように印象付けるのだろう。一方で、それらがもたらす重厚感と落ち着きのある佇まいから、やや年配の男性向けというイメージを持たれることも少なくない。確かに、スーツにもふさわしいドレッシーなデザインや視認性に優れる太い針の組み合わせは、ビジネスシーンで戦うサラリーマンにマッチする。
では、果たしてそのイメージは、グランドセイコーの全容を表していると言えるのだろうか。答えは否だろう。現代のラインナップでは、“これぞ”と言うような伝統的なデザインのモデルも残しつつ、型打ちダイアルによるおしゃれで多彩な表現に加え、スポーツウォッチやドレスウォッチのバリエーションを拡充させるなど、より幅広いニーズを満たすコレクションを擁している。
今回は、長い歴史の中で根付いたグランドセイコーに対するステレオタイプなイメージを払拭する、現代のグランドセイコーらしさを体現する5つのモデルを紹介したい。
「ヘリテージコレクション」Ref.SBGH347
滝から流れる水が氷点下でゆっくりと時間をかけて凍りついていく自然現象、氷瀑をモチーフとした爽やかなモデル。コンパクトなサイズのケースも魅力。自動巻き(Cal.9S85)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径37mm、厚さ13.3mm)。10気圧防水。94万6000円(税込み)。
グランドセイコーのメカニカルモデルが製造される、グランドセイコースタジオ 雫石。本作は、そこから望む岩手山において厳冬期に見られる自然現象、氷瀑をモチーフとしたモデルだ。アイスブルーのダイアルには縦方向のパターンが刻まれ、流れ落ちる滝が凍り付いた神秘的な様子を表現している。ロゴやインデックス、針をすべてシルバーカラーで統一することで、冬の静けさを感じるデザインに仕上がっていることも魅力のひとつ。
ケースは、直径37mmのコンパクトなサイズ。ケースとブレスレットの素材には、塩化物含有環境にさらされる海洋構造物などに用いられてきたステンレススティール、エバーブリリアントスティールを採用する。優れた耐食性を備えていることはもちろん、白く輝く審美性も兼ねている。
ムーブメントは、約55時間のパワーリザーブと毎秒10振動のハイビートを備える、機械式自動巻きのCal.9S85を搭載。シースルーバックを通して、ローターやテンプの動き、ストライプ装飾などを鑑賞することが可能だ。
「エボリューション9コレクション」Ref.SLGA023
200m空気潜水用防水を備えた本格的なダイバーズウォッチ。軽量かつ耐食性に優れたブライトチタン製ケースには、独自の駆動方式であるスプリングドライブのムーブメントが収められている。自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RA5)。38石。パワーリザーブ約120時間。Tiケース(直径43.8mm、厚さ13.8mm)。200m防水。168万3000円(税込み)。
アクティブなデザインを特徴とする、グランドセイコーのダイバーズウォッチ。本作は黒潮と親潮がぶつかり合う、多様性に富んだ日本近海をイメージしたモデルだ。深いブルーのダイアルには、荒々しい海流をモチーフとした立体的なパターンが刻まれている。インデックスと針には蓄光塗料が塗布され、3時位置には日付表示、9時位置にはパワーリザーブインジケーターが配されている。
エボリューション9スタイルのデザイン文法にのっとったケースは直径43.8mmと、ダイバーズウォッチらしい迫力を楽しめるサイズ感だ。素材にはブライトチタンを採用し、取り回しやすさや海水への耐食性も高められている。ヘアラインを主体としつつも随所にポリッシュを加えた外装は、グランドセイコーらしい上品さも醸し出している。
搭載するCal.9RA5は、メカニカルとクォーツを融合した性質を持つ、セイコー独自の駆動方式であるスプリングドライブ式。約120時間のロングパワーリザーブを備え、長時間にわたって安定した高精度を発揮する。
「エレガンスコレクション」Ref.SBGY013
御神渡り(おみわたり)をモチーフとした、手巻きスプリングドライブムーブメント搭載モデル。手元を動かす度に、繊細なパターンのダイアルが光を受けて輝く様子を楽しむことができる。手巻きスプリングドライブ(Cal.9R31)。30石。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径38.5mm、厚さ10.2mm)。日常生活用防水。127万6000円(税込み)。
手巻きスプリングドライブムーブメントを搭載した、グランドセイコーのドレスウォッチ。繊細なパターンが型打ちされたダイアルは、御神渡り(おみわたり)をモチーフとしたものである。御神渡りは、スプリングドライブモデルが製作される信州 時の匠工房に近い諏訪湖で見られる自然現象であり、氷結した湖面が冷え込みと温度の上昇を受けることによって山脈のように盛り上がるものである。ダイアルには細身のインデックスが並び、ブルーの秒針が組み合わされている。
ステンレススティール製のケースは、曲面を多用したエレガントなデザイン。手巻きスプリングドライブムーブメントを搭載し、シャツの袖口にも収まる薄型のケースを実現している。リュウズは程よいサイズ感が確保され、主ゼンマイの巻き上げや時刻調整時の操作性を高める。9連タイプのブレスレットは、ひとつひとつのコマが短くしなやかに可動し、手首への装着感にも優れるデザインだ。ムーブメントの受けにはパワーリザーブインジケーターが配され、シースルーバックを通して主ゼンマイの残量を確認することが可能となっている。
「エレガンスコレクション」Ref.SBGY007
青みがかったダイアルに御神渡りパターンを施したモデル。クロコダイル製ストラップを組み合わせ、フォーマルな印象に仕上がっている。手巻きスプリングドライブ(Cal.9R31)。30石。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径38.5mm、厚さ10.2mm)。日常生活用防水。115万5000円(税込み)。
Ref.SBGY013と同様、御神渡りをモチーフとしたモデル。Ref.SBGY013では白銀に輝く湖面を想起させるカラーリングであったが、Ref.SBGY007では青みがかったダイアルが採用されている。ダイアルのパターンは、職人が手作業で製作した金型を使用し、型打ちすることによって施されたものであり、光の当たり具合によって煌めく様子を楽しむことができる。
丸みを帯びたケースにはデュアルカーブサファイアクリスタルが組み合わされ、風防からベゼル、ミドルケースへとつながる、一体感のあるラインがドレッシーな印象を与える。ベルトはブラックのクロコダイル製。フォーマルシーンにもふさわしい組み合わせだ。
本作が搭載するCal.9R31は、シースルーバックから鑑賞することが可能である。ヘアライン仕上げが施された受けには、ブルーのネジや受け石のルビー、パワーリザーブインジケーターが配されている。ふたつの香箱を並列に重ねたデュアル・スプリング・バレルによって、約72時間のロングパワーリザーブを実現するなど、機能面にも優れている。
「エレガンスコレクション」Ref.SBGJ251
生い茂る緑の中、山桜が花を咲かせているような、春の訪れを感じさせるデザインを与えられたモデル。ダイアル上の24時間表記とピンクゴールドカラーのGMT針によって、第2時間帯を表示することができる。自動巻き(Cal.9S86)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径39.5mm、厚さ14.1mm)。日常生活用防水。100万1000円(税込み)。
二十四節気のひとつ、春分をモチーフとしたモデル。グリーンのダイアルと、ピンクゴールドカラーのGMT針によって、木々が芽吹く山奥にひっそりと山桜が咲く情景を表現している。
エレガンスコレクションらしく、全体的にクラシカルで上品なデザインにまとめられていることも特徴だ。ダイアルがボックス型のサファイアクリスタルに覆われ、丸みを帯びたケースには、少し細身なラグが備わっている。ケースバックはシースルー仕様であり、6本のネジによってミドルケースに固定されている。ステンレススティール製ブレスレットが装着され、クラシカルなデザインながら季節や天候を気にせず着用できるのは心強い。
ムーブメントは、毎秒10振動を誇る機械式自動巻きのCal.9S86を採用。GMT機能が搭載されており、異なるタイムゾーンへ移動する際に、秒針を停止させることなく時差修正を行うことが可能だ。GMTウォッチはスポーティーなデザインのモデルが多いが、本作はスーツ着用時にもふさわしいデザインに仕上げられている。