現存する世界最古の時計ブランドと言われ、創業から今年で290周年を迎えるブランパン。現在はル・ブラッシュとル・サンティエに製造拠点を構える同社だが、その始まりはジュラ山脈にある小さな村、ヴィルレであった。この村の名前は現在、ブランパンにおいてドレスウォッチコレクションとして残っている。創業地の名を冠し、ブランドの長い歴史を象徴する「ヴィルレ」コレクション。中でも人気モデルである「ヴィルレ コンプリートカレンダー」に焦点を当てつつ、ヴィルレが傑作ドレスウォッチと称される理由を見ていきたい。
月、曜日、日付、ムーンフェイズ表示を備えた、「ヴィルレ」を代表するモデル。情報量の多いコンプリートカレンダーウォッチだが、適度な余白を確保することでドレスウォッチらしい優雅さを感じさせる。自動巻き(Cal.6654.4)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.9mm)。3気圧防水。238万7000円(税込み)。
Photographs by Senta Murayama
野島翼:取材・文
Text by Tsubasa Nojima
[2025年3月5日公開記事]
ブランパンの代表作「ヴィルレ」を歴史とともに振り返る
現存する世界最古の時計ブランドと言われるブランパン。同社の歴史は1735年、スイス・ヴィルレ村の村民名簿に、ジャン=ジャック・ブランパンが時計職人として登録されたことによって始まる。当初は小さな工房であったが、ジャン=ジャック・ブランパンの孫であるフレデリック=ルイ・ブランパンや、さらにその息子であるフレデリック=エミール・ブランパンの手によって近代化を果たし、1859年にはジュウ渓谷のル・ブラッシュにアトリエを開設するなど、着実に発展を遂げていった。
1932年、7代目にあたるフレデリック=エミール・ブランパンの死去によってブランパン創業家による経営は途切れたが、彼を長年支えてきたベティ・フィスターが経営を引き継ぐことでブランドが継続された。その後も、レディース向け自動巻きムーブメントを搭載した「ロールス」や、モダンダイバーズウォッチの基礎を築き上げた「フィフティ ファゾムス」をはじめとするエポックメイキングなモデルを世に送り出し、時計業界の発展に貢献。1961年にはSSIH(現スウォッチ グループ)の傘下に収まるものの、事業環境の変化に伴い休眠状態に陥り、その後1982年にジャック・ピゲとジャン=クロード・ビバーによる買収を経て、復興を果たした。
創業地である「ヴィルレ」の名を冠したコレクションが登場したのは2002年のこと。しかしながらそのルーツは、1983年よりブランパンから立て続けに発表された「シックス・マスターピース」にさかのぼる。ダブルステップベゼルやローマ数字インデックスなどのドレッシーな意匠を取り入れたデザインのコンプリケーションウォッチで構成されるシックス・マスターピースは、クォーツ式腕時計が主流となりつつあった当時において、機械式腕時計の魅力を世に知らしめるに十分な衝撃を与えた。
そのラインナップは、「コンプリートカレンダー」「ウルトラスリム」「パーペチュアルカレンダー」「ミニッツリピーター」「スプリットセコンドクロノグラフ」「トゥールビヨン」、そしてそれら6つの機能をひとつの腕時計に集約させた「グランド・コンプリケーション」である。歯車が重なり合い紡ぎ出す命の鼓動が、機械式時計という文化に再び火を灯し、今日におけるヴィルレコレクションとして受け継がれているのだ。
「ヴィルレ」一番人気のモデルは“らしさ”が全部載せ
さまざまなバリエーションが展開されるヴィルレの中で、代表的なモデルが「ヴィルレ コンプリートカレンダー」である。このモデルは同コレクションの象徴的な存在であり、顧客からの人気も最も高い。ここでは、そんなヴィルレ コンプリートカレンダーの魅力を深掘りする。
ヴィルレで一番人気のモデルとは?
時刻表示に特化したシンプルな薄型モデルからクロノグラフ、さらにはチャイニーズカレンダーやカルーセルなどの超複雑モデルまで、多くのラインナップを擁するヴィルレだが、その中でも特に人気を集めているのが、ヴィルレ コンプリートカレンダーだ。本作は、1983年に登場したシックス・マスターピースの第1作と同じ、コンプリートカレンダー機能(日付・曜日・月・ムーンフェイズ表示)を搭載したモデルである。
ダイアル上には、12時位置のふたつの小窓に月と曜日、インデックスのやや内側に指針式の日付表示、6時位置にムーンフェイズ表示が配されている。直径40mmのケースを採用することで創出されたダイアルのゆとりが、特徴的なフォントのローマ数字インデックスや、ミニッツマーカーを省いたデザインとともに、ドレスウォッチにふさわしい優雅さを醸し出す。
ブランパンの再興を象徴するシックス・マスターピースの伝統を継承するヴィルレ コンプリートカレンダー。その魅力について、アンダーラグコレクター、ムーンフェイズ表示、ダブルステップベゼル、針、インデックスとローターという、“らしさ”を体現する6つのポイントから探っていきたい。

マニュファクチュールによって実現される6つのアイコン
複雑機構を持つ時計は、プッシュボタンやコレクターを備えていることが多い。リュウズだけでは全ての機能を制御または調整することが困難であるためだ。本作のようなコンプリートカレンダー機能を搭載した腕時計では、ケースサイドにコレクターを配し、それを棒状の工具で押してカレンダーの調整をすることが一般的である。シンプルかつ合理的な方法だが、ブランパンはそこに改良すべき点をふたつ見出した。まずはケースサイドにコレクターが付くことで、単純に審美性が損なわれてしまうこと。もうひとつは、工具がなければカレンダーを調整することができないということだ。これらを克服するものとして同社が開発した機構が、アンダーラグコレクターである。
アンダーラグコレクターは、その名の通りラグの裏側に備わったコレクターであり、指先で押し込むことによって簡単に操作できるという特徴を持つ。着用時には目立たず、しかし必要な時には指先で操作できるこの機構によって、ヴィルレ コンプリートカレンダーは他の複雑なカレンダーウォッチに比べて、優れた利便性と審美性を獲得することができたのである。
なお、操作系の開発においては、誤作動の防止や耐久性にも留意しなければならない。ラグの裏側は肌と触れ合う箇所であり、脱着時には肌との摩擦が発生する。さらに、ケースバック付近は汗がたまりやすく、ケース内に浸水しないように防水性を確保することが求められる。アンダーラグコレクターはこれらをクリアにする、繊細なバランスの上に成り立つ技術の結晶なのである。
ブランパンを象徴する要素として、ムーンフェイズを思い浮かべるユーザーも多いのではないだろうか。扇形の小窓からのぞく顔が描かれた月は、ブランパンらしさにあふれたチャームポイントだ。ちなみにこの顔はメンズモデルとレディースモデルで異なっており、レディースモデルでは長いまつげと星形のつけボクロがあしらわれているものもある。
ダブルステップベゼルも、ヴィルレコレクションに共通する特徴だ。ベゼルを二重とすることで柔らかな丸みのあるデザインを強調し、光が生み出す陰影によって立体的な表情を際立たせている。ドレスウォッチのケースデザインはシンプルなものが多く、差別化することが難しい。ダブルステップベゼルは、一目見ただけでヴィルレと分かる、アイコニックな意匠のひとつなのである。

時分針は中央を切り抜いたセージの葉のようなデザイン。日付を示すのはブルーのサーペント針。真っすぐに伸びる秒針には、創業者ジャン=ジャック・ブランパンのイニシャルをあしらったカウンターウェイトを配している。それぞれの針に特徴を持たせることで、情報量の多くなりがちなコンプリートカレンダーウォッチに優れた判読性を与えているのだ。指し示すべきインデックスや目盛りに到達する長さであることも、判読性を高めるためのポイントだ。細部にまで、老舗時計ブランドらしい抜かりのなさが見て取れる。
鏡面に磨き上げられた18Kゴールド製のアプライドインデックスも、本作の見どころのひとつ。クラシカルな印象になりやすいローマ数字インデックスでありながら、専用の書体を採用し、やや背を高くすることでモダンさを忍ばせている。鏡面仕上げのインデックスでは視認性が気になるところだが、本作ではダイアルにマットな質感を与えることでコントラストを生み出し、インデックスの存在を強調している。
また、インデックスと同じく18Kゴールド素材を採用しているのが、ムーブメントに搭載された自動巻きローターだ。光の当たり具合によって表情を変える独自のパターンに加え、ゴールド特有の華やかさが、高い審美性を発揮している。比重の高い金属であるゴールドは、ローターの回転による巻き上げ効率の向上にも寄与しており、実用面におけるメリットもある。
豊富なバリエーション
さまざまなバリエーションがラインナップされていることも、ヴィルレ コンプリートカレンダーの魅力である。ケースの素材では、普段使いしやすいステンレススティールやパーティーシーンにもふさわしい18Kゴールド、ダイアルカラーは落ち着きのあるホワイトやグレーから、鮮やかなブルーやグリーンまでが用意されている。着用シーンや好みに合わせて、最適な1本を選択することができるのだ。針やカレンダーディスク、ムーンフェイズの月、レザーストラップなどの色は、ケースやダイアルに調和した色合いに仕上げられており、細部の審美性にまで気を配られていることが分かる。
18Kレッドゴールド製ケースとミッドナイトブルーのダイアルを組み合わせた華やかなモデルから、ビジネスシーンでも使いやすい落ち着きのあるグレーダイアルモデルまで、幅広くラインナップされるヴィルレ コンプリートカレンダー。カラーリングだけでも印象がガラリと変わる。自動巻き(Cal.6654.4)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。(左)18KRGケース(直径40mm、厚さ10.9mm)。3気圧防水。429万円(税込み)。(右)SSケース(直径40mm、厚さ10.9mm)。3気圧防水。238万7000円(税込み)。
ヴィルレらしさをよりシンプルに堪能したいユーザーにお勧めなのが、「ヴィルレ ウルトラスリム」だ。時分秒の3針に日付表示という構成を持つ本作には、ヴィルレ コンプリートカレンダーと同じローマ数字インデックスとセージの葉をモチーフとした針が採用されている。月と曜日の小窓やムーンフェイズ表示が存在しない分、ダイアル中央には広い余白が設けられ、ドレスウォッチらしい洗練されたデザインを楽しむことができる。
また、ウルトラスリムという名前が示す通り、ケースが薄型であることも特徴だ。自動巻きムーブメントを搭載するヴィルレ コンプリートカレンダーでも、ケース厚10.9mmと薄型であったが、ヴィルレ ウルトラスリムではケース厚8.7mmというすっきりとしたサイズ感を実現している。薄型であることは、ドレスウォッチに求められる要素のひとつ。本作であればシャツの袖口を邪魔することはないだろう。
端正なダイアルに薄型ケースを組み合わせた、正統派ドレスウォッチらしい佇まいを見せる「ヴィルレ ウルトラスリム」。シリコン製ヒゲゼンマイによる高い耐磁性や約100時間のパワーリザーブなど、優れた実用性も魅力。自動巻き(Cal.1151)。28石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約100時間。SSケース(直径40mm、厚さ8.7mm)。3気圧防水。157万3000円(税込み)。
実用性と審美性を両立するムーブメント
ここまで外装をメインに触れてきたが、ヴィルレの魅力はムーブメントにも詰まっている。ヴィルレ コンプリートカレンダーが搭載するCal.6654.4は、321個ものパーツで構成された機械式自動巻きムーブメントであり、加えてコンプリートカレンダー機能を搭載しながらも、5.32mmという薄さを誇る。ヒゲゼンマイには耐磁性に優れるシリコンを採用し、パワーリザーブは約72時間と、現代的なスペックを備えている点も特徴だ。
対して3針のヴィルレ ウルトラスリムが搭載しているのは、厚さ3.25mmの機械式自動巻きムーブメント、Cal.1151である。ふたつの香箱を備えることで、薄型でありながらも約100時間ものパワーリザーブを誇る。
いずれのムーブメントも18Kゴールド製ローターに加えて、ストライプ装飾と面取りを施した受けが与えられ、シースルーバックを通して存分に仕上げを鑑賞することが可能だ。数値上のスペックに関しては上述した通り申し分ないが、実用上の堅牢性においても信頼に足ることを付け加えておきたい。それぞれ同系統のムーブメントが、ダイバーズウォッチである「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」コレクションにも搭載されているのだ。
290年の歴史が培った、傑作ドレスウォッチづくりのノウハウ
1983年より段階的に発表されたシックス・マスターピースをルーツとするヴィルレ。数々の複雑機構を備えたシックス・マスターピースは、時代の中に消えゆく運命であっただろう機械式時計の可能性を証明し、その文化を継承させることに貢献した。その使命感や開拓者精神は、ヴィルレ村で誕生した小さな工房が発展を遂げる過程はもちろん、その後の実用的な女性用腕時計や近代的なダイバーズウォッチ開発においても見られるものである。
ヴィルレのデザインコード自体は1980年代に端を発するが、その中にはブランパンが歩んできた290年という長い歴史が込められている。シンプルでありながらもアイコニック、そしてクラシカルでありながらも際立った先進性が盛り込まれたヴィルレこそ、傑作ドレスウォッチと呼ぶにふさわしい。
ブランパンのコレクションを見るならブティックがお勧め
ブランパンは本記事で紹介したヴィルレのみならず、「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」や「フィフティ ファゾムス オートマティック、「エアコマンド」など、ロングセラーを多数有している。そんなコレクションの数々を実際に目で見るには、ブティックの訪問がお勧めだ。豊富な品ぞろえの数々を、ゆったりとした空間で楽しむことができる。
ここでは、ブランパンが現在日本国内で展開している、5つのブティックを紹介する。
東京のブティック
ブランパン ブティック 銀座
場所:〒104-0061
東京都中央区銀座7-9-18 ニコラス・G・ハイエックセンター4階
電話番号:03-6254-7233
ブランパン ブティック 伊勢丹新宿店
場所:〒160-0022
東京都新宿区新宿3-14-1 伊勢丹新宿店 本館5階 ウォッチ
電話番号:03-6380-1818
ブランパン ブティック 日本橋三越本店
場所:〒103-8001
東京都中央区室町1-4-1 日本橋三越本店 本館6階 ウォッチギャラリー
電話番号:03-6281-9953
大阪のブティック
ブランパン ブティック 大阪心斎橋
場所:〒542-0081
大阪府大阪市中央区南船場3-11-18 郵政福祉心斎橋ビル1階
電話番号:06-6281-1735
ブランパン ブティック 阪急うめだ本店
場所:〒530-8350
大阪府大阪市北区角田町8-7 阪急うめだ本店 6階 ウォッチギャラリー
電話番号:06-6313-0749
ブティック含む、全国のブランパンの取扱店は、以下のURLから検索できる。
https://www.blancpain.com/ja/sabisu/fanmaidian
Contact info:ブランパン ブティック 銀座 Tel.03-6254-7233
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