2025年1月にオメガからリリースされた、「シーマスター アクアテラ」のターコイズカラー文字盤。早速着用する機会を得たので、実機レビューする。本作は、各社が注力する「文字盤の表現」において傑出していることはもちろん、腕時計のジェンダーレス化の最先端と言うべき快作だと感じた。
Photographs & Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2025年2月21日公開記事]
オメガの最新「シーマスター アクアテラ」はターコイズカラーを使った文字盤
2025年1月、オメガの「シーマスター アクアテラ」に、新しいモデルが加わった。文字盤が、ターコイズカラーからブラックへとグラデーションする、独創的な新作である。
直径41mmケースと直径38mmケースの2種類が展開されており、今回後者の、38mm径のモデルを着用することができたので、本記事でレビューしていく。
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自動巻き(Cal.8800)。2万5200振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径38mm、厚さ12.3mm)。150m防水。102万3000円(税込み)。
“サマーブルー”に続くグラデーション文字盤の快作!
近年の時計業界では、外装技術の進化が著しい。特に分かりやすいのが、文字盤の“色”だ。ブラックやホワイト、ブルーといった単色のみならず、中間色やグラデーションカラーを採用したり、繊細な装飾にこういったさまざまなカラーを与えたりと、色を使った表現によって、各社は文字通り「多彩」な文字盤を打ち出している。
同一コレクションの中で多数のバリエーションを展開することで、幅広いユーザーにリーチしてきたオメガであればこそ、この昨今の「文字盤競争」においても、他社から頭ひとつ抜きんでているのはうなずける。先日、オメガのレディースウォッチについての記事を公開しており(オメガの人気レディースモデルから、広報担当者がおすすめを厳選。時計女子に買ってほしい1本はこれだ!)、この記事の中でも言及しているが、広報担当者から「オメガは、例えば同じ青であっても、トーンが同じではないから文字盤色の呼び名を変える」聞いたことが、とても強く印象に残った。
そんなオメガが打ち出したターコイズカラー文字盤が、悪かろうはずもない。実際プレスリリースを見た時は心が躍ったし、実機を見て、いっそうそのデザインの虜になった(オメガの広報画像は実機とそこまで変わらないように思うものの、やはり腕時計全体として実機を見ると、良さが直に伝わる)。
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この文字盤が特別なのは、ただターコイズカラーが使われているというのではなく、徐々にブラックへとグラデーションさせられている点だ。ラッカーで表現されたこのグラデーションに不自然さはなく、かつ表面は歪みがまったくなくフラットで、オメガの文字盤製造の腕前が感じられる要素となっている。
オメガのグラデーションの妙は、2023年、「シーマスター」誕生75周年を記念して打ち出された“サマーブルー”エディションで、すでにご存じの読者もいるだろう。このサマーブルーエディションの出来栄えも見事なものであり、本作はこのエディションに続く快作と言える。ちなみにサマーブルーエディションでは防水性に由来した海の深度が文字盤で表現された。このターコイズカラーも、海からインスピレーションを得ているのだという。
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本作の文字盤はポリッシュされており、しかしツヤが強くなく、またシーマスター アクアテラによく見られるサンレイ仕上げが施されていないため、落ち着いた印象を与える。この印象には、グレーPVDによるインデックスや針、ブラックのカレンダーディスクも一役買っている。ちなみにこのグレーはかなり濃く、画像や実機を見た時はブラックかと思った。
立体的で十分な大きさの針・インデックスは判読性にも優れており、強い光源下でも見にくいと感じることはなかった。
腕時計のジェンダーレス化の最先端
以前、「シーマスター アクアテラ シェード」を着用レビューした(“良い腕時計”を所有する愉しみ。オメガ「シーマスター アクアテラ シェード 38mm」を着用レビュー)。この“シェード”は今回のレビューモデルと外装が共通している部分が多く、ケース径は同じ38mm。ブレスレットも、これまでシーマスター アクアテラではおなじみであった幅広のものより細かく、丸形のコマが連なったタイプとなっている。
そのため本作のケース径は、女性で、かつ手首回り14.7cmの自分にとってはやや大きく、厚みも重量もそれなりにあるにもかかわらず、すこぶる装着感が良いということは予想できていた。そして今回も着用中、ほとんどストレスを感じなかった。
8コマ抜いた状態でも重量は120gであったため、最初のうちは重いと感じたものの、すぐに慣れた。一般的に自分自身の手首幅よりも大きく、厚みを持ったケースは、小径薄型ウォッチと比較して着用感は悪くなる。しかし本作、というかオメガの腕時計の多くは全長が短く(本作は44.9mm)、またヘッドが重くともブレスレットも重量を持たせることでバランスが取れているため、着け心地がよいのだ。こういった装着感が考えられた設計にも、「やっぱりオメガはすごいよ」と思わされる。なお、さらに以前、41mm径の「シーマスター ダイバー300M パリ2024」を着用したことがある。自分にとってはかなり大きいサイズのこのモデルも、快適に身に着けられたことを記しておく。
コマが小さいので、手首回りピッタリのサイズに合わせやすいことも、優れた装着感に寄与している。ちなみにブレスレットから外せるコマが結構あるのもミソ。私は着用時、8コマ外してもらったが、まだあと8コマ外せるようになっており、かなり手首の細いユーザーにも対応してくれるだろう。
このサイズに関して驚かされたのが、バックルに微調整機能が付加されていたということだ。特許を取得したコンフォートリリース調整機構だ。
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一見すると、普通のバックル。しかし実は、開いた板の部分に、スライド式に動くコンフォートリリース機構が搭載されており、工具なしで微調整を行うことが可能なのだ。微調整機構は手首がむくんでブレスレットがきつくなってきた時に少し緩める、など、便利な反面、搭載するとバックルが厚みを持ちやすくなる。しかしオメガはこの機構を、厚みや見た目を大きく変えずに備えているのだ。オメガウォッチの「装着」に関する実用性は、さらに高まったと言えるだろう。
このように、幅広い手首サイズのユーザーに寄り添った設計の本作は、“腕時計のジェンダーレス化”の最先端をいくように思う。
男性ユーザーが多い時計市場で、かつて女性向けのモデルというと小型なクォーツウォッチがシェアのほとんどを占めていた。「大きいサイズの機械式時計が好き」といった女性は、その選択肢の狭さに苦労したかもしれない。逆もまたしかりで、「小型なケースサイズの腕時計が欲しいけど、選択肢がレディースモデルになってしまう」といった経験をした男性もいるだろう。しかし近年、腕時計の世界にもジェンダーレス化の波が来ていると感じる。同じコレクションでケースサイズのバリエーションに幅を持たせたり、男女どちらも使いやすいデザインを採用したりといったブランドが出てきているのだ。
そんな中でオメガは、ただサイズを小型化したりバリエーションを増やしたりするにとどまらず、男女問わず心地よく身に着けられる設計の腕時計を製造している。オメガは特に「ユニセックス」とうたっているわけではないためこの意図のありなしは分からないものの、同ブランドの製品は間違いなく女性も男性も選択しやすい腕時計であり、ジェンダーレスの波においても、一歩先に進んでいると感じる。
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分かっちゃいたけど、やっぱりすごい!
2025年1月にリリースされた、オメガの「シーマスター アクアテラ」ターコイズカラー文字盤を着用レビューした。
オメガのシーマスターは何度か着用させてもらっているし、これまで他の製品も多数見てきた。だから、このブランドの腕時計の完成度が高いことは理解しているつもりだ。しかし分かっちゃいても「やっぱりすごい!」と快哉を叫ばずにいられないほど、本作は独創的で、優美な文字盤を備えていた。
同時に、オメガの、多彩なバリエーションを用意することで幅広いユーザーのニーズに応える戦略も知ってはいたものの、一般的なメンズサイズのモデルであっても手首幅に大きく左右されない装着感を追求する姿勢は、近年の時計業界のジェンダーレス化の波において、最先端をいくことも本作によって気付かされた。
「男女問わずオススメです」。やや陳腐だけど実は結構難しいこの表現。シーマスター アクアテラなら、文句なしに使えるだろう。