性別、年齢を問わず大人気のカルティエ。「王侯貴族の御用達」「ブランドメージが良い」「品質が高い」。その理由はさまざまだ。でも、一番の理由はデザインの良さにあると言えるだろう。他にはない、しかしどこでも使えるカルティエが持つデザインの魅力を、「サントス」と「タンク」で解き明かしていこう。これらが万人に愛される定番となったのには、明確な理由がある。
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
[2025年3月20日公開記事]
カルティエを扱う名店に2大時計誌の編集長に突撃取材
『クロノス日本版』広田雅将編集長と『Hodinkee Japan』関口優編集長による人気動画企画。今回はカルティエを愛して止まない2大時計誌の編集長が、カルティエを取り扱う老舗時計店に突撃取材を行った。
【対談動画URL】
https://youtu.be/4IFdPq2slbo
動画内容
広田雅将編集長は神奈川県にある「COMMON TIME 横浜元町本店」に出向き、運営会社であるCHARMYの代表取締役、田中孝太郎氏と対談。「カルティエと色気」をテーマに、話に花を咲かせた。
対する関口優編集長は愛知県の「HASSIN」と兵庫県の「カミネ トアロード本店」の2店舗を訪問。HASSINでは取締役副社長の神谷香扶里氏から、顧客のカルティエ愛溢れるエピソードを聞いたほか、創業者であり父である神谷芳弘氏とのカルティエにまつわる思い出話を語ってもらった。
カミネ トアロード本店では、カミネの代表取締役社長である上根亨氏に話を聞く。今回の3店舗で最も長くカルティエを取り扱ってきたカミネならではのエピソードトークの数々は必見だ。
多彩なデザインが広げたカルティエウォッチの可能性
時計のデザインと言えば丸が当たり前。そんな常識に一石を投じたのがカルティエだ。1904年に生まれたとされる「サントス」は、四角いケースにベルトを取り付けるラグを固定したモデル。1916年に発表された「タンク」も、戦車のデザインにインスピレーションを得た、四角いケースを特徴としていた。
今でこそ丸でないケースはあたりまえ。しかし、ケースの作り方に制約のあった当時、丸でないケースを作るのは大変に難しかったのである。ジュエリーを作ってきたカルティエだからこそ、の型破りな造形だったわけだ。
マルチパーパスなキャラクターを持つ「サントス」
世界初の量産型腕時計と言われるサントス。その後継機が、「サントス ドゥ カルティエ」だ。ベルトを留めるラグをケースと一体化させたデザインは、後のすべての腕時計に大きな影響を与えた、と言ってよい。

こういうデザインとなった理由は、注文主のサントス・デュモンが、飛行船や飛行機を操縦するときにも時間を見られるという要望を出したため。ラグをケースと一体化させることで、ベルトは外れにくくなったのである。つまり、サントスはスポーツウォッチの先駆け、と言えるだろう。
着用シーンを選ばない万能時計「サントス ドゥ カルティエ」
スポーツウォッチの先駆けとも言えるサントス。そのキャラクターを強調したのがサントス ドゥ カルティエだ。サイズは大きく見えるが、腕乗りは抜群。理由は時計の全長を短くし、ケースの厚みを10mm以下に収めたためだ。

2018年に発表されたサントス ドゥ カルティエ。デザインは1978年の「サントス ガルベ」に倣っているが、自社製の良質なケースとブレスレットと、磁気帯びしにくく、巻き上げ効率の高い自社製自動巻きを搭載する。10気圧防水にもかかわらず、ケースの厚みは9.08mmと、ドレスウォッチ並みに薄い。ブレスレットとストラップを簡単に交換できるため、シチュエーションを問わず使えるのも魅力だ。自動巻き(Cal.1847MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS×18KYGケース(縦47.5×横39.8mm、厚さ9.08mm)。10気圧防水。184万8000円(税込み)。
時間の見やすさもこのモデルの大きな特徴だ。カルティエのお家芸であるローマ数字のインデックスは、縦方向に潰しても、横に幅が取れるため時間を把握しやすいのだ。また、5分ごとのマークを強調することで、分単位で正しく時間を確認できる。

かといって、スポーツに振らなかったのがカルティエの上手さだ。ガラスを固定するベゼルをあえてツヤありの仕上げに変えることで、スポーツウォッチとは違う印象を加えた。また、針もスポーツウォッチに比べてかなり細めだ。スポーティーだが、決してそれだけでないのがサントス ドゥ カルティエの魅力なのだ。

自動巻き。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SSケース(縦47.5×横40.2mm、厚さ10.01mm)。10気圧防水。145万2000円(税込み)。
そんなサントス ドゥ カルティエには、もうひとつの時間をひと目で把握できるデュアルタイムも存在する。ツールウォッチらしさを強調するため、文字盤はグレー仕上げ。そして針には夜光塗料を加えている。

同作でカルティエの上手さを感じさせるのが、メタル調のインデックスだ。同系色の文字盤とインデックスを合わせると、デザインの統一感は上がるが、時間は読み取りにくくなる。そこでカルティエはインデックスを立体的に盛り上げて、時間を把握しやすくした。

手巻き(Cal.9612 MC)。20石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KYGケース(縦47.5×横39.8mm)。10気圧防水。1102万2000円(税込み)。
もうひとつ、カルティエが得意とする技法にムーブメントをくり抜くスケルトンがある。普通、この手の時計を作る際は、今まであるムーブメントをベースに改造するが、カルティエはデザインのため、わざわざ1からムーブメントを起こし、時計の「ヌケ感」を強調した。
Ref.WHSA0042で注目したいのが、ローマ数字のインデックスだ。これをムーブメントを支える土台にすることで、ムーブメントを一層すっきりと見せている。

ドレッシーながらも遊び心を持つ「サントス デュモン」
さまざなシチュエーションで使えることを意識したサントスコレクション。その中でも、いっそうドレッシーに振ったのが「サントス デュモン」だ。

カルティエらしいユニークさを持つ時計。ケースの一部とストラップをあえてツヤ消しにすることで、ありきたりなドレスウォッチとは異なる印象となった。ドレスウォッチに振ってはいるものの、「万能時計」サントスらしい要素は損なわれていない。ストラップは細身。しかし、細くしすぎないことで、男性にも女性にも向くようなデザインとなっている。手巻き(Cal.430 MC)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。18KRGケース(縦46.6×横 36.9mm、厚さ7.5mm)。3気圧防水。265万3200円(税込み)。
デザインのベースはサントス ドゥ カルティエに同じ。しかしケースは一層薄く、例えばスーツやドレスに合うよう、デザインはより細身に。

とはいえ、普通のドレスウォッチと異なり、どこかにスポーティーな要素を加えたのがカルティエらしい。たとえドレスウォッチと言えども、カルティエは決してありきたりの仕立てにはしないのである。それを象徴するのが、あえてモノトーンでまとめ上げたRef.WSSA0046だ。

手巻き(Cal.430 MC)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(縦43.5×横31.4mm)。3気圧防水。95万7000円(税込み)。
ケースが黒く見えるのは、ケースを削り、そこにブラックのラッカーを流し込んだため。文字盤もブラック、そしてインデックスをシルバーにすることで、モノトーンを一層強調している。なお現在、ケースにラッカーを流し込む手法を量産モデルに使っているメーカーは世界でもカルティエだけだ。そのためか、同作は非常に人気を得ているようで、入手困難な状況が続いているという。

面白いのは針の処理だ。サントス ドゥ カルティエと異なり、あえて針からは夜光塗料が省かれている。あくまでもドレスウォッチ、というカルティエの主張だろう。またムーブメントには、傑作手巻きムーブメントのCal.430 MCを搭載する。
ハイジュエラーならではの技術が活かされた「タンク」
第一次世界大戦で活躍した戦車(タンク)。その意匠に触発されたのが、カルティエの「タンク」だ。確かにその四角いデザインと、ケースサイズに対して極めて太いストラップは、タンクを思わせるものだ。このデザインを可能にしたのは、カルティエがジュエラーだったため。

当時、時計のケースは丸い棒材を削って作っていた。そのため、ケースデザインは丸が標準的だった。対してカルティエは、四角い部品を溶接することで、ユニークな造形を実現した。棒材ではなく板でケースを作るという手法は、ジュエラーならではだ。
もっとも、こういう凝った作り方をしていたため、その生産数はごく限られていた上、防水機能を与えることも難しかった。しかしケースやブレスレットを社内で作るようになって以降、カルティエはオリジナルの形はそのままに、防水性能を持たせることに成功したのである。
往年の造形を引き継ぐ「タンク ルイ カルティエ」
タンクの王道と言えば、長方形のケースを持つ「タンク ルイ カルティエ」だ。1930年代に完成したデザインだが、今もって古く見えないのがデザインの力か。しかしながら、デザインには細かく手直しが施されている。

手巻き(Cal.1917 MC)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。18KRGケース(縦33.7×25.5mm、厚さ6.6mm)。30m防水。205万9200円(税込み)。
例えば、インデックスはわずかに太くされ、風防を支えるケースの上下もわずかに厚くされた。少し骨太にすることで、モダンさを加えたのである。太いインデックスにはもうひとつメリットがある。小さいサイズのモデルを選んでも、時間が読み取りやすいのだ。

これらは男性にも女性にも同じデザインを提供しようとする、カルティエらしい配慮だ。また、ケースの丸みを強調することで、女性にも一層似合うデザインとなっている。
「タンク ルイ カルティエ」のカラー文字盤モデルはよりシンプルに
四角い造形を持つタンク。それを一層強調したのが、タンク ルイ カルティエのカラー文字盤だ。あえてインデックスを省き、CARTIERのロゴだけを残した文字盤は、デザインに自信があればこそである。
また、同作の優れた品質にも触れておきたい。鏡のように歪みのないケースに合わせるように、ラッカー仕上げの文字盤も、表面はフラットに仕上げられた。
普通、ツヤのある文字盤は時間が読み取りにくい。対してカルティエは、針をわずかに太くし、立体感を増すことで見やすくした。シンプルだからこそ、カルティエの配慮が際立っている。
手巻き(Cal.1917 MC)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。18KRGケース(縦33.7×25.5mm、厚さ6.6mm)。30m防水。205万9200円(税込み)。
あなたにも必ず似合うカルティエがある
カルティエの面白さは、ごく一部の時計をのぞいて、男女問わず使えるようなデザインとなっている。例えばタンク ルイ。骨太なデザインを少し丸くすることで、女性が着けても違和感がない。
また、サイズの小さなモデルであっても、インデックスや針のバランスが大きなサイズと変わらないため、いかにも女性用を着けているという印象を与えないのである。
しかも、ここで上げたモデルの基本的なデザインは、それこそ100年以上変わっていないのだ。つまり、誰が着けても、いくつになってもカルティエは似合うのである。
その証拠に、アンティークの市場では、昔のカルティエの女性ものが人気を得つつある。理由は、女性だけでなく、男性も使うため。これほど万人向けのデザインを作り続けてきたメーカーが、世界のどこにあるだろうか