『クロノス日本版』の精鋭?エディターたちが、話題の新作モデルを手に取り好き勝手に使い倒して論評する大好評の連載企画。今回登場するテスト機は皆さんおなじみパネライのフライバッククロノグラフである。搭載するムーブメントの素性の良さはもとより主として使い勝手の良さに焦点を定めてインプレッションを敢行した。
パネライ
ルミノール 1950 PCYC スリーデイズ フライバック オートマティック アッチャイオ-44mm
今回のインプレッションは2017年1月のSIHHでパネライが発表したばかりの新作「ルミノール 1950 PCYC スリーデイズ フライバック オートマティック アッチャイオ-44mm」である。本誌『クロノス日本版』ならば、それこそテスターにかけて各姿勢で精度安定試験をして、最大姿勢差や平均日差、平均振り角を測ったり、あるいはクロノグラフ作動時との誤差を得たりするのだろうけれど、「ウェブクロノス」はそれほどスパルタンな態度はとらない。知りたい、伝えたいのは、パネライという稀代のスポーツウォッチの使い心地のみである。
初めに告白しておくと、わたしはパネライのオーナーだ。ただし、ルミノールではなく、華奢なワイヤーラグとケースサイドを絞ったラジオミールであり、屈強そのもののリュウズプロテクターを持つルミノールは正直に言うと敬遠の対象であった。おそらく先入観がそう思わせていたのだろう。ケース径44㎜の「ルミノール 1950 PCYC スリーデイズ フライバック オートマティック アッチャイオ-44mm」を担当者から託された時、「あ、これは良いサイズ感かも」という第一印象を抱いたのであった。
ここでテスト機の概要を少しお伝えしておこう。文字盤はアイボリーとブラックの2種類が用意されているが、今回用意されたのはブラック文字盤だ。いかにも視認性の良さそうなベージュのインデックス、3時位置に12時間積算計を、中央にクロノグラフ針と同軸で60分積算計用の針を置く。余談だが、秒針と60分針の同軸配置でフライバック機能を備えるクロノグラフというと、1946年にロンジンが発表したキャリバー13Z以来なのだそうだ。同軸配置で12時間積算計をインダイアル表記にすれば、いうまでもなくダイアルの煩雑でないシンプルなレイアウトに結びつく。
文字盤の外周(見返し)には、タキメータースケールがプリントされている。ただし、この時計はパネライが主催するクラシックヨットの重要なレースのひとつである「パネライ クラシックヨット チャレンジ2017」の記念モデルだ。スケールはキロメートルではなく、ノット表示。つまり、この特殊なタキメータースケールとクロノグラフの分針によって、指定の距離を走行するヨットの平均速度を測ることができるというわけだ。海は大好きだけれど、優雅なヨットの世界とは無縁という大半の方は、これを特殊なスケール表示としてコレクター心を満たしてほしい。
サイズは前述の44㎜。「パネライって大きいからね」と先入観を持つ人の大半が、おそらくもう1サイズ上の47㎜を連想するのではないか? ほどよく経年変化しそうなナチュラルカーフレザーのストラップにピンバックルを通して腕に置く。近頃はライトな時計ばかり愛用しているので、瞬間的に「あ、重い」という印象を抱くものの、44㎜はわたしの細腕でも腕載せの感覚がとても良い。なんというか、ヘッドの重心が低く、ストラップ&ピンバックルとのバランス感覚がとても秀でているのだ。ラジオミールには存在しないリュウズプロテクターも、左腕に装着するとシャツの袖口には当たらないため、邪魔にならず、見た目の存在感も秀逸である。ルミノールユーザーが感じる顕示欲がなんとなくわかるような気がした。
操作性よし、ビジュアルよしの才色兼備
自動巻き(Cal.P.9100)。37石。2万8800振動/時。約72時間のパワーリザーブ。SS(直径44㎜)。10気圧防水。130万円(税別)。
早速、クロノグラフを使ってみることにする。搭載するキャリバーP.9100は、なんといってもフライバック機能付きである。通常ならばスタート→ストップ→リセットの動作を繰り返さないと次の計測ができないクロノグラフに比して、フライバッククロノグラフであれば、(テスト機であれば)10時位置のスタートボタンを押して、8時位置のボタンを押すとクロノグラフの針は即座に帰零、リスタートが可能だ。例えば、陸上競技におけるラップタイムの計測などに使うことができる。
リュウズプロテクターが置かれているため、テスト機のプッシュボタンは向かって左側に配置されている。これは左腕にはめてスタート、帰零(リスタート)、リセットを繰り返す動作の際、感覚的にとても押しやすく、便利だと感じた。肝心の押し心地は、節度のある軽さといえばいいのか、重すぎず、軽すぎずで絶妙のさじ加減。ただ、センター同軸のクロノグラフ積算針は、暗所ではやや見づらいという印象が残った。とはいえ、インデックスと時分針に施されたベージュのスーパールミノヴァは、発光も十分で最高の視認性を示してくれた。また、実際に使用していると、リュウズを一段引き上げた状態で時針を1時間単位で調整できる機能や、リュウズを二段引くと9時位置のスモールセコンドがゼロリセットされる機能など、クロノグラフ以外におけるP.9100の高いパフォーマンスに舌を巻いた。
ヨットの世界にたとえ無縁でもこのクロノグラフは欲しい!
クロノグラフという複雑機構の花形を備え、視認性もよく、機能性にも優れた1本。しかも直径44㎜と昨今の高級時計市場では〝超〟がつくほどのビッグサイズでない「ルミノール 1950 PCYC スリーデイズ フライバック オートマティック アッチャイオ-44mm」を手にすれば、機械式時計における基礎体力の高さに驚き、自己顕示欲も大いに満たされるに違いない。