2024年11月にティソからリリースされた、「ティソ PRX」の25mm径ケースのモデルを着用レビューする。“ヌードカーネーションゴールドカラー”と名付けられた外装を持つ本作は華やかであると同時に、ティソ PRXのアイコニックな意匠や高い実用性を備えており、さまざまな属性の女性にリーチするスポーツウォッチであった。
Photographs & Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2025年3月18日公開記事]
「ティソ PRX」に加わった直径25mmケースのモデル
「ティソ PRX」は2021年から展開されている、ティソの代表的なコレクションだ。1978年に同社が生み出した「PRX」に範を取った、ケースとブレスレットが一体となったようなフォルムを有している。また、このケース・ブレスレットはエッジが立っており、かつヘアライン仕上げを基調に、このエッジの部分をはじめ、随所にポリッシュ仕上げが与えられるなど、ラグジュアリースポーツウォッチのスタイルを有していることも大きな特徴のひとつである。“ラグスポ”は、1972年登場のオーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」の登場をきっかけに、現在では時計業界の一大ジャンルへと成長したスタイルだ。“ラグスポ”の有名どころの多くが高価格帯であることに対し、ティソはPRXを“ラグスポ”の文法にのっとらせつつ、手の届きやすい価格で供給することで、このジャンル内で独自のポジションを築くとともに、人気を集めてきた。
ティソ PRXの人気を表しているのが、豊富なバリエーションだ。発売以来、年間を通して新作モデルをコレクションに加えており、サイズやカラー、機構など、多彩に展開されているのだ。今回着用レビューするモデルは、そんなティソ PRXのうち、2024年11月に発表された新作である。

クォーツ。SSケース(直径25mm、厚さ9.05mm)。100m防水。8万5800円(税込み)。
これまで直径40mmまたは35mmケースを展開してきたティソ PRX初となる25mm径ケースのモデルで、全部で5種が同時リリースされた。この5種の中から、“ヌードカーネーションゴールド”と名付けられたゴールドカラーのPVDをケース・ブレスレットにまとわせた1本について、着用しながらそのディテールを見ていきたい。
“ヌードカーネーションゴールド”カラーの外装に目がくぎ付け!
本作をひと目見た感想は、「華やか」だった。“ヌードカーネーションゴールド”という、名前からして優美なネーミングのゴールドカラーがPVDによってあしらわれたケースとブレスレットが、思いの外、ブラウスやセーターの袖口から存在感を発揮するのだ。ピンクやレッド系のゴールドカラーはアクセサリーにも多く採用されており、自分自身も所有しているが、腕時計全体でこのカラーをまとっていると、決して大きくないサイズながらその主張は強い(もちろんポジティブな意味で)ことに、改めて驚かされた。ケースサイドやブレスレットの稜線がポリッシュに仕上げられており、光を受けてキラリと輝くのも、その存在感の強さに寄与している。

なお、外装をポリッシュとサテンで仕上げ分ける手法は、“ラグスポ”スタイルの特徴のひとつであり、かつて、こういった高級な仕上げを持つのは文字通り“ラグジュアリー”なモデルに限られていた。しかし近年、機械加工の発達を背景に、ベーシックな価格帯のモデルでもこの仕上げ分けが見られるようになった。ティソもまた手の届きやすい価格帯のブランドでありながら、そんな仕上げを得意とする。「仕上げ分けられている」といっても、その程度やデザインはブランドによってさまざまだが、本作は繊細なヘアライン仕上げを基調に、稜線にポリッシュを与えるという難易度の高い仕上げを行うことで、高級感のある出来栄えを実現している。ちなみにポリッシュ面に歪みがないのも、丁寧に磨かれているという点で、特筆すべきだ。もちろん数十万円〜100万円超えのモデルと比べているわけではないが、税込み8万5800円という販売価格を考えれば、その品質はハイレベルだ。
“ラグスポ”が一大ジャンルとなっているとはいえ、レディース向けで、しかも10万円以下の価格帯でとなると、その選択肢は非常に少ない(ティソ PRXの35mm径にも女性らしいカラーの文字盤を持ったモデルはあるが、サイズとしてはボーイズに分類されるだろう)。この“ラグスポ”スタイルが味わえて、それでいて女性らしいサイズと華やかなカラーリングを添えていて、しかも良心的な価格の本作はとても稀有な存在だ。よく時計業界では“パイオニア”がブランドや製品の価値として取り上げられる。本作を含むティソ PRXの25mm径モデルは、紛れもなく「新しいレディーススポーツウォッチ」のパイオニア的存在と言えるだろう。

この外装が大いに気に入ったとはいえ、ベゼル部分が全面ポリッシュであるがゆえに手元で光を受けてキラキラと輝き、高級感を強めると感じた一方で、傷が付いたら目立ちそうだなとは思った。
またケースとブレスレットの立ったエッジが、手首に接する裏側部分は多少丸められているものの、着用してすぐは肌あたりが気になった。もっとも「痛い」「尖っている」といったほどではない。着用していくうちに慣れた。むしろ小径であることや、重量58g(手首回り14.7cmに合わせてコマを抜いた状態で。何コマ抜いたかは失念してしまいました……)という軽さも相まって、着用感は良好であった。
ダイヤモンドインデックスを備えた文字盤にも目を奪われる

“ヌードカーネーションゴールド”カラーのケース・ブレスレットのほか、文字盤も本作の見どころだ。同じく“ヌードカーネーションゴールド”と名付けられたピンクの文字盤はサンレイ仕上げが施されており、中央から外周に向かって放射状の仕上げが施され、手首を動かすごとに光の筋が走るのを楽しめる。
インデックスには3粒ずつ、ダイヤモンドがセッティングされた。控えめながら、本作のアクセントのひとつとなっている。
なお、ミニッツトラックは省かれている。あえてアワーマーカーのみとすることで、ドレッシーに寄せているのだろう。実際メンズ向けのティソ PRXのスポーティーな印象は鳴りを潜め、エレガンスが増している。「何分何秒単位までの時刻確認」といった意味では見にくく感じるかもしれないが、光源によって視認性が左右されることなどなく、着用中に不便だと思うことはなかった。
実用性にも優れるレディースウォッチ
エレガントなレディースウォッチは少なくない。しかし本作はエレガントなだけでなく、実用性に優れたスポーツウォッチである。10気圧という高い防水性は日常使いに便利ということはもちろん、水仕事にも対応してくれる。エレガントなデザインの薄型ウォッチは3気圧や5気圧防水にとどまることも多い。デザインのみならず、防水性も本作の特徴的な美点のひとつなのだ。
クォーツ式ムーブメントを搭載しているため、機械式時計と違って定期的な主ゼンマイの巻き上げや時刻合わせが必要ないというのも、扱いやすい(もっとも機械式時計の、そんな“手間”こそが魅力なんですけどね)。クォーツであるがゆえに精度も良い。なお、ティソのクォーツムーブメントにはEOL(END OF LIFE)と称される、電池切れ警告機能が搭載されている。通常は1秒ごとに動く秒針が、電池切れ間近になると4秒ごとに運針するのだ。リュウズの操作性も良好。ノンデイトなのに2段引きできてしまうのが気になるものの、この価格と、クォーツであるためほとんど操作の必要がないことを考えれば、実用上の問題はないだろう。
ちなみに「PRX」のPRは、「Precise and Robust」を意味しているという。つまり、高精度で堅牢ということだ。さらにXは「10気圧防水」。エレガンスを全面に押しながらも、本作はPRXの名称にも表れているコンセプトを体現している。
女性の多彩なニーズに応えられるスポーツウォッチ
「ティソ PRX」の直径25mmケースのモデルを着用レビューした。
1週間程度の着用期間中、ずっと新鮮な気持ちで楽しめたのが、本作の華やかさだ。“ヌードカーネーションゴールド”カラーの外装にはついつい目が引かれ、見入ってしまうこともあった。こういった華やかでエレガントな腕時計は、ちょっとしたパーティーなどに身に着けていくのにふさわしい。一方でティソ PRXに共通する“ラグスポ”スタイルはスポーティーで、実際のスポーツウォッチにも搭載されるような優れた実用性と相まって、ドレッシーなシーンはもちろん、デイリーユースにも使える腕時計だ。つまり、女性のさまざまなシーンにおけるニーズに応えてくれるのだ。
手の届きやすい価格と相まって、今後ティソ PRXは、男性からの人気を博しているように、幅広い属性の女性にもリーチしていくだろう。