「“分かっている人”に響く時計」として、2024年12月にタイメックスから打ち出された「リイシュー 1983 オートマティック」を着用レビューする。時計オタクオジサンたちの心をつかむ意匠とディテールに、オールドウォッチ好きの筆者もメロメロ。なお、実際の着用は男性社員が行い、着用感をヒアリングする形で原稿を作成している。
Photographs & Text by Chieko Tsuruoka
[2025年1月31日公開記事]
タイメックスの2024年新作「リイシュー 1983 オートマティック」を着用レビュー!
タイメックスは2024年12月、「リイシュー 1983 オートマティック」をリリースした。「リイシュー」は復刻を意味する通り、タイメックスが自社の名作をよみがえらせるというコンセプトのコレクションで、本作は1983年製のモデルにルーツを持つ。オリジナルはタイメックス本国の総合カタログで、ドレス向けモデルとして紹介されているとのこと。
自動巻き。SSケース(直径34mm、厚さ12mm)。50m防水。4万2900円(税込み)。現在ホームページでは再入荷待ち。
最大の特徴は、まだブラウン管であった時代のテレビをモチーフとした“TVダイアル”だ。「ドレス向け」というように、細身のインデックスや針、シルバー文字盤は上品な一方で、スクエア型となることで、ユニークさをも獲得している。
なお、ムーブメントはMIYOTAとのこと。また、現在ホームページでは売り切れていて「再入荷待ち」となっており、次の入荷は2025年6〜7月が予定されている。
そんなリイシュー 1983 オートマティックを、他の従業員の協力も得ながら、実機レビューしていく。
時計オタクオジサンを引き付ける意匠
1970年代以降の時計業界では、各ブランドがデザインによって他社と差別化を図ることを試みた結果、さまざまな意匠が生み出された。1980年代に入るとクォーツムーブメントが普及したこともあり、意匠の独創性や自由度はいっそう際立っていく。この時代に作られた時計が、現在再評価されている。よく「流行は繰り返す」などと言うが、レトロで現代にはない雰囲気やスタイルを持った腕時計というのは確かに面白く、多くのブランドがタイメックスと同じように「復刻」を行なっている。
もっとも1970〜80年代の時計デザインは前述の通り、本当に多種多彩で、復刻モデルもしかり、だ。そんな中でも本作のようにここまで“オジサン時計”を突き詰めたものとなると珍しく、タイメックスさん、よくやってくれたよと膝を打ちたくなる。なぜなら、こういったオジサン時計を求めている時計オタクオジサンは、自分も含めて(私はオジサンならぬオバサンですが)、少なくないためだ。「こういうので良いんだよ」的な。時計オタクはオリジナルを購入するケースもあるものの、半世紀近く昔の個体となると良いコンディションのものを見つけるのが途端に難しくなるということも相まって、現行品でこんなオジサン時計を購入できるというのが、本当にうれしいのだ。決して派手ではなく、むしろ地味な本作は、タイメックスの狙い通り「“分かっている人”に響く時計」である。
本作は、なぜここまでオジサンに徹底していると思わせられるのか? そのディテールを、さらに深掘りしたい。
繰り返し記しているように、本作の最大の特徴はブラウン管テレビを模した文字盤だ。この文字盤を守るアクリルガラスの風防はボックス型で、サイドから見ると風防が切り立った様子も、レトロ感が満載だ。
縦方向のヘアラインを施したシルバー文字盤も、渋い、渋すぎる! 時計オタクの中には「カレンダー表示の小窓はいらない」というノンデイト原理主義者もおられるだろうが、個人的には日付があることで、いっそうオジサン感が強調されているように思う。
細身の針・インデックスは控えめで、この点も「派手にならないオジサン時計」という要素を適格に備えていると言える。
ブレスレットは懐かしの蛇腹式。男性用アクセサリーなんかでも見られた仕様で(あまりアクセサリーについて知らず、今も流行っているのかもしれないが、自分の祖父が身に着けていたこともあり、年配男性が着用するアクセサリーといったイメージ)、ゴムのようにある程度伸縮する。このブレスレットを軽く引っ張るだけで脱着できるため、急いでいる朝などにも簡単に着けて家を出られそうだし、伸縮性があるので、むくみやすい夏場に腕時計がキツイといった悩みを考えなくて良い。引っ張り続けることによる耐久性は少し気になった。
このように、細部にわたってオジサン時計を突き詰める本作。ちょっとシャレたアクセントを……などといった発想をせず、地味に徹する。この地味さがむしろ本作を非凡な存在に押し上げており、リイシューコレクションのみならず、「マーリン」や「MK1 メカニカル」などといった、過去のアーカイブに範を取ったモデルでヒットを飛ばすタイメックスの、復刻時計の名手としての「腕」が垣間見える。
オジサン時計を実際に着用してみてどうだったか?
今回手首に怪我をしていたため、着用レビューは同僚の大橋洋介に行なってもらい、その着用感をヒアリングした。
直径34mmというケースサイズ
普段から小径ケースを好んで着けている大橋に、本作のサイズについてどう思ったか聞いたところ、「手首が細いので、比較的小さなサイズの腕時計を好む自分ですが、それでもこの腕時計は自分にとって小さな印象を覚えました。TVダイアルが小さく見える印象を与えているのかも」とのこと。確かに現代のスタンダードは40mm径前後であり、34mmというとかなり小さい。この小ささが何度も言ってる「よくやった!」なんですけどね。
蛇腹式ブレスレットも見どころ!
また、蛇腹式ブレスレットについて「本作の見どころ」として、印象的であったと語ってくれた。
「(腕時計で)蛇腹式ブレスレットを21世紀に復活させた、数少ない例がこの時計であると思います。最近、ほとんどこのタイプのブレスレットを見かけませんよね。現行品としては、ハミルトンの『ベンチュラ』くらいでしょう。ちなみに初代『カシオトロン』にも、これと同型のブレスレットを備えたモデルが存在していましたが、復刻版の製造にあたって、ブレスレットは再現されませんでした。それほど復刻から“漏れる”日陰の存在に光を当てたというのは、かなり挑戦的です」。うーん、なるほど。
「部分的にヘアライン仕上げが施され、残りがポリッシュで仕上げられている点と、ブレスレットの角が『立っている』点が、高級感を増していてグッド」とも話していた。「昔の蛇腹式ブレスレットは『プレスしただけ』感があって、どうしても安っぽさを感じてしまいます。そこを磨きで仕上げ、高級感を与えた意義は大きいです」という。
「蛇腹式ブレスレットはバックルがないので、デスクワークをしている時に邪魔にならないというのもうれしいポイントでした」
また、私自身も本作が「昔のオジサン時計を忠実に再現しながら現代技術で復刻してくれて、タイメックスさんありがとうございます」とお礼を言いたくなるのが、工具なしでサイズ調整できるという本作の仕様だ。外すことのできるコマの裏側(手首に当たる部分)を押すと、カチッと簡単に外せるようになっているのだ。
「昔の蛇腹式ブレスレットは、サイズ調整のためにコマを外すのが大変でした。ブレスレットを引っ張って、工具で突いて、どうのこうのしてやっと外せるんです。基本的には専門店に頼むものです。だから、工具を使わずにコマが外せる機構というのは、ユーザーにとってありがたいです。ただ、外せるコマの部分は、ブレスレットが伸縮しません。上下だけでなく左右にも伸縮する自由度の高さがこのブレスレットの売りなのに(そこは残念)」
私も前述したように、大橋も耐久面では懸念点があるようだった。
「耐久性の観点から、蛇腹式ブレスレットの採用を避ける場合もある、と聞きます。だから、このブレスレットの堅牢性というのは、少し不安にも思っています」
使い勝手もヨシ!
インデックスや針が細く、またメタリックであるためシルバー文字盤に埋没するといったことはないかな? と思ったが、しっかり磨かれていることもあり、光源による視認性の違いは気にならなかったとのこと。
使用感について私から触れると、MIYOTAのムーブメントということで特筆すべき点はないが、リュウズの操作性が良かったということは取り上げておきたい。本作のようにドレッシーなモデルというのはデザイン上の理由からリュウズが小さく設計されている場合も少なくない。こういった小さいリュウズは爪の長い自分にとっては引き出しにくく、本作もそういった懸念があったものの、引き出しはもちろん、主ゼンマイの巻き上げや時刻合わせもやりやすかった。リュウズに装飾された切り込みによって指の腹が痛いといったこともない。日常的に使いやすい腕時計だと感じた。
巧みな戦略が感じられる1本、これは「買い」!
時計オタクオジサンが大好きな要素を盛り込んだ、タイメックスの「リイシュー 1983 オートマティック」を実機レビューした。渋くて地味で、しかも34mm径ケースというコンパクトなサイズ感は、「復刻時計」であることをとことん追求するという同ブランドの姿勢が感じられた。一方で1980年代当時にはまだ生まれていなかったような若い世代にとっては、現行品にはない新鮮な印象を持った腕時計であると同時に、4万2900円(税込み)という手の届きやすい販売価格が相まって、腕時計を購入する際の良い選択肢となるだろう。
この原稿を書いている最中、タイメックスを日本で取り扱う株式会社ウエニ貿易のマーケティング担当者N氏から、同ブランドの復刻時計の展開について、興味深い話を教えてもらった。もともとタイメックスのアーカイブを復刻させる試みを行ったのは日本からで、日本市場で人気に火が付いた結果、現在のような多彩な復刻時計の展開につながったというのだ。本文の中でタイメックスの復刻時計の腕前について言及したが、それが日本発というのだから、我が国の時計市場の成熟具合がうかがえるというものだ。そしてこの話を聞いたのが、今年のタイメックスの新作モデルの、プレス向け展示会。まだ情報解禁されていないため詳細は後日の発信となるが、オールドウォッチ好きでもそうでなくても、欲しくなる新作モデルがそろっていたことは記しておく。