150年の長きにわたり、機構においても、デザインにおいても革新性を追求してきたオーデマ ピゲ。時計製作における妥協のない姿勢は今もなお貫かれ、数多くの魅力的なモデルをリリースし続けている。ここでは現在のオーデマ ピゲにおける柱となる5つのコレクションから、現行モデルを中心とした代表作を紹介していこう。
Styling by Eiji Ishikawa(TRS)
Text by Katsuyuki Tanaka(Atelier ADJET), Mitsuru Shibata
Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2025年5月号掲載記事]
高級時計に革命をもたらした「ロイヤル オーク」

それは、オーデマ ピゲからの1本の電話で始まった。内容は、これまでにないようなスティールのスポーツウォッチをデザインしてほしいという依頼。しかも締め切りは明朝。時はすでに午後4時だ。驚かされるのは、たったひと晩であるにもかかわらず、ジェラルド・ジェンタがこの無理難題を完遂したこと。そして仕上げられたスケッチの内容はほぼ変わることなく、時計は2年後の1972年に発売された。「ロイヤル オーク」の誕生だ。


しかし、多面で構成されたベゼルや一体型ブレスレットを備えた斬新なデザインは、当時の切削加工技術では困難を極めた。そのため製造コストは跳ね上がり、発売時にはゴールドよりも高額になったほど。搭載するCal.2121は、3.05mmの薄型だったが直径は28mmあり、さらに防水性能を確保するためにケースを大型化せざるをえなかった。結果、付けられたのは“ジャンボ”という異名。それだけ常識外れだったにもかかわらず、ロイヤル オークは受け入れられた。支持したのは旧態依然とした高級時計に飽き足らない若い世代であり、高級時計に革命をもたらしたのだ。
ロイヤル オークは誕生50周年を迎えた2022年にリニューアルを実施。文字盤のロゴ表記に加え、ラグ形状の見直し、ブレスレットリンクの厚みなど、細部のアップデートによってフィット感も向上した。自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm、厚さ10.5mm)。50m防水。412万5000円(税込み)。
半世紀以上にわたって先進技術を注ぎ、精度や信頼性を高めつつも基本的なデザインは一切変えない。一部のモデルでは1本につき200〜648点のパーツが使われ、ケースの製造だけでも10時間以上を要する。革新性に加え、クラフツマンシップが生み出す高い品質が時代を超越し、本作を名作たらしめたのである。

PGケースとブラックアリゲーターストラップを組み合わせ、よりシックな印象を漂わせる。ブラック文字盤を引き締めるグランドタペストリーは、初期のプチタペストリーよりやや大型化し1999年から採用する。自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KPGケース(直径41mm、厚さ10.5mm)。50m防水。627万円(税込み)。

ベゼルには40個のブリリアントカットダイヤモンド(約0.92ct)をセッティング。搭載するCal.5900は、従来のCal.3120の後継機として2022年に発表された。3.9㎜に薄型化し、精度や持続時間も向上している。自動巻き(Cal.5900)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径37mm、厚さ9.1mm)。50m防水。484万円(税込み)。

1997年の「ミニ オーク」を着想源に、ベゼル、ケース、ブレスレットはフロステッドゴールドで仕上げる。これはイタリア・フィレンツェの伝統的な鍛金技法を基に、ダイヤモンドチップの専用工具で表面に微細な凹凸を施したもの。光の加減でダイヤモンドダストのような輝きを生む。クォーツ(Cal.2730)。18KYGケース(直径23mm、厚さ6.6mm)。50m防水。495万円(税込み)。
約四半世紀ぶりの新コレクション「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」
C・・・Challenge(挑戦)
O・・・Own(継承)
D・・・Dare(追求心)
E・・・Evolve(進化)
CODEは、Challenge(挑戦)、Own(継承)、Dare(追求心)、Evolve(進化)からなるアクロニム。創業以来、絶えず挑戦し、レガシーを受け継ぐとともに、常識にとらわれない発想から革新を続けるブランドの精神を象徴する。“11.59”は新しい1日の始まりの直前“11時59分”を意味する。
名は体を表す──。コレクション名をあえて具象ではなく「CODE」としたのも、これまで培ってきたブランドのDNAと時計づくりへの強い情熱を込めたからだろう。そして「11.59」という、新たな1日の始まる直前を意味付け、未来への決意を掲げる。コンテンポラリークラシックをコンセプトにするスタイルは、正面から見れば極めて正統なラウンドケースの時計だ。だがその視点を移せば、まったく異なる貌が現れる。
ベゼルとケースバックの間には八角形のミドルケースを秘め、この八角形こそブランドのシンボリックなフォルムであることは言うまでもない。そしてオープンワークが施されたラグが、まるでブリッジのようにこれを跨ぐのだ。前面を覆うサファイアクリスタルの風防は複雑なダブルカーブを描き、見る角度によって多彩な収差を生む。こうした細部に施されたデザインが、まるで張り巡らされた伏線を発見するかのように味わえるのだ。

スレートグレーのダイアルにナイトブルー、クラウド50のアクセントカラーを組み合わせた新作。ダイアルにはシグネチャーと呼ばれるエンボスパターンを施し、微細な凹凸が優美な光の反射を生み出す。自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm、厚さ10.7mm)。30m防水。379万5000円。
オーデマ ピゲの新しいコレクションとしては約四半世紀ぶりであり、2019年のデビュー時には一挙13モデルと6種類の自社ムーブメントを発表。しかもカラーや素材、複雑機構など、毎年意欲作を発表してラインナップを拡充し続けている。それはブランドにおける“クリエイティビティのキャンバス”に位置づけられたコレクションの使命であり、本領発揮でもある。新たなブランドアイコンの躍進に瞠目はやまない。

3つの遊星ギヤが自転しながら回転し、時と文字盤の外縁に弧で記された分スケールで時分を表示する。17世紀の発明ヴァガボンドアワーに由来し、オーデマ ピゲでは1991年に初登場。前衛的なデザインが目を引く。自動巻き(Cal.4310)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KWG×セラミックケース(直径41mm、厚さ10.7mm)。30m防水。858万円(税込み)。

2019年発表の自社製一体型クロノグラフムーブメントCal.4401を搭載。フライバックをはじめ、独立リセットハンマーを備え、動作精度を向上した。文字盤とラバーストラップをダークグリーンで統一し、スタイリッシュに演出する。自動巻き(Cal.4401)。40石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm、厚さ12.6mm)。30m防水。522万5000円(税込み)。

41mm径が中心のコレクションに2023年に加わったサイズバリエーション。直径38mmの小径ケースに、鮮やかなプラムカラーで文字盤とストラップを統一する。程よいサイズと個性的な色調の組み合わせは、男性にも合う。自動巻き(Cal.5900)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KPGケース(直径38mm、厚さ9.6mm)。30m防水。495万円(税込み)。

エクストリームスポーツウォッチ「ロイヤル オーク オフショア」
アイコニックなナイトブルー、クラウド50のカラーを、セラミックス製ベゼルやダイアルなどに用いた、アニバーサリーイヤーにふさわしい新作。30年以上の熟成を重ね、プッシュボタンは大型かつフォルムに沿った角型を採用する。自動巻き(Cal.4401)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。セラミックス×SSケース(直径43mm、厚さ14.4mm)。100m防水。616万円(税込み)。
「ロイヤル オーク」誕生から約20年後の1993年に登場したコレクションが「ロイヤル オーク オフショア」だ。基本的なデザインコードを継承しつつも、エクストリームスポーツウォッチとしてケースは厚く大径になり、力強い存在感は発売当時、物議を醸し、“ビースト”と呼ばれた。だが若い世代はこれを熱狂的に受け入れ、ロイヤル オークの世界観と魅力はより広がった。

当初ブティック専用モデルとして登場し、2010年に本格ダイバー機能を装備した「ロイヤル オーク オフショア ダイバー」。優れた防水性に加え、11時位置のリュウズで設定する回転式インナーベゼルを備える。自動巻き(Cal.4308)。32石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約60時間。SS×セラミックケース(直径42mm、厚さ14.2mm)。300m防水。440万円(税込み)。

18Kピンクゴールドのケースとブラックセラミックスのベゼルを組み合わせることにより、マッシブな佇まいでありながらエレガンスを漂わせる。フィット感を高めるラバーストラップは簡単に交換が可能だ。自動巻き(Cal.4401)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KPG×セラミックケース(直径43mm、厚さ14.4mm)。100m防水。896万5000円(税込み)。

エレガントなPGケースにグレーカラーがスタイリッシュに調和する。文字盤にはグランドタペストリーをあしらい、オフショアを象徴するスポーティーなラバーストラップは、モザイクエフェクトを採用し、時計の表情を豊かにする。自動巻き(Cal.5900)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KPG×ラバーケース(直径37mm、厚さ12.1mm)。50m防水。682万円(税込み)。
伝統と未来を表現する「ロイヤル オーク コンセプト」

オープンワークダイアルに、スプリットセコンドクロノグラフとGMT、ラージデイトを備える。特許取得のCFTカーボンを初採用し、配合したブルーのアクセントが暗闇で光る。自動巻き(Cal.4407)。73石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。カーボン×セラミックケース(直径43mm、厚さ17.5mm)。50m防水。要価格問い合わせ。
2002年に「ロイヤル オーク」誕生30周年を記念して誕生。伝統的な時計技術からのインスパイアと未来を志向するコレクションとして、技術とデザインの実験的な試みを展開する「ロイヤル オーク コンセプト」。スーパーソヌリ、トゥールビヨンなどの複雑機構や最先端素材をはじめ、近作ではKAWSとのコラボレーションを発表するなど、魅力をさらに先鋭化させている。

フライングトゥールビヨンにGMT機能を搭載し、3時位置にはセカンドタイムゾーン、6時位置にリュウズ位置インジケーターを備える。コレクション初のグリーンセラミックベゼルがモダニティを演出する。手巻き(Cal.2954)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約237時間。Ti×セラミックケース(直径44mm、厚さ16.1mm)。100m防水。要価格問い合わせ。
名作アーカイブを再解釈する「リマスター」

2020年発表の第1弾は、1943年に製作されたレアピースのRef.1533をベースに、自動巻き化など現代の技術を注ぐ。クロノグラフのミニッツカウンターにはサッカーのハーフタイムを知らせるための赤い4|5の文字が記される。自動巻き(Cal.4409)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KPG×SSケース(直径40mm、厚さ14.6mm)。20m防水。参考商品。
レコードのリマスタリングのように名作アーカイブを現代のクリエイティブな感性と最新技術で再解釈する「リマスター」コレクション。2020年にスタートし、2024年には第2弾を発表。いずれのモデルも、オーデマ ピゲが150年の歴史の中で貫いてきた独創性やパイオニア精神はもとより、時計の未来をも感じさせる作風に仕上げられている。

1960年と61年にわずか7本が製作されたRef.5159BAがモチーフ。ブルータリズムの影響を受けた異形のケースは現在でも斬新だ。文字盤はシグネチャーカラーの「ナイトブルー、クラウド50」を採用する。自動巻き(Cal.7129)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。18Kサンドゴールドケース(横41mm、厚さ9.7mm)。30m防水。世界限定250本。682万円(税込み)。
