2022年、シチズンから新生“フジツボダイバー”として「プロマスター メカニカル ダイバー 200m」が登場した。シチズンのダイバーズウォッチは、独自の技術・素材・デザインを極めたトガった「らしさ」がある。だが、プロマスター メカニカル ダイバー 200mは、オーソドックスな見た目のダイバーズウォッチだ。それはあくまで「一見」である。シチズンは安易な真似はしない。そのディテールはひとひねりを加えた「見るべき」特徴を備えているのだ。シチズンのダイバーズウォッチの歴史と共に、この腕時計に施されたディテールに迫ろう。なおこの記事は、アメリカの時計専門ウェブメディア『watchtime.net』に掲載された記事の翻訳版だ。
2022年、“フジツボダイバー”復活
1983年、シチズンの「チャレンジダイバー」がオーストラリアのビーチで見つかった。太平洋の海中に数年浸かっていたため、この日本製のダイバーズウォッチは多数のフジツボに覆われていた。にもかかわらず、すぐに再稼働し始め“フジツボダイバー”のニックネームが付いた。2022年に発表されたシチズンの「プロマスター メカニカル ダイバー 200m」は、チャレンジダイバーのデザインを継承したモデルである。

シチズンのダイバーズウォッチを振り返る
1982年、シチズンは水深1300mの防水性能を誇る「プロフェッショナルダイバー」を発表。この腕時計のケース素材はチタンという、今までのダイバーズウォッチでは用いられなかった素材を採用したのである。1980年代初頭は、シチズンのダイバーズウォッチが時計業界で独自の地位を築きはじめた時代であった。

国外では「アクアランド」。「プロマスター」コレクションが発足してからは「プロマスター アクアランド」となった。クォーツ(Cal.C020)。200m潜水用防水。終売モデル。
その例を見ていこう。1985年に発表された「デプスメーター」は、9時位置に電子エレクトロニクス水深計を取り付けたモデルだ。1989年に「プロマスター」コレクションが誕生。コレクションに含まれる「プロマスター 1000m」からデザインは、以前にも増して洗練されるようになった。このモデルには、“オートジラ”という愛称が付けられている。
なお、その進化系である「プロマスター エコ・ドライブ プロフェッショナルダイバー1000m」は2017年に登場。そのプロトタイプはしんかい6500という深海調査用の潜水調査船にくくり付けられ、水深1000mよりも奥深くへと潜ったのである。

光発電エコ・ドライブ(Cal.J210)。フル充電時約1.5年駆動。スーパーチタニウムケース(直径52.5mm、厚さ22.2mm)。1000m飽和潜水用防水。33万円(税込み)。
続けて近年のダイバーズウォッチに目を向けよう。2006年に発表された「プロマスター エコ・ドライブ ダイバー200m」は、オルカ(シャチの英語名)の愛称で親しまれている腕時計である。機能的なダイバーズウォッチであっても、デザイン的に最先端かつユニークな外観のモデルが可能であることを証明した。

2023年に「日本上陸」を果たしたモデルのうちのひとつだ。オリジナルの“オルカ”のケースはチタン製だが、このモデルのケースはステンレススティール製だ。光発電エコ・ドライブ(cal.E168)。月差±15秒。SSケース(直径46mm、厚さ14.6mm)。200m潜⽔⽤防水。6万6000円(税込み)。
シチズンのダイバーズウォッチに多く見受けられる特徴をまとめよう。まずは光発電エコ・ドライブを搭載。そして、モダンなデザイン。最後にチタンケースの採用だ。シチズンは世界で初めて腕時計のケースにチタンを用いたブランドである。1970年代に登場した「エックスエイト クロノメーター」がそれだ。シチズンのダイバーズウォッチにチタンが多く採用されている理由は、その系譜を引いているからではないだろうか。

電子式(Cal.0800)。終売モデル。
上記の特徴から外れたダイバーズウォッチもシチズンは製造していた。そのひとつの例が8時位置にリュウズが配された“フグ”という愛称のモデルである。なお、フグとは日本語の「フグ」のことだ。この腕時計は1993年に登場し、伝説となったモデルである。
新生“フジツボダイバー”誕生
そして2022年、シチズンはプロマスター メカニカル ダイバー 200m(ブラック文字盤Ref.NB6021-17E、ブルー文字盤Ref.NB6021-68L)を投入。現代版“フジツボダイバー”が誕生した。シチズンはここ50年ほどの中で抑えの効いたオーソドックスなデザインを復活させ、さらにCal.9051という現代的な機械式ムーブメントを採用。ステンレススティールよりも傷への耐性があり、40%も軽量なシチズン独自の宇宙時代に対応した素材、スーパーチタニウムが採用されたモデルだ。

自動巻き(cal.9051)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。スーパーチタニウムケース(直径41mm、厚さ12.3mm)。200m潜水用防水。11万5500円(税込み)。
Cal.9051は日差が−10/+20秒の間に調整されたものであり、テンプや周辺のパーツに磁気帯びしづらい部品を用いることで、耐磁性を強化している。シチズンの発表によれば、1万6000A/Mの磁場を発する機器から1cmほどの位置に置いたとしても、このムーブメントはパフォーマンスを落とすことなく稼働するのだそうだ。日常的に使用するスマートフォンはもちろん、船上で電子コンパスと合わせての使用も可能である。

自動巻き(cal.9051)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。スーパーチタニウムケース(直径41mm、厚さ12.3mm)。200m潜水用防水。14万3000円(税込み)。
プロマスター メカニカル ダイバー 200mはISO基準に準拠したダイバーズウォッチであることを付け加えておこう。これは冗談なのだが、既存のどのモデルよりもフジツボ耐性も高いのではないだろうか。
シンプルに見えて凝ったディテール
チャレンジダイバーが発売された1960年代〜1970年代には、シチズンは腕時計の「デザインを洗練させる」という方向性を打ち出していなかったように思われる。その外観は、シンプルなケースにメルセデス針と大振りなインデックス、ブラックカラーのベゼルを組み合わせた一般的なものだった。
本作はシンプルかつ一般的なデザインの腕時計という印象を覚えるかもしれない。だが、よくよく観察してみると、特徴的なラグ、ポリッシュ仕上げが施されたベゼルなど、通常のダイバーズウォッチとは異なる、興味深いディテールが発見できるはずだ。
また、本作はオリジナルを忠実に再現した印象を受ける。ベゼルはアルミニウムがインサートされたもので、でやや大きな数字が配されたものだ。ケースはオリジナルでは150m防水だったものが、200m防水に高められている。なお、ケースの厚さは12.3mmと薄めである。ベゼルはポリッシュ仕上げであり、ケースはヘアライン仕上げだ。

サファイアクリスタル製風防の形状を見てみよう。上部はフラットだが、内側はドーム状にカットされている。そしてその角は大々的に面取りされているため、厚みのあるレトロな印象を与える外観なのだ。
これらの要素が適切に組み合わさり、他のダイバーズウォッチとは異なる、特別な価値を持つ腕時計となったのだ。そして、厚く出っ張ったインデックス、ロリポップ秒針、部分的にスケルトン仕様の時針は、驚くほど上手くこの腕時計の中で調和している。
単にシンプルだが質実剛健な裏蓋

なお、裏蓋とバックルはどちらも比較的シンプルな構造だ。この価格帯の腕時計ならば、プラスチック製のムーブメントホルダーが採用されるのは当然だろう。これを採用することは、重量を抑えることにもつながるのである。
ストラップだけは改善の余地あり
ただし、ストラップに限っては、本作全体の雰囲気から、浮いた印象を覚えてしまうのはいただけない。とはいえ、このストラップの着け心地は快適である。トロピック仕様のストラップや、質感の良いNATOストラップといったオプションを選べば、抑えめデザインを採用したこの腕時計のよいアクセントとなるだろう。
結論:じっくり見ると、その良さの分かる腕時計
ストラップだけが気になるところではあるが、それを除けば復活した“フジツボダイバー”は非常に良い出来なのである。ブラック文字盤のRef.NB6021-17Eの定価は11万5500円(税込み)だ。自らのコレクションにCal.9051を加えたいという人には、魅力的な予算感であろう。
伝統のチタン製ケースとシチズンのダイバーズウォッチの歴史に裏付けられた“フジツボダイバー”は、デザイン、フォルム、スペックを考えると、この価格帯では非常に魅力的な腕時計だ。確かに光るものを持つ腕時計ではあるが、その良さはすぐには見えてこない。この腕時計の真価を見出すには、よく観察する必要があることを付け加えておく。