18世紀末から、スイスのジュネーブを中心とした時計産業では、エナメルで細密画を描くミニアチュール・エナメルが隆盛を極めた。ジャガー・ルクルトのメティエ・ラール®工房がこの伝統技法を「レベルソ」で継承する。
Edited and Text by Chieko Tsuruoka (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年9月号掲載記事]
隆盛極めたジュネーブの伝統を今、手元に装う
古くからさまざまな装飾品に用いられてきたエナメルは、時計産業との関わりも密接だ。とりわけ18世紀末からスイスのジュネーブでは、ミニアチュール・エナメル(エナメル細密画)を施した懐中時計が、特別な顧客向けに、盛んに製造されていた。
このミニアチュール・エナメルを、かつてジュネーブで製造された懐中時計のように、ケースに施した腕時計がある。ジャガー・ルクルトの「レベルソ・ワン・プレシャスカラーズ」だ。ケースをスライドして反転させるという「レベルソ」の特性を活かし、文字盤側とは反対の面にグラン フー・エナメルでシェブロン、そして直線が描かれた。このジュネーブ伝統技法を手元に装いながら、目で見て楽しめるタイムピースとなっているのだ。

18Kホワイトゴールドのケースに、濃淡の異なるグリーンのシェブロンパターンをグラン フー・エナメルであしらったモデル。277個(約1.6ct)のダイヤモンドがセッティングされていることも、本作の特別感を押し上げている。手巻き(Cal.846)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38 時間。18KWG(縦40×横20mm、厚さ9.09mm)。30m防水。要価格問い合わせ。
このエナメルによる精密な幾何学模様は、ジャガー・ルクルトが擁するメティエ・ラール®工房が実現する。本作は、平らな面から丸みを帯びたケースサイドにかけて、シームレスにパターンが描かれる。このサイド部分の釉薬をケースに密着させつつ、さらに平面と同様に、R面にもムラなく均一に塗布し、焼成することは極めて難しい。直線のパターンは極細の筆で描かなくてはならず、本工房のエナメル職人の技術力の高さがうかがえる。

18Kピンクゴールドケースに、ブルーのグラン フー・エナメルを施したモデル。このエナメル加工作業は最大15回の焼成と200℃での複数段階での乾燥を含めて約80 時間、277個(約1.6ct)のダイヤモンドのセッティング作業は約45時間が費やされているという。手巻き(Cal.846)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。18KPG(縦40×横20mm、厚さ9.09mm)。30m防水。要価格問い合わせ。
鮮やかな配色も特筆すべき点だ。グラン フー・エナメルは高温で焼成されるが、この焼成は繰り返しの窯入れと徹底した温度管理が求められ、読み間違えるとすぐに釉薬の色が変わってしまう。エナメルによって濃淡の異なるグリーンまたはブルーが鮮やかに、そして均一に描かれた本作は、メティエ・ラールの名の通り、「匠の技」なくしては成し得ないのだ。
最新の工作機械や設計技術に依存しないレベルソ・ワン・プレシャスカラーズは、意匠としても、製法としても、ジュネーブで隆盛を極めた伝統を真に味わえるタイムピースと言える。
Contact info: ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833