ポスト〝ラグスポ〟。新時代のドレスウォッチを最新モデルから理解する②仕上げ

2025.04.12

一大ブームとなったラグジュアリースポーツウォッチが定番化した後、新たなトレンドとして注目されているのがドレスウォッチだ。かつては使いにくいところもあったこの定番ジャンルは、現在は実用性を伴って、劇的に進化している。そんな新時代のドレスウォッチを、『クロノス日本版』2024年1月号(Vol.110)で再考した。その特集記事をwebChronosに転載。第2回は、外装の「仕上げ」からドレスウォッチを定義する。近年のドレスウォッチに見られる、「今までとは明らかに違う傾向を持つようになった」仕上げとは?

ポスト〝ラグスポ〟。新時代のドレスウォッチを最新モデルから理解する①装着感

FEATURES

奥山栄一、三田村優:写真
Photographs by Eiichi Okuyama, Yu Mitamura
加瀬友重、広田雅将(本誌):取材・文
Text by Tomoshige Kase, Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Tomoshige Kase, Yukiya Suzuki (Chronos-Japan), Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年1月号掲載記事]


新時代のドレスウォッチ Chapter 2 仕上げ

 本誌でも再三取り上げてきた高級時計の仕上げ。フラッグシップたるドレスウォッチには、もちろん各社を特徴付けるユニークで優れた仕上げが盛り込まれる。しかしながら、2010年以降のドレスウォッチは、今までとは明らかに違う傾向を持つようになった。凝ったダイアルと、ラグジュアリースポーツウォッチの仕上げを転用したケース、そして良質な針のリバイバルだ。


①ダイアル

2010年代、より具体的に言うと、2015年以降、各社は文字盤の仕上げに工夫を凝らすようになった。メッキやラッカー仕上げなどの古典的な手法はもちろん、PVDやDLC、そして電気鋳造メッキといった、かつてないアプローチで取り組むことで、高級時計の文字盤は、再現が不可能だったカラーや立体感を備えるようになったのである。細いベゼルで、文字盤の開口部を広げたドレスウォッチ。これは、新しい文字盤表現にはうってつけの「キャンバス」だったのである。

ヴァシュロン・コンスタンタン「パトリモニー・レトログラード・デイ / デイト」

ヴァシュロン・コンスタンタン「パトリモニー・レトログラード・デイ / デイト」
メッキによる鮮やかなブルーが目を引くモデル。色自体は定番だが、発色の鮮やかさは、さすがヴァシュロン・コンスタンタン。ドーム状の文字盤に合わせて取り付けられるインデックスは、文字盤と完全に密着している。また、文字盤には腕時計としては珍しいカボション状のミニッツインデックスがあしらわれる。彫り込んだインデックスはしばしば見られるが、別部品を固定するのは極めて珍しい。文字盤に注力するヴァシュロン・コンスタンタンならではのモデルだ。(問)ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755

 風防を固定するベゼルを細く絞り、文字盤を大きく見せるのはドレスウォッチの定石だ。防水性を求められなかったが故のデザインだったが、結果として、これはドレスウォッチの可能性を大きく広げた。つまり、カラフルな文字盤を載せるにはうってつけの「キャンバス」だったのである。

 ドレスウォッチに新しい色を加えるという試みは、すでに2000年代には存在していた。先駆けとなったのは間違いなくIWCである。同社CEOとなったジョージ・カーン(現ブライトリングCEO)は新製品に鮮やかなブルー文字盤を与えた。社内の反対にもかかわらず、この試みは成功を収め、その後IWCはドレスウォッチにもさまざまな色を盛り込むようになる。

H.モーザー「エンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーン」

グラデーションの「フュメダイアル」で一世を風靡したH.モーザー。新しい試みは、エナメルのグラデーションだ。手法自体はかつても存在したが、プレーンな3針モデルでの採用は極めて珍しい。プレスで荒らした下地に、10回以上エナメルをかけて焼き上げることで、単なる濃淡文字盤に留まらない表情を得た。写真が示す通り、エナメルの表面は完全にフラットだ。あえて研ぎ上げたのは、手作業であることを打ち出すよりも、質感の高さを強調するためか。針のディテールも良好である。

 さらに進化を遂げたのは2010年代半ば以降だ。それまでの塗装やメッキに加えて、DLCやPVDといったムーブメント用の手法を転用することで、腕時計はさまざまなカラーの文字盤を持てるようになったのである。今やロレックスのデイデイトやオーデマ ピゲのロイヤル オークでさえも一部のブルー文字盤にはメッキではなく、PVD処理を採用する。

 こういった変化は保守的と思われてきたメーカーにも変化を促した。好例が、カルティエと、ここで取り上げるヴァシュロン・コンスタンタンだ。両社はかつて、メッキ仕上げを用いたプレーンな文字盤を好んできた。しかし、ここ数年目立つのは、ミドルレンジも顔負けの鮮やかな文字盤だ。少なくともブルーという色は20年前とは異なり、ドレスウォッチの定番になったという証しだろう。写真の「パトリモニー・レトログラード」は、機構のユニークさと鮮やかな文字盤が目を引く傑作だ。

H.モーザー「エンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーン」

H.モーザー「エンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーン」
グラン・フー エナメルと槌目仕上げを組み合わせたグラデーショングリーンダイアルがモダンな仕上がりを見せる。ミニマリズムに徹したダイアルにはインデックスが存在せず、3つの針が静かに時間を示す。搭載する自社製Cal.HMC 200には、姿勢差による精度のズレを防ぐためのダブルヘアスプリングが採用されている。自動巻き(Cal.HMC 200)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm)。3気圧防水。(問)エグゼス Tel.03-6274-6120

 文字盤のユニークさで言うと、H.モーザーはこの業界の先を行っている。ラッカーを使ったグラデーションダイアル(いわゆる「フュメダイアル」)は、今や高級時計の定番となったし、極端に端正なそのデザインも、新興のマイクロメゾンに影響を与えた。そんな同社が取り組むのがエナメルのフュメダイアルである。かつてはエナメル文字盤の採用さえ難しかったが、サプライヤーや作家が増えた結果、エナメル文字盤に新しい表現を盛り込めるようになった。

 ミドルレンジにも優れた文字盤は少なくない。かつてこの分野はセイコーの独擅場だったが、今やロンジンを筆頭とするスウォッチ グループが猛追する。「ロンジン マスターコレクション」のスモールセコンドモデルは文字盤に流行りのサーモンカラーを使うだけでなく、インデックスを微細加工機(!)で深く彫り込んでいる。メッキでは出しにくいと言われた中間色を、まさかミドルレンジのロンジンが採用するとは、誰が予想しただろう?

ロンジン「ロンジン マスターコレクション L2.843.4.93.2」

価格以上のディテールに定評のある今のロンジン。新作はハイエンドもかくや、という仕上げを文字盤に盛り込んでいる。サーモンカラーの文字盤はメッキによるもの。発色が難しいこの色を、ロンジンは量産機に投入した。加えて、微細加工機でインデックスを深く彫り込んでいる。削り跡がほとんど見えないことからも、質の高さが見て取れよう。また、見返しのドット状のインデックスもプリントではなく、彫り込んで彩色したものだ。ディテールでアピールする、新世代のドレスウォッチの好例だ。

ロンジン「ロンジン マスターコレクション L2.843.4.93.2」

ロンジン「ロンジン マスターコレクション L2.843.4.93.2」
バランス良く配されたスモールセコンドとサーモンカラーのダイアルが、ヴィンテージなテイストを漂わせる。ダイアルのロゴやインデックスは、最新のCNCマシンを用いて彫り込まれたものだ。ポリッシュを主体としたエレガントなケースには、シリコン製ヒゲゼンマイを採用したムーブメントを搭載する。自動巻き(Cal.L893)。26石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径38.5mm、厚さ10.2mm)。3気圧防水。(問)ロンジン Tel.03-6254-7350


②針&インデックス

要素がシンプルであるからこそ、針やインデックスといったディテールは重要になる。ドレスウォッチにも視認性が求められるようになった現在ではなおさらだ。一時期はダイヤモンドカットによるプレーンなものばかりになったが、近年はマイクロメゾンを中心に、今までにないディテールを持つものが増えてきた。好例は、モリッツ・グロスマンの「37 アラビック」とクレドールの最新作「クオン」だ。いずれも優れた製法を前提とした、ユニークな造形が目を引く。

モリッツ・グロスマン「37 アラビック」

優れた仕上げを持つメーカーとして本誌でも再三取り上げてきたモリッツ・グロスマン。アイコンというべきスペード針は、ワイヤ放電加工機で大まかな形を作った後、手作業で磨き上げたもの。サプライヤーに依存しないが故の極めて凝った針だ。また、この針は同社の各コレクションに非凡な視認性を与えた。一般的に、針が細くなると時間が見えにくくなる。しかし、そこに立体感を加えることで、きちんと時間を読み取れるようになっている。実用性も重視したディテールと言えるだろう。

 1960年代以降、ドレスウォッチの針は明らかにプレーンになった。それ以前に見られた立体的な形状から、ダイヤモンドカットによる平たい針に変わっていったのだ。

 理由はふたつある。ひとつは時計のデザインがモダンになったため。鋭利なデザインのドレスウォッチに立体的な針は似合わないだろう。そして、もうひとつがコストダウンのため。高騰する人件費に対応すべく、各社はディテールの質を落とすようになった。もっとも、高級時計メーカーのハイエンドモデルは、以降も立体的な針を持ち続けた。しかしながら、コストダウンのため、複数のモデルで使い回す例も少なくなかったのである。

モリッツ・グロスマン「37 アラビック」

モリッツ・グロスマン「37 アラビック」
柔らかな書体のアラビア数字インデックスと、ブラウンバイオレットに焼き戻された針が、ダイアルを優雅に仕上げている。直径37mmのケースを採用するが、幅を狭めたベゼルによってこぢんまりとした印象を与えない。太くしっかりとしたラグと、ムーブメントの3/5プレートがドイツ時計らしい。手巻き(Cal.102.1)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWGケース(直径37mm、厚さ9.2mm)。3気圧防水。(問)モリッツ・グロスマン ブティック Tel.03-5615-8185

 機械式時計がリバイバルして以降、一部のサプライヤーは高級なドレスウォッチにふさわしい立体的な針を再生産するようになった。この中で最も知られるのは、今やスウォッチ グループの傘下となったユニベルソだ。ブレゲが傑出した針を持ち続ける理由に同社の存在がある。

 だが、ケースや文字盤の質が上がって以降も、一部の時計メーカーは針の質を上げることに対して距離を置き続けた。理由のひとつはメンテナンスのたびに針を交換するため。コストをかけて針を作っても、修理のたびに交換されるのならば、意味はないだろう。そしてもうひとつが、安定した供給が望めないためだ。サプライヤーが変わって、いきなり針の質が落ちるようでは、製品としての安定性が保てないのである。デザイナーたちの希望にもかかわらず、針の改善が進みにくい理由だ。

クレドール「クオン GCLX997」

仕上げの質の高さで高い評価を受けるクレドール。最新作の「クオン」はベーシックなドレスウォッチに今まで以上の外装を盛り込んだ試みである。ダイアルはセイコーならではの磁器製。周囲になじんだようなインデックスは釉薬で彩色されたものだ。このモデルの針には鮮やかな青に加えて、黒みがかったグレーテンパー針が採用された。スイス製の時計とは明らかに異なるディテールが本作に強い個性をもたらす。また、写真が示す通り、薄いケースには、らしからぬ立体感が盛り込まれる。

 しかしながら、文字盤やケースの完成度が上がるにつれて、各社は針の質を改善しようと試みるようになった。牽引するのはマイクロメゾンである。写真のモリッツ・グロスマンはワイヤ放電加工と手作業による研磨で、19世紀の懐中時計を思わせる極めて立体的な針を得た。ラング&ハイネも同様だ。これらは極端な例としても、一部のマイクロメゾンは立体的な針で、他社との差別化を図ろうとしている。

 一方、大メーカーは相変わらず良質な針の入手に悩んでいる。しかしながら、大メーカーにも良い針を持つドレスウォッチは存在する。写真のクレドール「クオン」は、セイコーエプソンの社内で青焼きした針を持つ。今やPVD処理の針も青焼きに遜色ない色味を持つようになったが、やはり青く焼いたスティール製の針は高級時計にふさわしいディテールと言える。カルティエも同様だ。同社の採用する青焼き針は、基本的にラ・ショー・ド・フォンの自社工場で生産される。

 今や価格帯を問わず、ドレスウォッチの外装は大きく改善された。となると、次に各社が目を向けるのは間違いなく針になるだろう。

クレドール「クオン GCLX997」

クレドール「クオン GCLX997」
ブレスレット一体型ケースにより、水の流れを表現したフォルムを持つ。磁器ダイアルには、新規デザインのローマンインデックスを黒色の上絵付けであしらう。ケースバックからは、ブリッジに与えられた波状の仕上げと、パワーリザーブインジケーターが確認可能。手巻きスプリングドライブ(Cal.7R31)。30石。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径39mm、厚さ10.8mm)。日常生活用防水。(問)セイコーウオッチお客様相談室(クレドール)Tel.0120-302-617


③ケース&ブレスレット

新旧のドレスウォッチで最も異なるのが、ケースとブレスレットかもしれない。最新の機械がもたらす高い工作精度は、ドレスウォッチの薄型ケースに高い防水性と気密性をもたらした。加えてこれは、かつて職人の勘に頼るしかなかったブレスレットの微妙な遊びを、厳密にコントロールできるようにした。ここで取り上げるふたつのモデルは、技術の進歩が実現した、新しい時代のドレスウォッチである。

オーデマ ピゲ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック」

「ドレスウォッチ」=「ラウンドケース」という常識に挑んだのが「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック」だ。極めて汎用性の高い時計だが、ディテールを見ると、これは明らかにドレスウォッチの進化形だ。ゴールドケースならば、本作のように複雑な造形を与えることも不可能ではない。しかしこれを、硬いステンレススティール素材でも実現したところに、オーデマ ピゲの非凡さがある。写真が示す通り、部品の噛み合わせ精度は極めて高く、サテン仕上げを施した部品もエッジはダレていない。これこそ、ドレスウォッチの枠を超えた新世代の腕時計だ。

 新しい時代のドレスウォッチで最も変わったのはケースとブレスレットかもしれない。かつて薄いケースに高い気密性を持たせるのは難しいとされたが、ケース製造にCNCマシンによる切削が普及し、その加工精度が上がった結果、薄いケースでさえも、それ以前の防水ケースに肩を並べるような気密性を得られるようになった。

 また、切削の普及により、一部のドレスウォッチは複数の部品から構成されるようになった。つまり、極めて立体的なケースを持てるようになったのである。その好例が、オーデマ ピゲの「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック」だ。複数の部品でケースを構成するというアイデアは、ウブロのビッグ・バンが広めたもの。スポーツウォッチの世界では広く使われるようになった手法を、オーデマ ピゲはドレスウォッチに転用したのである。

オーデマ ピゲ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック」

オーデマ ピゲ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック」
バーインデックスと同心円状のパターンダイアルを採用し、大きく印象を変えた2023年の新作。細部のデザインを見直したケースは、コレクション初のステンレススティール製だ。一見シンプルだが、八角形のミドルケースやダブルカーブサファイアクリスタルが、角度によって多彩な表情を見せる。自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm、厚さ10.7mm)。3気圧防水。(問)オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000

 かつて、こういった構造を持つケースは気密性が低いため、決して好まれなかった。しかし、今やドレスウォッチに使っても問題ないほど、技術は進化したのである。

 もうひとつのサンプルが、カルティエの「サントス デュモン」だ。写真のモデルは、ケースとベゼルを彫り込み、そこにラッカーを流し込んだものである。1990年代から2000年代にかけて、例えばアラン・シルベスタインなどが、ラッカーを埋め込んだケースを採用した。しかし、当時のラッカーはお世辞にも質が高いとは言えなかった。長く使うとラッカーが剥落したのである。対して、カルティエの新しいサントス デュモンはラッカーがケースにしっかり固定されており、長期の使用でも問題はない。かつてはリスキーとされた試みを採用できるようになったのも、加工や塗料などが大きく進化したためだ。

カルティエ「サントス デュモン」

定番中の定番であるカルティエの「サントスデュモン」。そこにカラーで新味を加えたのが本作である。ケースを切削し、そこにラッカーを流し込み、さらに磨き上げている。一般的に外装に塗装を加えることはリスキーとされるが、今のカルティエはこの手法をマスターした。古典的なモデルも色で大きく変わることを、ケースでも示した試み。かつては考えられなかったマットなドレスウォッチを実現したという点でも、本作は極めて革新的だ。ちなみにムーブメントには、傑作Cal.430 MCを搭載する。

 まだドレスウォッチでの採用例は少ないメタル製ブレスレットにおいても同様である。かつては手作業で調整していたブレスレットのコマの遊びも、切削の加工精度が上がった結果、かなりの精度で遊びを詰められるようになった。つまり、時計メーカーは、ブレスレットの左右の遊びという職人に頼っていた要素のある程度以上をコントロールできるようになったのである。

 もっとも、そもそもドレスウォッチという制約がある以上、ケースやブレスレットにおける新しい試みはまだ少ない。しかし、このジャンルが注目を集めると、新時代のドレスウォッチにふさわしい新しいケース、そして新しいブレスレットが各社から登場するに違いない。

カルティエ「サントス デュモン」

Antoine Pividori © Cartie
カルティエ「サントス デュモン」
1904年に誕生した初代「サントス」のデザインを色濃く受け継ぐ「サントス デュモン」。本作のケースは、ステンレススティールにラッカーを流し込み、手作業で磨き上げることでツートンカラーに仕上げている。伝統的なスタイルにモダンなテイストが同居した1本。手巻き(Cal.430 MC)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。SS(縦43.5×横31.4mm、厚さ7.3mm)。日常生活用防水。㉄カルティエ カスタマー サービスセンター0120-1847-00


仕上げで見るならマイクロメゾンもお勧めだ

文字盤を中心に、大きくディテールを改善する最新のドレスウォッチ。資本力のある大メーカーに良質なモノが多いのは事実だが、良い仕上げに目を向けると、マイクロメゾンにも魅力的な時計は少なくない。

オフィオン「OPH - 411 ヴェスパー」

オフィオン「OPH - 411 ヴェスパー」
気鋭のマイクロメゾンらしく、外装に振り切った試み。基本的な構成は従来の「786 ベロス」に同じだが、極めて立体的な文字盤が与えられた。自動巻き(Cal.シュワルツ・エチエンヌASE200ベース)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約86時間。SSケース(直径39mm)。50m防水。7950ユーロ。

 構成要素の少ないドレスウォッチには、必然的に仕上げの良さが求められる。とはいえ、多くの時計は工業製品であり、どの部品にどれくらいコストを割くのかは、全体のバランスで決まる。高価な自社製ムーブメントを搭載する時計であればなおさらだ。その点、マイクロメゾンは、コストの割り振りにおいて自由度が高い。あえてエボーシュを使い、その分を凝った外装に費やすという手法は、多くのマイクロメゾンに成功をもたらしてきた。時計愛好家の評価が高いミン(Ming)、キクチナカガワ、NAOYA HIDA & CO.などはその好例だ。

 ここで挙げる2本も凝った外装を持つマイクロメゾンだ。2014年に設立されたオフィオンは、その価格帯からは考えられないほど良い外装を持つ。最新作の「OPH-411 ヴェスパー」は、梨地仕上げの文字盤に鏡面仕上げのバーインデックスとキューブ型のマイクロインデックスを埋め込んだもの。ケースもカリ・ヴティライネンが設立したヴティライネン-カトゥン社によるものだ。同社の他モデルから推測するに、仕上げはかなり良好なはず。普通、こうした試みを加えると時計の価格は跳ね上がる。対してオフィオンは、ムーブメントにモディファイを加えたシュワルツ・エチエンヌ製のCal.ASE200を使うことで製造コストを抑えた。正直、このモデルをドレスウォッチと見なすかは迷うが、薄いケースがもたらす装着感と優れた外装を考えれば、新時代ドレスウォッチのひとつに加えても良さそうだ。

クロノブンキョウトウキョウ「クロノグラフ3 HISUI」

クロノブンキョウトウキョウ「クロノグラフ3 HISUI」
クロノグラフにユニークさとドレッシーさを加えた試み。ムーブメントにエボーシュのNR86を使うことで、凝ったディテールにもかかわらず価格を抑えている。自動巻き。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(直径39mm、風防を除いた厚さ11.7mm)。3気圧防水。完売。

 ドレスウォッチではないが、クロノブンキョウトウキョウの「クロノグラフ 3 HISUI」も、このジャンルに加えたくなる。目を引くのは翡翠色の文字盤。文字盤とサブダイアルの色味を微妙に変えて時計に表情を加えたのは、浅岡肇の手腕だ。普通はこういった難しい注文をサプライヤーは引き受けたがらないが、彼の識見に敬意を払ったためだろう。こういった試みも、丁寧に磨かれた針やケースという前提があればこそ。加えて、控めなインデックスや側面を大きく絞ったラグ、厚みを感じさせにくいMK.2ケースなどが本作に魅力を加えている。

 外装の加工技術が進化したことにより、再び日の目を見つつあるドレスウォッチ。その恩恵を最も受けたのは、マイクロメゾンではなかったか。今後、ドレッシーな時計を買うときの選択肢に、マイクロメゾンは間違いなく入ってくるはずだ。


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