『ウォッチタイム』アメリカ版に参画する編集者兼ライターのマーティン・グリーンが、ティソの「スタイリスト」を実際に見て触ってレビュー! 正直注目を集めているとは言い切れない腕時計ではあるが、マーティンに言わせれば「価格、間違ってない?」と驚くほどの出来らしい。マーティンがこの腕時計のどこに気に入ったかを、注目してみよう。
同じ価格の腕時計でも人によって「価値」は違う
ある価格の腕時計にどれだけの価値を見出すかは、コレクターの価値観次第だ。それゆえに、私は価格についての言及を控えるようにしている。腕時計の「価格に対する価値」は、個人の価値観ごとに異なるものと認識しているからだ。例えば、400万円ほどの腕時計があるとしよう。年収800万円の人と、年収8000万円の人とでは、その価格対価値の見え方は大きく異なるものに違いない。また、同じ年収を仮定したとしても、趣味やその腕時計に対する期待値によって、見え方は相当に変わってくるはずだ。
4万円弱で購入できる佳作「スタイリスト」
私は時計ジャーナリストとして、自分自身の収入に見合わない腕時計を購入することはあまりない。ストラップを新調するときの予算は、だいたい平均して4万円ぐらいだろうか。しかし、ティソは「スタイリスト」の新作に、私のストラップ予算に近い価格で購入できる腕時計を提示してきたのだ。
実際のサイズより大きく見える32mmサイズ
スタイリストはティソのヘリテージコレクションを構成するモデルであり、その歴史は1965年にさかのぼる。遊び心あふれるファッショナブルな腕時計として登場し、それから60年経った現在も同じ印象を与える。縦横32mmのケースは、厚さ7mmと薄いため手首に乗りやすく、着用感は良好。「小さ過ぎるのでは?」と思う人は、実際に手に取ってみるとよい。32mmより大きく感じるはずだ。
スタイリストの新作にはブルー文字盤のモデルと、シルバー文字盤のモデルがラインナップされている。今回のテストウォッチにはブルー文字盤のモデルを選んだ。この腕時計を手にして、最初に目に付くのは文字盤と針だ。フュメやオンブレと呼ばれる、縁に向かって色が濃くなるスタイルの文字盤は、1970年代によく見受けられた。この腕時計では、あざやかなブルーが、縁のあたりではほぼブラックとなっている。細身のローマンインデックスと、それによくマッチした針は、この腕時計を実際よりも大きく見せている。
クッション型のケースも魅力的だ。ケース側面の縁部分はポリッシュで仕上げられており、その他の部分はサテンで仕上げられている。これらの仕上げは、実際よりもケースを大きく見せる視覚効果をもたらしていると言えるだろう。
腕時計全体からは、がっしりとした印象を受ける。しかしながら、我々が現在馴染んでいるストラップの幅よりも、少し狭いものがスタイリストには採用された。1970年台においては、このサイズの採用は一般的だったのだ。そのために、スタイリストにはわずかながらもヴィンテージな雰囲気が漂い、この新作が、スタイリストというモデル名を継承する腕時計であることを証明している。
クォーツ搭載だからこそ意味がある
3万9600円(税込み)のこの腕時計には、クォーツムーブメントが搭載されている。それは何の問題にもならない。その理由は、スタイリストにふさわしいケース厚を実現するために、クォーツムーブメントが選ばれているからだ。また、2針モデルであるため、クォーツムーブメントが搭載されているとは、すぐには気付かれないだろう。この点は腕時計好きに対する大きな訴求点となるはずだ。
スタイリストは、クォーツ革命の混乱の最中でティソを救い出した存在である。このモデルには代々クォーツ駆動のムーブメントが搭載されている。ゆえに、機械式でないこと正当の証しなのだ。
私が思うに、スタイリストは手に入れた瞬間から、その魅力にハマり、微笑みっぱなしになる楽しい1本だということである。この魅力にあふれた腕時計がリーズナブルな価格だという事実は、その微笑みをより大きくするに違いない。
![ティソ スタイリスト](https://www.webchronos.net/wp-content/uploads/2024/11/2-4.jpg)
クォーツ。SSケース(縦32×横32mm、厚さ7mm)。50m防水。3万9600円(税込み)。