機械好きを魅了する、多機能パイロットウォッチ【ブライトリング、ロンジン、シチズン等】

2025.03.24

現代におけるパイロットウォッチの在り方を再考する。そんな『クロノス日本版』Vol.98「パイロットウォッチ礼賛」特集を、webChronosに転載。今回は多機能パイロットウォッチを紹介する。ブライトリング「ナビタイマー」をはじめ、ユニークな付加機能を有した名作の数々は、時計好きはもちろん、機械好きも魅了するだろう。

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吉江正倫:写真
Photographs by Masanori Yoshie
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年1月号掲載記事]


計器のサブに留まらないユニークさを持つ多機能パイロットウォッチ

ブランパン「エアコマンド」

ブランパン「エアコマンド」
1950年代に極少数が生産された幻のフライバッククロノグラフの復刻版が、レギュラーモデル化。今作はブルーダイアルが採用され、モダンな印象だ。チタンモデルに採用されているのは、時計産業では珍しいグレード23。自動巻き(Cal.F388B)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約50時間。直径42.5mm、厚さ13.77mm。3気圧防水。(右)Tiケース。(左)18KRGケース。

 パイロットウォッチの方向性のひとつが、計器のサブになるツールとしての時計だった。1920年代以降、さまざまなメーカーがパイロットウォッチの多機能化に取り組み、1952年のブライトリング「ナビタイマー」で一通りの完成を見た。今なお各社が手掛ける多機能パイロット。機能だけに留まらないそのユニークさは、機械好きをも魅了する要素だ。


PILOT’S WATCH Category 3
HIGH FUNCTION

ハミルトン「カーキ アビエーション Xウィンド オート クロノ」、ブライトリング「ナビタイマー B01 クロノグラフ 43」、オリス「ビッグクラウン プロパイロット アルティメーター」

(上)ハミルトン「カーキ アビエーション Xウィンド オート クロノ」
回転計算尺に偏流修正角計算機能を搭載したモデル。これによって、パイロットは操縦中に受けた横風の影響を計算することができる。クロノグラフやデイデイトといった機能を備える他、シリコン製ヒゲゼンマイも採用されている。自動巻き(Cal.H-21-Si)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径45mm、厚さ14.85mm)。10気圧防水。
(下左)ブライトリング「ナビタイマー B01 クロノグラフ 43」
「ナビタイマー」の完成形とも言うべきモデル。はっきりとした印字は、文字をマスキングした後に黒メッキをかけ、マスキングを剥がす手法を用いたことによる。誕生以来、着実に進化を遂げてきた「ナビタイマー」だが、この製法は不変だ。自動巻き(Cal.01)。47石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径43mm、厚さ14.2mm)。3気圧防水。
(下右)オリス「ビッグクラウン プロパイロット アルティメーター」
ケース内部に機械式高度計を収めたモデル。4時位置には高度設定用のリュウズが配され、ダイアル外周には指針式のメーターを備える。高度の表示板はフィート/メートル双方のバリエーションが用意され、“プロ”と呼ぶにふさわしい仕様となっている。自動巻き(Cal.Oris733)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38 時間。SSケース(直径47mm、厚さ17.7mm)。10気圧防水。

 パイロットウォッチが独自の進化を遂げるようになったのは1920年代のことだ。ロンジンがパイロットウォッチに回転ディスクを加えて以降、パイロットウォッチには、航空機用の計器を補完するツールとしての役目も期待されるようになったのである。以後各社は、このジャンルの時計にさまざまな機能を追加。その中で、最も普及したのが回転計算尺だった。

 回転計算尺を持つ世界初の腕時計が、1942年のブライトリング「クロノマット」である。しかし計算尺の機能は、掛け算と割り算、そして三数法の計算に限られた。簡易な計算には役立ったが、航空機のコックピットで使うものではなかった。この計算尺を全面的に改良したのが、同社に在籍していたマルセル・ロベールである。彼は表示を改めることで、掛け算と割り算をしやすくしたほか、複数の解答を一度に見られるようにした。

 より重要だったのは、航空用の回転計算尺E- 6Bの機能を盛り込んだことだった。1930年代に開発され、1940年に完成したこの回転計算尺は、大戦中のアメリカ軍が用いた、推測航法にも使える初のフライトコンピュータだったのである。ロベールはここからいくつかの要素を省くことで、パイロット向けの回転計算尺を腕時計のサイズに縮小してみせた。搭載した初のパイロットウォッチが、1952年の「ナビタイマー」である。航空機用の計器を補完する、というパイロットウォッチのあり方は、ここで一通りの完成を見たと言えるだろう。

ブライトリング「ナビタイマー」

航空用回転計算尺を備えた傑作がブライトリングの「ナビタイマー」。パイロット向けの回転計算尺、E-6Bの改良版である、タイプ52型計算尺を搭載する。電子機器が普及した今なお、多機能パイロットを代表する傑作だ。

 時計自体の改良も進んだ。そのひとつが、クロノグラフをストップさせずに再起動できるフライバックである。36年にロンジンが開発したこの機構は、1941年にチュチマがパイロット用クロノグラフムーブメントのUROFA59に採用。戦後はフランス軍の「タイプ20」規格を通じて、時計業界に広まった。今やフライバックにあまり意味はなくなったが、ふたつのウェイポイント間を航行した後、すぐに3つ目のウェイポイントまでのタイミングを測定する場合や、連続した平均速度を計算する場合などには有用である。フランス軍が、パイロットウォッチの規格にフライバックを加えたのも理解できる。

ブランパン「エアコマンド」

ブランパンの初代「エアコマンド」は、フィフティ ファゾムス譲りの防水ケースに、フライバック付きのクロノグラフを載せた、極めて野心的な多機能パイロットウォッチだった。復刻版でも、そのダイバーズ風の夜光塗料が再現された。

 もっとも、当時フライバック機能を搭載できるエボーシュはバルジューしかなく、その本格的な普及は、ブレゲがレマニアを、ブランパンがフレデリック・ピゲのクロノグラフを搭載して以降となる。その系譜を受け継ぐのが、ブレゲの「タイプ XXⅡ」と、ブランパンの「エアコマンド」だ。

ブレゲ「タイプ ⅩⅩⅡ」

ブレゲ「タイプ ⅩⅩⅡ」
ダイアル上の“10Hz”の文字が示す通り、超高振動ムーブメントを搭載したフライバック機能付きクロノグラフ。センター同軸積算計や24時間表示、デイト機能を備える。裏蓋からは、テンプの鼓動を確認することができる。自動巻き(Cal.589F)。28石。7万2000振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KRGケース(直径44mm、厚さ18.05mm)。10気圧防水。

 航空機用の計器が進化するのに伴い、今やパイロットウォッチがさまざまな付加機能を持つ必要はなくなった。とはいえ、今なお、ユニークな機能を載せたモデルは存在する。ハミルトンの「カーキ アビエーション Xウィンド オート クロノ」は、回転計算尺に偏流修正角計算機能を搭載したもの。これは横風の影響を計算して、航空機を向ける方向を算出できる機構だ。

「カーキ アビエーション Xウィンド オート クロノ」

偏流修正角計算機能を搭載したのが、「カーキ アビエーション Xウィンド オート クロノ」だ。風向き、風速、飛行速度、飛行コースのデータを把握して、2時位置と4時位置のリュウズとベゼルを回すと偏流角が算出できる。

 実際に使う人がいるかはさておき、メカニズムの面白さを打ち出した本作は、多機能パイロットウォッチの新しい姿を提示した試みと言える。高度計を載せたオリスの「ビッグクラウン プロパイロット アルティメーター」も同様だ。スイス・ヴァルデンブルクの航空機用計器の専門メーカー、トーメン社が開発した高度計は、サブの高度計として使えるだけの機能を持つが、パイロットでなくても触りたくなるツール感に満ちている。

オリス「ビッグクラウン プロパイロット アルティメーター」

高度計を搭載したオリス「ビッグクラウン プロパイロット アルティメーター」。航空法に従って、高度計は5000ftを超えると大気圧の基準を1013hPaに統一したフライレベルで飛行しなければならない。本作の気圧スケールには、変更するための機能が備わる。

 仮に計器としての機能を追求するなら、高機能パイロットウォッチの本命はクォーツを搭載したものだろう。シチズンの「プロマスター エコ・ドライブGPS衛星電波時計」は、回転計算尺に加えて、ホームタイムとローカルタイムの入れ替えやアラーム、クロノグラフといった機能を詰め込んだパイロットウォッチ。また、ベゼルには国際民間航空機関が定めた国際救難信号が刻まれている。これは仮に遭難した場合、この信号を表示して救助を待つためのものだ。

シチズン「プロマスター エコ・ドライブ GPS衛星電波時計 CC7014-82E」

シチズン「プロマスター エコ・ドライブ GPS衛星電波時計 CC7014-82E」
GPS衛星から位置・時刻情報を取得できるほか、パーペチュアルカレンダーやクロノグラフをはじめとする複雑機構を満載する多機能クォーツ。中でも容易に時差修正を行うことができる「ダブルダイレクトフライト」は、海外との仕事が多いビジネスパーソンにも実用的な機能だ。クォーツ(Cal.F990)。Tiケース(直径47.2mm、厚さ16.7mm)。20気圧防水。

 G-SHOCKの外装をパイロットウォッチ向けに改めたのが「グラビティマスター」である。そもそもタフな環境を考慮して生まれたG-SHOCKは、今や多くのパイロットが愛用するようになった。そこに耐衝撃・耐遠心重力・耐振動性能を持つトリプルGレジストを加えることで、グラビティマスターはパイロットウォッチとしての完成度を高めている。G-SHOCKとしては例外的に、JISの第1種耐磁(4800A/m)を備えているのもパイロットウォッチならではの打ち出しだ。

G-SHOCK「GPW-2000-1A2JF」

G-SHOCK「GPW-2000-1A2JF」
振動によるバンドの脱落を防ぐ耐振動構造、高い耐衝撃性、カーボンファイバーをインサートした強靭なバンドを持つ堅牢なパイロットウォッチ。スマートフォンのアプリケーションとリンクし、時刻修正やフライトログを付けられる。標準電波やGPS衛星電波受信による時刻修正も可能。タフソーラー。樹脂ケース(直径57.1mm、厚さ18.2mm)。20気圧防水。

 腕上のコンピュータであるスマートウォッチは、今後、最も可能性がある多機能パイロットウォッチになるだろう。ガーミンの「MARQ Aviator」は水平姿勢表示計、直接誘導ナビゲーション、アメリカの国立気象局が運営するNEXRAD(次世代気象レーダー)の表示、フライトログ記録、緊急時直近空港ダイレクトナビゲーションなどを備えたもの。稼働時間はGPSモードで24時間と長くはないが、その高機能ぶりは、航空機用の計器のサブ、という多機能パイロットウォッチの在り方を、究極まで推し進めたものである。

ガーミン「MARQ Aviator」

ガーミン「MARQ Aviator」
太陽光の下でも見やすい反射型Chromaディスプレイを備えたプロパイロット用スマートウォッチ。世界の航空データベースや気象レーダーとリンクすることで、飛行中のナビゲーションを行うことができる。各種アプリケーションによって、ゴルフ、水泳、ランニングなどのアクティビティにも使用することができる。Tiケース(直径46mm、厚さ14.7mm)。10気圧防水。


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