オーデマ ピゲは長い歴史において、多彩かつ膨大な数のタイムピースを送り出してきた。それゆえに、ジャーナリストやライターなど、8人の有識者が考える“オールタイム トップ10”を見てもそのラインナップは多種多様だが、すべてのモデルに共通しているのは、オーデマ ピゲの突出したデザインセンス、そして革新性だ。
Styling by Eiji Ishikawa(TRS)
Text by Katsuyuki Tanaka(Atelier ADJET), Mitsuru Shibata
Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2025年5月号掲載記事]
岡村佳代「魅力はやはりロイヤル オークにあり!?」

自分でも驚いたのが、今回、10本の傑作を選ぶにあたり、資料も何も見ず次々と、時計の佇まいから初めて触れたときの高揚感まで、まるで映画の名場面集のように、流れるように思い出すことができたこと。まるで恋に落ちた人の香りをすぐに思いだせるように。
ロイヤル オークからハイジュエリーウォッチまで、鮮やかに記憶の中で生き続けるオーデマ ピゲのクリエイションは、まさに唯一無二だと改めて認識した。日頃から「オーデマ ピゲの魅力はロイヤル オークだけではない!」と主に女性読者に向けて発信しているが、結果、半数がロイヤル オークだったけれど。

人目をはばかることなき、この華やぎ! 眩いイエローゴールドと鮮やかなターコイズのドラマティックなコントラスト、37mmという絶妙なサイズ感 。個人的にあまりにもタイプ過ぎて、発表時からしばらくは夢にまで出てきたほど。美人でおしゃれでそれでいて知的で男前、人生を謳歌している──そんな理想の女性像を映し出す永遠の憧れ。
岡村佳代の“オールタイム トップ10”
- ロイヤル オーク 15550BA(2023年)
- ロイヤル オーク クロノグラフ 26240BA(2023年)
- CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ フライング トゥールビヨン 26665SG(2025年)
- ロイヤル オーク ミニ フロステッドゴールド クォーツ 67630OR(2024年)
- ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン “タマラ・ラルフ”(2024年)
- リマスター01 クロノグラフ(2020年)
- CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック 77410BC(2024年)
- ミレネリー 77244OR(2018年)
- サファイア オルブ(2019年)
- ロイヤル オーク 5402ST(1972年)
篠田哲生「所有欲を掻き立てる革新的なモデルが充実」

1位を選出した理由は「自分が所有しているから」だが、やはり39mmというサイズ感は素晴らしい。2位は購入するかを相当悩んだオフショアのクロノグラフ。以降のモデルも「欲しい!」と思う、しかも時計業界的にも革新性の高いものを選んでいる。
ロイヤル オーク コンセプトの初代モデルは、複雑機構とスポーツウォッチを融合させる原点であり、CODE 11.59バイ オーデマ ピゲのコンビモデルはケース構造の使い方に唸らされた。9位と10位は最近ご無沙汰の丸型と角型モデル。ここが拡充されるととても嬉しいと思っている人は、少なくないはずだ。

15年くらい前に購入したブラックダイアルのRef.15300は、自分の中での“良い時計”のベンチマーク。ケースやブレスレットの磨き仕上げやケースの薄さ、重心のバランスなど申し分ない。購入当時はそれほど人気がなかったが、あれよあれよと人気モデルとなった。その目利き力を自慢したい気持ちも含めて、最高傑作なのだ。
篠田哲生の“オールタイム トップ10”
- ロイヤル オーク 15300ST(2005年)
- ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ 26237ST(2018年)
- ロイヤル オーク コンセプト 25980(2002年)
- CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック 15210QT(2023年)
- ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン GMT 26589IO(2018年)
- CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ スターホイール 15212NB(2022年)
- ロイヤル オーク コンセプト スーパーソヌリ 26577TI(2016年)
- ロイヤル オーク クロノグラフ 26715ST(2023年)
- ジュール オーデマ エクストラ シン(2010年)
- エドワール ピゲ トゥールビヨン(2004年)
名畑政治「実際に目にした時計は、当時の感動が甦る」

オーデマ ピゲの長い歴史の中から10モデルを選べというのは極めて残酷な課題だ。しかし手元にあるオーデマ ピゲの歴史書やウェブ情報を総覧し、なんとか選出。資料でしか見たことのないモデルも多いが、1899年にオーデマ ピゲが製作し、ドイツの時計メーカーに供給されたグランドコンプリケーションは、実際にグラスヒュッテ時計博物館で目の当たりにした思い出の銘品。
また2016年のロイヤル オーク コンセプト スーパーソヌリは実際に操作して音を聞き、素晴らしい音色に感動した記憶が鮮明だ。すべて同列、順位なし。

オーデマ ピゲの職人が4年をかけて完成させた、ミニッツリピーター、スプリットセコンド クロノグラフ、パーペチュアルカレンダーなど21の機能を備える超複雑時計。これは2008年、グラスヒュッテ時計博物館取材の際に現物をこの目で見たのだが、整然とした表示の見事さと共に、その巨大さと美しさに圧倒された。
名畑政治の“オールタイム トップ10”
- グランドコンプリケーション(1899年)
- ジャンピングアワー(1930年)
- パーペチュアルカレンダー 5516(1955年)
- 5159BA(1960年)
- ロイヤル オーク 5402ST(1972年)
- パーペチュアルカレンダー 5548(1978年)
- 超薄型自動巻きトゥールビヨン 25643BA(1986年)
- ジュール オーデマ グランドコンプリケーション(1996年)
- ロイヤル オーク コンセプト 25980(2002年)
- ロイヤル オーク コンセプト スーパーソヌリ 26577TI(2016年)
並木浩一「複雑時計のブランドというイメージは今も不変」

過去30年の直接記憶と、印象に残るアーカイブから選んだ。1994年に本社を初訪問したのは、自動巻きトゥールビヨン造りを見るためだった。複雑時計部門にいた日本人N氏の印象もあり、「APは複雑時計のブランド」という心象は今にいたる。
スタイルに心を惹かれ続けてきたロイヤル オーク、ロイヤル オーク オフショアへの想いが最高に強まったのは2007年、アメリカズカップでアリンギがカップを奪取したときだ。スイス時計について書く以前、テレビのヨット特番のスーパーバイザーを行っていた小生に、ふたつの対象が予想外に結んだ縁の記憶は薄れていない。

小生がまだ小学生の頃に誕生した腕時計なのだから、抱く感情は懐かしさではなく無上の尊敬だ。半世紀以上も前に、どうしてこんな格好の良い時計が構想され、生み出されたのか。後にスイスでジェンタ氏と言葉を交わすこともあったのだけれど、あえて訊いていない。自分の中で編み上げた物語と違う答えを恐れたのかもしれない。
並木浩一の“オールタイム トップ10”
- ロイヤル オーク 5402ST(1972年)
- 超薄型自動巻きトゥールビヨン 25643BA(1986年)
- ジュール オーデマ トゥールビヨン 25964OR(2001年)
- エドワール ピゲ トゥールビヨン 26009BC(2005年)
- ディアマンティッシモ 79410BC(2006年)
- ミレネリー 15320BC(2006年)
- ロイヤル オーク オフショア チーム アリンギ リミテッドエディション カーボン 26062FS(2007年)
- CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ スターホイール 15212NB(2022年)
- リマスター02 オートマティック(2024年)
- ロイヤル オーク“ジャンボ” エクストラ シン 16202BC(2023年)

菅原 茂「複雑時計のブランドであることを再認識」

オーデマ ピゲの長い歴史を通じて真っ先に思い浮かぶのは複雑時計の技術である。ブランドが達成した技術的快挙は、近年ではロイヤル オークとCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲの2大コレクションで集中的に表現されるようになったが、これら以外でも過去に傑作は少なくない。
とりわけ興味深いのは、パーペチュアルカレンダーやリピーター(およびソヌリ)。いつの時代のモデルでも、もともとふたりの時計師から始まった複雑時計ブランドであることを常に思い出させてくれるのだから。

1955年に登場し、9本のみが作られたというこの稀少モデルは、腕時計では初の閏年表示付きパーペチュアルカレンダーを搭載していることが最大の特徴だ。また、時刻とカレンダー表示がすべて指針式の見やすいダイアル構成も、現在のロイヤル オークやCODE 11.59の同モデルにも受け継がれる「クラシック」となった。
菅原 茂の“オールタイム トップ10”
- エドワール ピゲ パーペチュアルカレンダー(2000年代)
- エクストラフラット(1979年)
- ジョン シェーファー ミニッツリピーター(1907年)
- パーペチュアルカレンダー 5516(1955年)
- 超薄型自動巻きトゥールビヨン 25643BA(1986年)
- スターホイール(1990年代)
- ロイヤル オーク ミニッツリピーター スーパーソヌリ 26591IT(2023年)
- CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ 26393BC(2019年)
- ロイヤル オーク 5402ST(1972年)
- リマスター01 クロノグラフ(2020年)
髙木教雄「革新性と秀逸なデザインの傑作10選」

時計を取材対象として以来、多くのメカニズムをオーデマ ピゲから学んだ。初めてミニッツリピーターの音を聞かせてもらい、均時差という存在や脱進機にはさまざまな種類があることを知ることができた。そうした中からヴィンテージも含め、これまで実際に手に取り感銘を受けた革新性に富んだ、あるいはデザインに秀でた10モデルを傑作としてセレクトした。
シリコンに手を出さず、金属のみで機構を進化させる姿勢が個人的には高評価。APエスケープメントの再登場と、ジュール オーデマやミレネリー、トラディションの復刻を切に願う。

ル・ブラッシュで実機を操作することができ、最高傑作の誕生だと確信した。永久カレンダーの各暦の個別調整をリュウズだけで実現したのは極めてユーザーフレンドリーである。その仕組みは揺動ピ二オンやカムなどを用いた大がかりなものであるにもかかわらず、操作感は実に良好。これを切削加工のみでかなえたのも驚きである。
髙木教雄の“オールタイム トップ10”
- ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー 26674ST(2025年)
- ロイヤル オーク 5402ST(1972年)
- CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル(RD#4)26398BC(2023年)
- ジュール オーデマ エクストラ シン 15180BC(2010年)
- 超薄型自動巻きトゥールビヨン 25643BA(1986年)
- ジュール オーデマ イクエーション オブ タイム(2000年)
- トラディション オブ エクセレンス キャビネ No.5 ミレネリー パーペチュアルカレンダー デッドビートセコンド パワーリザーブ(2006年)
- ロイヤル オーク コンセプト CW1 アラクライト(2002年)
- ジョン シェーファー ミニッツリピーター スターホイール(1995年)
- ジュール オーデマ クロノメーター オーデマ ピゲ エスケープメント(2011年)
広田雅将「選出したのは傑出したムーブメントを持つ作品」

創業から150年を迎えたオーデマピゲには、数え切れないほどの傑作がある。創業から1950年代までに作られたユニークピースや、60年代以降のデザインに振り切った時計、そして72年のロイヤル オークなどなど。ただ今回は、優れたムーブメントを持つ腕時計をメインに選んだ。
何にするか迷ったが、1位は間違いなくユニヴェルセルだ。また、1986年の超薄型自動巻きトゥールビヨンも、時計史に燦然と輝く試みである。デザインで注目すべきは、CODE 11.59 バイオーデマ ピゲだろう。ベーシックなモデルを換骨奪胎したその革新性は、後に高く評価されるはずだ。

オーデマ ピゲ空前の多機能を、優れたインターフェイスと合わせた試み。にもかかわらず、ケースは常識的なサイズに収まった。しかも、CODE 11.59ならではの優れた装着感は、超高機能である本作も例外ではない。自社製ムーブメントの開発から約四半世紀で、他にはない個性を持つに至ったのは快挙だ。中身を考えれば価格も妥当だ。
広田雅将の“オールタイム トップ10”
- CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル(RD#4)26398BC(2023年)
- ロイヤル オーク 5402ST(1972年)
- 超薄型自動巻きトゥールビヨン 25643BA(1986年)
- VZSS(1950年代)
- パーペチュアルカレンダー 5548(1978年)
- CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック 15210BC(2019年)
- スターホイール(1990年代)
- ロイヤル オーク コンセプト スーパーソヌリ(RD#1)(2015年)
- リマスター02 オートマティック(2024年)
- ロイヤル オーク コンセプト ラップタイマー(2015年)
福田 豊「ブランドの革新性に感嘆する10本」

10本は、腕時計のみ、年代順で選んでいる。そしてこの10本を見ていくと、改めてオーデマ ピゲの革新性に感嘆する。そのいちばんの代表が、グランドソヌリをシリーズ化してつくり続けていること。そんな時計ブランドは世界でほかにひとつもない。
ミニッツリピーターにも傑作が多数。スーパーソヌリは最先端の革新作だ。パーペチュアルカレンダー、イクエーション オブタイムも先駆的。ロイヤル オークにより「ラグジュアリースポーツウォッチ」という新ジャンルを築いたのも出色のこと。まさしく時計界を革新した、オーデマ ピゲを代表する名作だ。

Cal.2121/2120はオーデマ ピゲを代表する名ムーブメント。超複雑機構のベースとしても高名だ。またロイヤル オーク、ノーチラス、222が搭載したのも特筆点。すなわち2121の超薄型が「薄い時計を立体的に見せる」というラグジュアリースポーツの祖型を創ったのであり、これを初搭載したのが5271。歴史的名作である。
福田 豊の“オールタイム トップ10”
- VZSS(1950年代)
- 5271(1967年)
- ロイヤル オーク 5402ST(1972年)
- パーペチュアルカレンダー 5548(1978年)
- 超薄型自動巻きトゥールビヨン 25643BA(1986年)
- ジュール オーデマ レディース ミニッツリピーター キャリオン(1996年)
- ジュール オーデマ ダイナモグラフ(1999年)
- ジュール オーデマ イクエーション オブ タイム(2000年)
- ミレネリー オーデマ ピゲ エスケープメント デッドビートセコンド(2007年)
- ジュール オーデマ ミニッツリピーター スーパーソヌリ(2017年)
