IWCを代表する「パイロット・ウォッチ」コレクションの中でも、実用時計として根強い人気を誇る「マーク」シリーズ。そのルーツとなる「マーク11」を抑えつつ、最新作である「パイロット・ウォッチ・マークXX」の魅力に迫る。
Text by Tsubasa Nojima
[2025年3月6日公開記事]
IWCの「マーク」シリーズとは?
IWCは、1868年にアメリカ人時計師であるフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズが、スイス・シャフハイゼンに創業したブランドである。同社はその長い歴史の中で、「ポルトギーゼ」や「インヂュニア」、「アクアタイマー」など数々の名作を生み出してきた。中でも同社を象徴するコレクションのひとつとして挙げられるのが、「パイロット・ウォッチ」だろう。このコレクションには、大きく「ビッグ・パイロット・ウォッチ」と「マーク」シリーズの2系統が存在し、どちらも軍用時計を出自としている。
マークシリーズは、英国空軍向けのパイロットウォッチとして1948年に誕生した「パイロット・ウォッチ・マーク11」をルーツとしている。視認性に優れたダイアルデザインや軟鉄製インナーケースによる耐磁性、気圧の変化に対応するためのベゼルとミドルケースを一体とした構造を備え、堅牢な手巻きムーブメントCal.89を搭載したマーク11は、極限状態で戦闘に参加する空軍パイロットから絶大な信頼を獲得し、現代においてもマニア垂涎のコレクターズアイテムとして知られている。
時は流れ1994年。マークシリーズの民生モデルである「パイロット・ウォッチ・マークXII」が発売される。直径36mmのケースサイズを含む基本的なデザインをほぼマーク11から踏襲し、ジャガー・ルクルト製の自動巻きムーブメントを搭載した本作は、技巧派ブランドであるIWCらしい、プロフェッショナルユースの本格的なスペックを備えたパイロットウォッチであった。その後もマークシリーズは進化を遂げ、パイロットウォッチとしての実用性を主軸に発展していく。
その集大成とも言えるのが、2022年に発表された「パイロット・ウォッチ・マークXX」だ。視認性と取り回しやすさを両立させる直径40mmのケースと、「パイロット・ウォッチ・マークXVI」から続く、ビッグ・パイロット・ウォッチに範をとったローザンジュ型の時分針を備えたダイアルを組み合わせたマークXXは、実用時計の雄として幅広い層から親しまれる存在だ。
従来のマークシリーズに比べ、特に大きく変化を遂げたのがムーブメントである。「パイロット・ウォッチ・マークXV」から前作の「パイロット・ウォッチ・マークXVIII」までは、ETA社製の汎用機をチューンアップしたムーブメントを搭載していたが、マークXXではラチェット式の自動巻き機構とシリコン製の脱進機を備え、約120時間のロングパワーリザーブを達成したCal.32111を搭載している。
さらに、多くのバリエーションが展開されていることもマークXXの魅力である。今回は代表的な4つのモデルをピックアップし、その特徴を解説していきたい。
「パイロット・ウォッチ・マークXX」の現行モデル
IWC「パイロット・ウォッチ・マークXX」Ref.IW328202
マークシリーズ定番のブラックダイアルを採用したモデル。ホワイトのアラビア数字インデックスとの組み合わせが抜群の視認性を生み出し、パイロットウォッチらしい硬派な印象を作り上げている。これまでのマークシリーズにおけるブラックダイアルでは、ブラックで縁取られた針が採用されていたが、本作ではシルバーに統一され、高級感が高められている。
一見して前作の「パイロット・ウォッチ・マーク XVIII」によく似ているが、15分おきのミニッツマーカーが長くなり、ラグが切り詰められるなど、実用性を高めるための着実なアップデートが施されている。防水性が10気圧に向上したことで、より幅広いシーンで安心して使えるようになったことも喜ばしい。
さらに特筆すべきは、新しくCal.32111を搭載したことだろう。約120時間のロングパワーリザーブを誇り、シリコン製脱進機を採用するなど、現代的なスペックを獲得している。ムーブメント自体が優れた耐磁性を備えているため軟鉄製インナーケースを必要とせず、結果としてケースの厚みが抑えられていることも魅力だ。

パイロットウォッチらしい無骨さが漂うブラックダイアルモデル。ムーブメントも外装もともに、前作からブラッシュアップされている。自動巻き(Cal.32111)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.8mm)。10気圧防水。100万1000円(税込み)。
IWC「パイロット・ウォッチ・マークXX」Ref.IW328204
爽やかな色味が特徴のブルーダイアルモデル。これまでマークシリーズのブルーダイアルは“プティ・プランス”として展開されていたが、マークXXからは通常のラインナップに加えられている。アラビア数字インデックスやローザンジュ型の時分針など、パイロットウォッチらしい意匠を受け継ぎつつ、サンレイ仕上げのダイアルが華やかさを加えた、スーツを着用したビジネスシーンでも使いやすいモデルである。
ベルトの選択肢が多いこともマークXXの魅力のひとつ。本作では5連タイプのステンレススティール製ブレスレットが装着されている。ひとつひとつのコマが短いため、しなやかな装着感を得ることが可能だ。ヘアラインとポリッシュに仕上げ分けることで、ドレッシーな印象に仕上がっていることも特徴。
ブレスレットのコマ調整が簡単にできることも魅力だ。コマの裏側をピンで突くことによって、ユーザー自身でも容易にコマの抜き差しを行うことが可能な、IWCではおなじみの機構を備えている。それだけではなく、三つ折れ式のバックルに配されたIWCのロゴマークはボタンとなっており、押下することで簡単に手首回りを微調整することができる。EasX-CHANGE®システムを搭載し、工具を使わずにベルトを取り外すことも可能だ。

サンレイ仕上げのブルーダイアルが爽やかな1本。装着されているステンレススティール製ブレスレットは、使い勝手に優れるユーザーフレンドリーな逸品。自動巻き(Cal.32111)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.8mm)。10気圧防水。100万1000円(税込み)。
IWC「パイロット・ウォッチ・マークXX」Ref.IW328207
ドレッシーなシルバーめっきダイアルのモデル。インデックスや針をブラックとすることで、優れた視認性を維持している。マークXXのデイトディスクは、ダイアルカラーに関わらずホワイトを採用している。デイトディスクとダイアルの色味に統一感があるのは、シルバーダイアルの魅力である。
他のバリエーションと同様、ステンレススティール製のケースは、ヘアラインを基調として随所にポリッシュを加えることで立体的に仕上げられている。ベゼルとミドルケースが一体となった構造は、マークシリーズの特徴だ。操作性に優れるリュウズや取り回しやすい薄型のケースなど、デイリーユースにもふさわしい。シースルーバックではないためムーブメントを鑑賞することはできないが、ケースバックの中央には雄々しい飛行機のエングレービングが施されている。
ブラックのカーフスキンレザーストラップにはEasX-CHANGE®システムが搭載されており、背面のボタンを押下することによって、簡単にケースから脱着することができる。

シルバーめっきのダイアルがドレッシーでありつつ、ブラックのアラビア数字インデックスがポップな印象を与える。ブラックのカーフスキンレザーストラップとの組み合わせは、スーツスタイルにもマッチする。自動巻き(Cal.32111)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.8mm)。10気圧防水。83万500円(税込み)。
IWC「パイロット・ウォッチ・マークXX」Ref.IW328205
サンレイ仕上げの鮮やかなグリーンダイアルをまとったマークXX。これまでいくつものバリエーションが展開されてきたマークシリーズだが、レギュラーモデルとして登場したグリーンダイアルの存在は、より幅広い層からの支持を獲得することに一役買ったに違いない。ツールウォッチらしいニュアンスを残しつつも、上品でファッショナブルな印象に仕上がっている。
ダイアルカラー以外は、他のモデルと同じ仕様だ。3時位置にはデイト表示を配し、薄型のケースが優れた装着感をかなえてくれる。搭載するCal.32111は、シリコン製脱進機による耐磁性と約120時間のパワーリザーブを備えた、ハイスペックなムーブメントだ。
装着されているのは、カーフスキンレザーストラップ。ホワイトのステッチが入ったブラウンのストラップは、グリーンダイアルとの相性も抜群だ。マークXXには、レザーストラップの他にステンレススティール製ブレスレットやラバーストラップも用意されており、買いそろえることでEasX-CHANGE®システムによって簡単に付け替えて楽しむことができる。

鮮やかなグリーンダイアルが印象的なモデル。伝統的なデザインに昨今トレンドのグリーンダイアルを組み合わせることで、ファッショナブルに仕上げている。自動巻き(Cal.32111)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.8mm)。10気圧防水。83万500円(税込み)。