【2025年新作を早速ディープに解説!】オーデマ ピゲの150周年記念モデルは一見地味だが、史上空前の永久カレンダーだ!

2025.02.26

2025年に創業150周年を迎えたオーデマ ピゲは、その記念すべき節目に新しい永久カレンダーモデルを発表した。もっとほかの大作はないのか、という声も聞いたが、同社が1978年の永久カレンダーで再びコンプリケーションの世界に返り咲いたことを思えば、あえて永久カレンダーに絞ったのも納得だ。そしてこの新しい永久カレンダーは、あえて単品で発表するにふさわしいだけの中身を備えていた。これは、史上もっとも使いやすい機械式永久カレンダーなのである。

広田雅将(クロノス日本版):文
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
[2025年2月26日公開記事]


オーデマ ピゲに名声をもたらした永久カレンダー

 オーデマ ピゲは、1875年の創業から1940年代半ばまで、基本的にはコンプリケーションに特化した時計メーカーだった。手掛けてきた代表的な機構のひとつが、閏年まで自動で調整する永久カレンダーである。同社は1955年に永久カレンダーを搭載した初の腕時計をリリースしていたが、これが同社のシグネチャーになったのは1978年以降のことだ。

 1978年に発表されたCal.2120/2800は、厚さ3.95mmという当時世界最薄の自動巻き永久カレンダームーブメントだった。この記録を可能にしたのは、厚さ2.45mmのCal.2120に、デュボア・デプラ製のモジュールを加えるという設計。汎用のモジュールを製造していたデュボア・デブラは、ワイヤ放電加工機などを採用することで高級なモジュールの製造に乗り出し、オーデマ ピゲと共同で、永久カレンダーモジュールを完成させた。これは時計史上初となる、量産を前提とした(といっても以降の16年で7000本しか作られなかった)永久カレンダーだったのである。このムーブメントとモジュールは、やがて「ロイヤル オーク」にも転用され、コンプリケーションに新たな潮流、つまりは「複雑機構を載せたスポーツウォッチ」という新ジャンルを拓くことになった。


見た目はほぼ同じだが、中身は全く別物の新しい“パーペ”

 2025年2月25日に発表された150周年記念モデルは、永久カレンダーがシグネチャーとなった、オーデマ ピゲらしいものとなった。新たに開発された自動巻きパーペチュアルカレンダームーブメント、Cal.7138の特徴は、人間工学に基づいた設計である。具体的には、すべての機能の調整をリュウズだけで行える“オールインワン”リュウズの採用により、ユーザーはツールを使用することなく、永久カレンダーの調整が可能になった。同社の説明によると、開発期間は5年間、そして5つの特許を取得したとのこと。見た目こそ従来の永久カレンダーにほぼ同じだが、中身は全く別物なのである。

新しい“パーペ”、一体何が違うのか?

オーデマ ピゲが大々的に打ち出した150周年記念モデルは、一見地味なようにも思える。しかしその神髄は、使いやすさにある。

 ケースサイドのプッシュボタンでカレンダーを調整する既存のパーペチュアルに対して、新しいものは、リュウズだけですべてを操作できる。もっとも、このアイデア自体は決して新しくない。IWCが1985年に完成させた「ダ・ヴィンチ パーペチュアル」は、リュウズを1段引き出し、日付を合わせるように回すだけで、すべてのカレンダーを早送りできる優れものだった。私見を言うと、これは最も洗練された永久カレンダーである。

 オーデマ ピゲで複雑時計の開発に携わるルカス・ラッジは「IWCのパーペチュアルは偉大だ」と前置きした上で、カレンダーを進ませすぎると、その日が来るまで時計を止めるか、メンテナンスに出してカレンダーを調整してもらうほかなかった、と説明した。「また、リュウズを早く回しすぎると、カレンダーが飛ぶ場合がある」。余談を言うと、IWC系の永久カレンダーは極めて高い完成度を誇るが、あまりリュウズを早く回すのはオススメしない。

 そこでオーデマ ピゲは、リュウズを3段引き(!)にすることで、リュウズの回転だけで日付、年、曜日、そしてムーンフェイズ表示を個別調整できるように改めた。プッシュボタンに複数の機能を持たせた例にはA.ランゲ&ゾーネの「オデュッセウス クロノグラフ」や、オーデマ ピゲの大傑作(掛け値なしにそう言える)「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4」などが存在するが、リュウズにこれほどのファンクションを持たせた例は、ほかにないだろう。

 リュウズの位置が
1段目:手巻き
2段目:上に回すと日付、下に回すと月の調整
3段目:時分と24時間針の調整

リュウズ2段引きの状態。リュウズを上に回すと、日付表示を早送りできる。

リュウズ2段引きの状態。リュウズを下に回すと月表示を早送りできる。

リュウズ3段引きの状態。リュウズを上に回すと時分及び24時間針を調整できる。

 ここからはone more thingだ。3段目から2段目に押し込むと

2段目(3段目から戻した状態):上に回すと曜日および週、下に回すとムーンフェイズ表示の調整

リュウズ2段引き(3段から1段戻した)の状態。リュウズを上に回すと曜日及び週表示を早送りできる。

リュウズ2段引き(3段から1段戻した)の状態。リュウズを下に回すと月齢表示を早送りできる。

 一見複雑に見えるが、日付と月、そして曜日とムーンフェイズ表示の調整が連動しているのは分かりやすい。購入者なら、数回使っただけで簡単に操作できるだろう。実際筆者は、2回触っただけで操作を覚えてしまった。

“オールインワン”リュウズという超絶な試み

 リュウズを3段引き(と-1段)することでカレンダーを調整する“オールインワン”リュウズ。魔術のような仕組みだが、説明を聞けば決して難しくはない。リュウズ周りの機構は、リュウズの巻き芯を軸に、扇状に広がっている。リュウズを引き出すと、この扇状の部品が上下に動き、そこに噛み合った歯車(これ自体も稼働する)が日付や月、そしてムーンフェイズ表示などを進めていく。

 負荷のかかる針合わせ機構をここまで複雑に作ると、理論上は耐久性が下がるし、そもそも感触もガタガタになる。しかし、リュウズの感触は極めてスムーズで、3段引き(!)のリュウズも確実に操作できる。なぜこんなにスムーズなのかとラッジに尋ねたところ「実は、リュウズを引き出す力の最適値を割り出して、そこからリュウズ周りの設計を行った」とのこと。設計ありきではなく、実際に使うシチュエーションを考慮して、設計に取り掛かったというわけだ。

全く新しい設計を持つ、Cal.7138。見た目こそ古典的な永久カレンダーだが、リュウズだけですべての表示を個別調整可能。しかもムーブメントの厚さは4.1mmに留まった。


まだある。この“パーペ”はユーザーに優しいのだ

 3段引きのリュウズですべての機構を調整できる新しいパーペチュアルカレンダー。加えてオーデマ ピゲは、使いやすい工夫を随所に盛り込んだ.そのひとつが、日付の調整だ。リュウズを1段引いて上方向に回すと、日付を早送りできる。しかし、2・5回から3回転回さないと、早送りできないのである。あえて遊びを持たせたのは、不要に触っても日付を変わりにくくするための配慮だ。また、21時から3時までの時間帯(9時位置のサブダイアルでは赤い線で強調されている)では、カレンダーが調整できないようになっている。禁止時間帯を示すのではなく、そもそも調整できなくしたというのは、ユーザーフレンドリーだ。もっとも、筆者の触ったいくつかのプロトタイプは、この部分の調整が完全ではなく、稼働する個体も存在した。

 徹底してユーザーフレンドリーな新しい永久カレンダー。こういった姿勢を象徴するのが、12時位置の日付表示だ。普通のカレンダーは一番上に「31」が置かれるが、このムーブメントでは「1」である。しかし重要なのはそこではない。それぞれの日付の間隔は、ある場所は狭く、ある場所は広くと微妙に調整されている。

 可能にしたのは、現在特許申請中の「プログレシブ ステップ」のディスクだ。これは一般的な歯車と異なり、歯を不均一に割ることで、不均等な表示を可能にしたものである。ラッジの説明によると「歯車の製造はワイヤ放電加工機ではなく、普通のフライスによるもの」とのこと。「求めていた加工精度がフライス盤で出たのだから、UV-LIGAで作る必要はないでしょう?」。

優れた操作性に加えて、薄いケースも本作の持ち味のひとつだ。

 また、機能は満載なのに、薄くできたのには理由がある。

 1978年に発表されたCal.2120/2800は、デュボア・デプラ製の永久カレンダーモジュールを搭載していた。これは腕時計用に調整されてはいたものの、基本的には古典的な永久カレンダーのミニチュア版だった。

 対してオーデマ ピゲは、2018年の「ロイヤル オーク RD#2」で、永久カレンダーを大きく進化させた。従来は3層構造だった48カ月カムと31日カムを1層に改めたほか、レバー類の取り回しを再設計し、カレンダーの主なパーツを受けではなく、ダイアルで抑えるように改めたのである。このモデルのケース厚が、わずか6.3mmに留まった理由だ。

 ラッジは「新しい永久カレンダーは、既存のパーペチュアルと同じ厚みであることが求められた」と語る。そのため、永久カレンダー機構はモジュールではなくムーブメントと一体化され(ラッジは、新しい自社製のCal.4300やCal.4400系には今のところ載せられないと述べた)、しかもそのカレンダー機構は、RD#2の設計を部分的に転用したものとなった。加えて言うと、複雑な“オールインワン”リュウズの機構部品も、そのいくつかの部品は上から支える受けを省いて、ムーブメントを薄くしている。にもかかわらず、ラッジは「1mの高さから木の床に落とすテストには耐えられる」と説明する。


150周年記念に、3モデルがリリース

 オーデマ ピゲがリリースしたのは、以下の3モデルである。

「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」Ref.26674ST.OO.1320ST.01
自動巻き(Cal.7138)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径41mm、厚さ9.5mm)。50m防水。要価格問い合わせ。

 41mmのステンレススティール製ケースを持つ「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」は、ブルーPVD加工が施されたグランドタペストリーダイヤルを持つモデルだ.見た目は従来のモデルほぼ同じだが、9時位置の24時間表示が新しいムーブメントであることを示す。

 ブルーPVDの発色はかなり良好で、しかし視認性を邪魔していないのは今のオーデマ ピゲらしい。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」Ref.26674SG.OO.1320SG.01
自動巻き(Cal.7138)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18Kサンドゴールドケース(直径41mm、厚さ9.5mm)。50m防水。要価格問い合わせ。

 18Kサンドゴールドのモデルは、文字盤も同色にそろえている。

 中間色の色味を合わせるのはかなり難しいが、この数年、外装に注力するオーデマ ピゲは、それをマスターした印象を受ける。内外装の統一感はひょっとしてオーデマ ピゲ随一かもしれない。いずれも、外装の仕上げは文句なしだ。

「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ パーペチュアルカレンダー」

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー

オーデマ ピゲ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ パーペチュアルカレンダー」Ref.26494BC.OO.D350KB.01
自動巻き(Cal.7138)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KWGケース(直径41mm、厚さ10.6mm)。30m防水。要価格問い合わせ。

 同じムーブメントを搭載したのが、「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ パーペチュアルカレンダー」である。これは41mmの18KWGケースにスモークブルーPVDダイアルを組み合わせたモデルだ。文字盤外周のフランジに週表示を加えることで、文字盤の見た目はかなりすっきりしている。

 やはりこのモデルも、内外装の仕上げは文句なしである。

150周年アニバーサリーモデルも登場

ヴィンテージスタイルの「Audemars Piguet」のロゴを持ったアニバーサリー版モデル。各150本の限定生産となっている。

 創業150周年を記念して、上記の3モデルにはそれぞれ150本限定の“150周年アニバーサリー”モデルも用意された。これらの限定モデルには、特別にデザインされた「150」のロゴや、「1 of 150 pieces」という刻印が裏蓋の外周に施されている。また6時位置のムーンフェイズ表示には、ヴィンテージスタイルの「Audemars Piguet」ロゴが刻まれている。

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー オープンワーク“150 周年アニバーサリー”」Ref.26585XT.OO.1220XT.01
こちらは新型のCal.7138ではなく、かつての傑作、Cal.5134のスケルトン版であるCal.5135を載せた150周年限定モデル。ケースはチタン製、ベゼルはBMGガラス製である。極めて傷の付きにくいBMGガラスは、ロイヤル オークにはうってつけだろう。惜しくも、Cal.5134系ムーブメントはこれで終売である。自動巻き(Cal.5135)。38石。1万9800振動/時。パワーリザーブ約40時間。Tiケース(直径41mm、厚さ9.9mm)。20m防水。世界限定150本。要価格問い合わせ。

上に掲載したロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー オープンワーク“150 周年アニバーサリー”の、デザインソースとなったのがスケルトンの懐中時計だ。


THE BEAT GOES ON……

 一見地味な、しかし途方もない永久カレンダーで幕を開けたオーデマ ピゲの150周年。普通の永久カレンダーと思いきや、徹底してユーザーフレンドリーを突き詰めたその設計は、複雑時計工房として名乗りを上げた、オーデマ ピゲの150年を記念するにふさわしいものだ。正直、どのモデルも(とりわけ150周年限定モデルは)手にするのは難しいだろう。しかし、いずれの時計もそれだけの価値はあると断言したい。もっとも、これは150年を祝う第一弾。今年オーデマ ピゲが掲げたテーマは、”THE BEAT GOES ON”(ビートは続く)だ!

150年を祝うべく、本社も装飾された。


Contact info:オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000


オーデマ ピゲ 終わりのない創造の旅

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オーデマ ピゲ 進化を続ける「ロイヤル オーク」コレクション

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“驚異の腕時計トゥールビヨン”も登場。オーデマ ピゲの栄光の歴史を回顧する【スイス時間旅行−追想の90年代】

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