2025年にブランド創業150周年を迎えるオーデマ ピゲ。1875年にジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲによって創業された同社は、以来創業家による家族経営を続けてきた。150年の歴史を、マイルストーンとなる時計たちとともに振り返っていこう。
Styling by Eiji Ishikawa(TRS)
Text by Katsuyuki Tanaka(Atelier ADJET), Mitsuru Shibata
Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2025年5月号掲載記事]
家族経営によって紡がれた150年の歴史
オーデマ ピゲの創業年を「1875年」と初めて記したのは、1905年に刊行された初の総合カタログである。これは共同創業者のジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲにより決められた。なお同年はジュール=ルイが初めてル・ブラッシュに工房を開いた年だ。創立わずか7年後の1882年には初の「グランド コンプリカシオン懐中時計」、1892年にはルイ・ブラン&フレール社(後のオメガ)用「ミニッツリピーター付き腕時計」、1899年には超複雑懐中時計「ユニヴェルセル」を発表。時計界が大規模な生産体制を敷く19世紀後半、あえて彼らは工業化せずに高品質・少量生産の道を歩んだ。

20世紀に入り第1次世界大戦が終わる頃、会社は2代目ポール=ルイ・オーデマとポール=エドワール・ピゲの時代に入る。「狂乱の時代」と言われる1920年代は小型ムーブメントの開発にも研鑽を積み、1927年には当時、世界最小のCal.5/7SBを発表。それはアールデコ時代の女性用腕時計には最適なサイズだった。さらに第2次世界大戦後の新時代にもオーデマ ピゲは機敏に対応し、創立後初めて創業者一族以外の人物を社の中枢に迎えた。ひとりは以前より協力関係にあったルクルト家、もうひとりがジョルジュ・ゴレイである。1972年の「ロイヤル オーク」と1978年の「超薄型自動巻き永久カレンダーウォッチ」は、彼なくしては誕生しなかったと言える。
1951年に初めて時計にリファレンス番号を付与し量産体制に入るが、これは決して大量生産を意味するものではなかった。実に1972年のロイヤル オークまで、1000本以上生産されたモデルは存在しなかったのである。1970年代のクォーツ革命においてもオーデマ ピゲが生き残ったのは、創業時から続く「少量生産による高級時計作り」という姿勢を堅持したからにほかならない。1975年には超薄型ムーブメントのCal.2003、1978年にはCal.2120/2800を搭載した前述の永久カレンダーが登場し、後者の評価と販売数は非常に高いものとなった。

21世紀に入ると機構や素材、デザインの開発に注力し、ロイヤル オーク誕生30周年の2002年に発表された「ロイヤル オーク コンセプト」以降、斬新で未来的フォルムをまとったモデルを発表する。先鋭的な新作が目立つ一方で、6種類の異なる機構を搭載した2019年の新コレクション「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」は、「AP流・古典時計の再解釈」と呼べる精緻な造形美で時計愛好家を魅了した。2020年には新社屋も完成し、現在はふたつの創業家の4代目に加え、ゴレイ家とルクルト家の後裔も経営に携わる。150年前にふたりの創業者が工房を開いた同じル・ブラッシュの地で、日々、真摯に時計を作り続けているオーデマ ピゲ。その姿はジュウ渓谷の静謐な自然と同じように、150年後の未来も変わらないことだろう。
オーデマ ピゲ、150年のマイルストーン
オーデマ ピゲは150年におよぶ長い歴史の中で、数多くの革新的な時計を生み出し、発展させてきた。その時計製作哲学は「複雑」「薄型」「スケルトン」に要約されるが、これは創業当時より培われたもので、18世紀より技術的な専門工房が発達した、ジュウ渓谷の老舗時計会社ならではの特徴である。
1890
1951年まで一点ものの時計製作を続けたオーデマ ピゲ。同社の最初期における代表作が、1890年に登場した「ダブルコンプリケーション懐中時計」だ。ケースは18Kイエローゴールド製で、スプリットセコンドクロノグラフとミニッツリピーターを搭載していた。

1892
1892年の音で時刻を報せる「ミニッツリピーター腕時計」は、複雑機構を備えた腕時計の普及に先駆的な役割を果たした、オーデマ ピゲを象徴する作品のひとつ。18Kイエローゴールド製のケースには、発注元であるビエンヌのルイ・ブラン&フレール社(後のオメガ)の刻印が入っている。

1899
複雑機構の搭載モデルが数多く製作された最初期の中でも、特に複雑な時計が「ユニヴェルセル」。グランソヌリとプチソヌリ、リピーター、アラーム、永久カレンダー、スプリットセコンドクロノグラフなど、19の複雑機能を含む26種類の機能を搭載し、部品数は1168個に及んだ。


1927
時計の小型化にも注力したオーデマ ピゲは、1927年にムーブメントのサイズが15.9×5.8×3.3mmのCal.5/7SBを完成させた。当機搭載の「トゥッティ フルッティ」(1929年)は、アールデコ時代にジュエリーと組み合わせたデザインで、女性用高級腕時計の市場開拓に貢献。

1936
1936年に登場した「超薄型スケルトン懐中時計」。オーデマ ピゲは創業時より複雑機構の開発と同様に、薄型化やスケルトン化にも積極的で、1925年にはすでに超薄型ムーブメントを開発していた。これが1953年に製作された超薄型の手巻きムーブメントCal.2003へとつながる。

1959
1950年代に入ると、オーデマ ピゲは超薄型時計のベンチマークとされるようになる。1959年に発売された「ディスコボランテ」は、その象徴的作品のひとつで、1953年に開発した、直径20.3mm、厚さわずか1.64mmの超薄型ムーブメントCal.2003を搭載していた。
1972
時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタがひと晩でデザインを描き上げたとされる「ロイヤル オーク」は、ステンレススティール製の腕時計にステータスをもたらした革命的モデル。オーデマピゲの歴史のみならず、時計史における傑作として知られ、今なおその後継機は高い支持を獲得し続けている。


1986
複雑機構を搭載した腕時計の開発は連綿と続き、ついに1986年には初の「超薄型自動巻きトゥールビヨン腕時計」を発表。クォーツ時計隆盛の時代に機械式時計の魅力をアピールする重要な役割を果たした。本作は、11時位置に直径7.2mmの世界最小トゥールビヨンを備えるCal.2870を搭載し、ケース厚はわずか5.3mmに。

1993
「ロイヤル オーク」を若年層にもアピールすべく、当時22歳だった社内デザイナーのエマニュエル・ギュエがデザインしたのが「ロイヤル オーク オフショア」。直径42mm、厚さ14.05mm のボリューム感溢れる造形から、発売当時は「ビースト(野獣)」と揶揄されたが、その後に訪れる腕時計の“デカ厚”人気を先取りするモデルとなった。


2002
新素材の導入にも積極的な姿勢を見せてきたオーデマ ピゲ。「ロイヤル オーク」誕生30周年の節目に発表された「ロイヤル オーク コンセプト」は、航空業界で使用される軽量で耐久性に優れる合金でありながら、その一方で機械加工が非常に困難とされていたアラクライト602をケースに初採用して注目を集めた。

2015
人間工学的な設計を追求するべく、2000年代には独自の研究部門とラボラトリーを設立。「ロイヤル オーク コンセプト スーパーソヌリ RD#1」は、スイス連邦工科大学ローザンヌ校との8年に及ぶ研究開発(R&D)によってまったく新しい音響技術を完成させ、明瞭な音と長い打音時間を実現した。

2019
2010年代に入ると、オーデマ ピゲは自社のクリエイションに宿るDNAを精査し、まったく新しいデザインを考案。ラウンドと八角形を組み合わせた意匠や、ダブルカーブのサファイアクリスタルを取り入れるなど、伝統と革新が融合した実に25年ぶりの新コレクション「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」を発表。

2025
創業150周年を迎えた2025年、オーデマ ピゲは人間工学に基づき直感的操作を可能にした新たなパーペチュアルカレンダー機構搭載モデルを発表。ブランドの原点に立ち返るとともに、次の未来へとつなぐ新型パーペチュアルカレンダームーブメントによって、自社の長い歴史を顕彰する。


パーペチュアルカレンダーの軌跡と新鋭
時の概念の起源は天体の動きにあり、それはいつの時代も時計師を魅了する。永遠を感じさせる時間への憧憬から生み出した機構がパーペチュアルカレンダーだ。想像力と探求心をかきたてるコンプリケーションの歴史とオーデマ ピゲの新たな挑戦を探る。

パーペチュアルカレンダーの始まりは、諸説あるが1760年代にイギリスの時計師トーマス・マッジが発明した手動式永久カレンダーとされる。ただしこれは計時を備えず、毎日リュウズを押すことで調整を必要とせず正確に日捲りする機構であり、その後1795年にアブラアン-ルイ・ブレゲが時計として開発した。

オーデマ ピゲにおいてもその歴史は古く、1875年の工房設立以前、創業者のひとりであるジュール=ルイ・オーデマが製作したスクールポケットウォッチに始まる。この時計は、パーペチュアルカレンダーとクォーターリピーター、独立デッドビートセコンドを組み合わせ、独自の発展を遂げた。やがて1955年に世界初の閏年表示付きのパーペチュアルカレンダーウォッチRef.5516を発表し、1978年には新たな革命をもたらす。世界最薄の自動巻きパーペチュアルカレンダー Ref.5548だ。

設計開発は、複雑時計師ミシェル・ロシャと技術部長ジャン=ダニエル・ゴレイ、アフターサービス部長のウィルフレッド・バーニーという部門を超えたトッププロジェクトで進められた。果たして完成したCal.2120/2800は、複雑さと極薄、精緻と実用性という相反するテーマを並立したことで、伝統的な複雑機構に現代の息吹を与えた。さらに1984年には「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー(Ref.25554)」に搭載し、ブランドを象徴するコンプリケーションとしてその真価を世界に広めたのである。

グレゴリオ暦に基づくパーペチュアルカレンダーは、48カ月カムによって年間の大の月や小の月をはじめ、閏年も自動的に調整する。太陽暦と同期させるための100年に一度の手動調整を除き、正確に日捲りする高度な複雑機構だ。しかしその精密さゆえに大きな難点もある。それがカレンダーの修正だ。
一度時計を止めてしまうと、改めて年、月、日付、週、曜日、月齢の表示を修正しなければならず、修正にはコレクターで操作する必要があった。しかも専用工具を用いる手間や損傷のリスクもある。オーデマ ピゲが2025年に発表したパーペチュアルカレンダーは、こうしたデメリットを解決した新世代だ。

シグネチャーと呼ばれる同心円状のパターンがスモークブルーに映える。現行パーペチュアルカレンダー(Cal.5134)が有していた約40時間駆動、20mの防水性能を向上させながら、ムーブメントは0.4mmの薄型化を実現した。自動巻き(Cal.7138)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KWG(直径41mm、厚さ10.6mm)。30m防水。要価格問い合わせ。
新開発のCal.7138は、すべての表示修正をひとつで賄う“オールインワン”リュウズを搭載した。これは4つのポジションを備え、通常時の巻き上げから1段引きで閏年と月と日付の修正、2段引きの時刻設定後、再び1段戻すことで新たに週と曜日、月齢が修正できるシステムで、ふたつの特許を取得している。

また、直感的な操作を可能にしたユーザビリティにふさわしく、視認性も向上している。52週や曜日と日付はいずれも週の始まりと月の初日をそれぞれの12時位置に表記。さらにデイト表示は数字の幅に合わせた31歯の日付歯車を新設計し、針はつねに中央を指し示す特許取得の「プログレッシブステップ」を採用した。
パーペチュアルカレンダーは創業者が手掛けた縁ある技術であり、かつて機械式時計復権の象徴となった複雑機構への敬意と飽くなき挑戦の証しである。そして“永久”であることも記念すべき150周年を飾るにふさわしい。

新機構を搭載しながらもケースサイズは現行パーペチュアルカレンダーと変わらない。グランドタペストリー模様のブルーダイアルの6時位置にレイアウトされるムーンフェイズの月はNASAの写真をベースにしている。自動巻き(Cal.7138)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径41mm、厚さ9.5mm)。50m防水。要価格問い合わせ。
金、銅、パラジウムからなるサンドゴールド製ケースは、光の加減で淡い色合いが豊かに変化する。ダイアルを同色で統一し、カレンダー調整用のコレクターを省いたすっきりとしたケースプロファイルが優美な表情を描く。自動巻き(Cal.7138)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18Kサンドゴールドケース(直径41mm、厚さ9.5mm)。50m防水。要価格問い合わせ。
オーデマ ピゲに興味を持ったらAP LAB Tokyoヘ

150年に及ぶ歴史や主要コレクションを理解し、オーデマ ピゲのタイムピースに興味を抱いたのであれば、ぜひ「AP LAB Tokyo」に足を運んでほしい。この施設では「時間」「素材」「機構」「音」「天体」という、オーデマ ピゲの時計にまつわる5つのテーマに関連したゲームを用意。
すべてをクリアすると、オーデマ ピゲの技術者による説明を受けながら、高級時計の製造に不可欠な技術を体験できるようになっている。学びと娯楽を融合させた“エデュテインメント”スポットで、オーデマ ピゲ、そして高級時計の魅力を体感してみてはいかがだろうか。
AP LAB Tokyo
住所:東京都渋谷区神宮前5-10-9
Tel.03-6633-7000
営業時間:11:00~19:00
定休日:火曜日/入場料:無料
※予約優先、予約なしでの入場も可能 下記専用サイトから予約可能
AP LAB Tokyo予約URL:https://aplb.ch/g58k
