2024年8月に、グルーベル・フォルセイCEOに就任したミシェル・ニデッグ。中国の景気が停滞しスイスの時計輸出も落ち込んでいる今、彼は2025年の時計市場をどう展望しているのか?
Photograph by Yu Mitamura
鈴木幸也(本誌):取材・文
Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年3月号掲載記事]
「年産本数を高めるよりも質を高めたい」

グルーベル・フォルセイCEO。2016年、グルーベル・フォルセイに入社。PRを経て、マーケティング&コミュニケーション責任者に就任。2024年8月より現職。CEO就任後、初の来日となった24年12月中旬、その目的を次のように語る。「日本は私たちにとって大変大事なマーケットですので、年に数回は来ようと思っています。また、この時期ですので、2025年のプランを話し合うために来日しました」。加えて、世界の主要都市に、最終的に10~15のブティックを置きたいとのこと。
「2024年は、過去最高の業績を残すことができました。数カ月前には、サプライヤーにトラブルがあって、ヒヤリとしましたが、私たちは年間生産数も少ないので、大きな影響を受けることはなく、その時期を切り抜けることができ、大変良い1年となりました」
こう語るのは、昨年8月にグルーベル・フォルセイCEOに就任したミシェル・ニデッグだ。他方、中国の景気が停滞しスイスの時計輸出も落ち込んでいる。2025年の時計市場をどう展望しているのか?
「幸い、グルーベル・フォルセイは中国本土に店舗がないので、中国の影響はそれほどありません。もちろん、中国人の顧客はいますが、やはり影響は軽微です。また、流通網もバランスの取れたものになっているので、どこかのマーケットに偏っているということもありません。例えば、ロシアの問題があったときには、ロシアから他のマーケットへ商品を回したり、香港にも実機がありますので、これもほかのマーケットへ回したりして、うまく調整しています。私たちは年産200本と少量生産ですので、非常に柔軟性があります。もっと大量に生産しているブランドだと、急にブレーキを踏むのは難しいのですが、私たちは柔軟に対応できています」

世界初のパーペチュアル ナノ・フドロワイアント(トゥールビヨンキャリッジ内にある6分割インダイアルの赤い針)と、ブランド初のフライングトゥールビヨンおよび手巻きフライバックを組み合わせたコンプリケーション。ブランドにとって第10となる発明。手巻き。42石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約24時間(クロノグラフ作動時)。18KWGケース(直径37.9mm、厚さ10.49mm)。タンタル製ベゼルとタンタル製シースルーケースバック。3気圧防水。世界限定11本。要価格問い合わせ。
このまま2025年も、現状の年産200本を目指していくのか?
「少し前に年産500本まで増産するという目標を立てたのですが、もともと年産100本くらいだったので、年産100本を200本にするところまでは順調でした。その勢いに乗って年産500本を目指したのですが、実際には、質を落とさずにそれを達成することが難しいと分かりました。私たちは質を落とすことは絶対にやりたくありません。したがって、2025年も引き続き年産200本を計画しています」
この先、質を落とさずに増産ができたら、生産数を伸ばしていく予定はあるのか?
「今や私たちは完全に独立した存在です。株主もロベール・グルーベルとステファン・フォルセイのふたりだけです。すなわち、何でも本当に好きなことができるのです。例えば、今後、ハンドメイドの需要が高まるとすると、ハンドメイドはひとつ作るのにすごく手間と時間がかかるので、結果、全体の生産本数は減ることになります。また他のモデルが伸びたら、その場合、本数が増えることもあり得ます。したがって、年間生産何本を目指すなど、そういう数の捉え方はしていません。技術力をさらに高めたり、R&Dで素晴らしいものを開発したり、仕上げを極めたり、そういったところに力を注いでいきたいと思っています。10年先のプランは、ある意味、これから10年の〝冒険物語〞になります(笑)」