『ウォッチタイム』アメリカ版に関与する時計編集者・ライターのマーティン・グリーンが、オリエントスターの「M45 F8 スケルトン ハンドワインディング」を実機レビュー。デザイン優先で時刻を読みづらく、腕時計としての本質、見失ってる? となりがちなスケルトンウォッチ。オリエントスターの本作は「魅せるスケルトン」を実現しつつ、時間だってちゃんと読みやすいという、相反するふたつの要素を、同時に成立させるということをやってのけたのだ! 国産時計界の三男坊、オリエントの真の実力をとくとご覧あれ!
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ブランド70周年を記念したスケルトンウォッチ
2021年、オリエントはオリエントスターブランドの誕生70年の周年を祝い、同ブランドのお箱であるスケルトンウォッチを進化させた「M45 F8 スケルトン ハンドワインディング」を発表。オリエントスターはセイコーエプソン傘下、オリエントの最上位コレクションであり、1951年から続いているのだ。
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今回のレビューウォッチは海外仕様のため、ストラップの仕様がやや異なる。手巻き(Cal.F8B62)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径38.8mm、厚さ10.6mm)。5気圧防水。35万2000円(税込み)。
「スケルトンウォッチ」は現在のオリエントスター、それにも増してオリエントそのものを特徴付ける重要なデザインである。そんなオリエントが初めて手がけたスケルトンウォッチ、「モンビジュ」は1991年に登場。去る2021年は、オリエント製スケルトンウォッチのダブルアニバーサリーでもあったのである。
パワーリザーブの時間にも要注目。本作に搭載されているムーブメント、Cal.F8B62のパワーリザーブは約70時間である。驚くべきことに、オリエント70周年と合わせているのである。なお前任モデルに搭載されていたCal.48E52のパワーリザーブは、約50時間であったので、それに比べたら大幅に伸びた。振動数は毎時2万1600振動である。12時位置に配されたパワーリザーブ表示でどれだけ残っているのかを知ることができるのがグッドだ。
オリエントお得意の「スケルトン仕様」とは、自慢の機械式ムーブメントが持つ、さまざまなグッドポイントを訴求する方法ではないか、と筆者は考えている。搭載されたCal.F8B62ムーブメントは見どころ満載だからだ。技術的に見るべき点も多いが、それに加えてデザイン的に注目すべき点が多数見受けられるのである。
視認性に優れたスケルトンウォッチの成功例
スケルトンウォッチを作ること自体はそれほど難しくはない。だが、優れたデザインのスケルトンウォッチを実現することとなれば、それはまた別のお話だ。オリエントスターは、スケルトンウォッチのデザインにあたって、わざわざ困難な道を突き進み、そして成功を手に入れてしまったのだ。
それは、相反する要素を並立させるというものだ。具体的には、堅牢でありつつムーブメント内部の鑑賞が可能で、なおかつ装飾技術が駆使され、視認性も確保できたのである。それもただ成功したというだけではない。洗練され、より高いレベルで成し遂げたのだ。
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目盛り部分を別パーツとし視認性を確保
スケルトンウォッチは、視認性が高くないと言われることがよくある。だが、M45 F8 スケルトン ハンドワインディングは、そうではない。その理由は何故か? 文字盤上のパワーリザーブと、スモールセコンドの目盛り部分を別付けのパーツとすることで、視認性を確保しているからだ。3時位置のオリエントスターロゴも同じことが言えるだろう。
また、クロスハッチ模様の施された外周リングには、タコ印刷のレイルロードミニッツトラックと、ステンレススティール製のアワーマーカーで装飾されている。これらの仕上げは素晴らしいものであり、光が当たると素材固有の色でかがやくのだ。
絶妙なバランスの肉抜き
ムーブメントにはスケルトン加工が施されているが、やりすぎてはいない。地板の肉抜きは最低限に留められているように見受けられる。その理由は堅牢性のためではなく、そこにペルラージュを施すためだろう。地板のエッジ部分には面取りが施されているため、地板が見せる光の反射には感激してしまう。
ブルーカラーの針は、光をよく反射する、この腕時計のアクセントだ。ムーブメント内部に、同じくブルーカラーのパーツが見受けられる。これは、エプソンの加工技術MEMSによって生まれたシリコン製のガンギ車だ。こんなところでエプソンの誇る技術を目にすることができるのである。
隅々まで考え抜かれたディテール
日本人は完璧主義で、そのための努力は惜しまない国民性だと知られている。この精神は本作にも生きている。その例を挙げるとすると、サファイアクリスタル製風防に施された高精度の無反射コーティングであろう。ムーブメントを鑑賞するとき、もしくは時刻を確認するときに、光の干渉を最小限に留めることができるのだ。
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加えて、ケースの仕上げにもオリエントは全力投球していると言えるだろう。オリエントスターの上位モデルにはザラツ研磨が施されており、その仕上がりはグランドセイコーのザラツ研磨と非常に近い印象を受ける。
オリエントはこの腕時計のプロポーションバランスに細心の注意を払ったように思えるのだ。直径は38.8mm、10.6mm厚のケースは、クラシカルなサイズ比のものであり、どのような太さの手首にもしっくりとくることだろう。
リュウズから腕時計全体の出来の良さが分かる
M45 F8 スケルトン ハンドワインディングは手巻きモデルだ。リュウズ巻き上げ時の感触は、この腕時計の持ち味を楽しむ端緒となるであろう。リュウズのサイズはやや小さめ。しかしながら、つかみやすく、回すときには適切な抵抗感がありつつもスムーズだ。
なお、もし興味があれば、リュウズを引いてみよう。そうすると、秒単位で調整できるように、テンプを停止できる機能が搭載されていることが分かるはずだ。
裏蓋側からも要注目
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裏蓋はすっきりとしたもので、ハイエンドかつ伝統的なレイアウトのCal. 8B62を見せてくれる。裏蓋から見たムーブメント仕上げも素晴らしい。施されたオリエント仕様の“ジュネーブストライプ”は、光が遊ぶような印象と奥行き感を、このムーブメントに与えるのだ。
シルバカラーモデルもあり
手巻き(Cal.F8B62)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径38.8mm、厚さ10.6mm)。5気圧防水。35万2000円(税込み)。
今回取り上げたM45 F8 スケルトン ハンドワインディングは、シャンパンカラーを基調としたものだが、シルバーカラーを基調としたモデルも存在する。こちらはやや現代的な雰囲気を感じる腕時計だ。