ヴァシュロン・コンスタンタン「ヒストリーク・222」オリジナルが持つ個性を引き出した老舗の力量

2025.04.05

時計愛好家たちから高い評価を得た、2022年発表のイエローゴールド製の「ヒストリーク・222」。これは単なる焼き直しに留まらない、ドレスウォッチの再解釈ともいうべきモデルであった。それから3年、ジュネーブの老舗は新しくステンレススティール製を発表した。素材が変わっただけかと思いきや、際立ったのが、おそらくはオリジナルが目指したであろうユニークな立ち位置である。

ヴァシュロン・コンスタンタン「ヒストリーク・222」

奥山栄一:写真
Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年5月号掲載記事]


スポーティーながらもドレスウォッチ然とした仕立て

 1977年、ヴァシュロン・コンスタンタンはバーゼル・フェアにおいて、創業222周年を記念する1本の腕時計を発表した。その名は「222」。ケースとブレスレットを一体化させた構造に、厚さわずか3.05mmの超薄型自動巻きムーブメントを搭載したこの意欲作は、今で言う“ラグジュアリースポーツウォッチ”の先駆けのひとつだった。

 開発のきっかけは、シンガポールのリテーラーが発した、あるリクエストにある。

「他社のようなスポーティーな腕時計を作れないか?」。この問いかけに応えたのが、ヴァシュロン・コンスタンタンのアンドレ・ゴアだった。彼は弱冠24歳の“マーベリック”ことヨルグ・イゼックを抜擢し、新作のデザインを全面的に委ねた。後に時計デザインにおけるエルゴノミクスの第一人者と目されるイゼックは、腕時計の着け心地に対して、当時すでに明確な哲学を持っていた。イゼックはケースと裏蓋を一体構造とし、防水性を高めるためにベゼルをねじ込み式とした。

ヴァシュロン・コンスタンタン「ヒストリーク・222」

 こうして完成した222は、厚さ7mmという薄型ケースながら、120mもの防水性能を誇る腕時計となった。商業的には大きな成功を収めなかったものの、本作のコンセプトが優れていたことは、後の「オーヴァーシーズ」が222の構成を継承したことからも明らかだった。

 さて、ここからが本題である。2022年、ヴァシュロン・コンスタンタンはこの222を復刻し、「ヒストリーク・222」として発表した。ただし、これは単なる焼き直しというよりも、“再解釈”と呼ぶべきモデルだった。ケース素材に選ばれたのは18Kイエローゴールド。しかも、サテン仕上げは現行の“ラグスポ”とは明らかに異なる、やや浅めのタッチとされ、ダイアルも落ち着いたクリームカラーに改められた。

 加えて、ブレスレットの遊びは適度に抑えられ、バックルも良質なトリプルフォールディングタイプに刷新された。つまり、ヴァシュロン・コンスタンタンが打ち出したのは、ラグジュアリースポーツウォッチのリバイバルではなく、ブレスレット一体型のドレスウォッチの“再構築”だったのである。

 そこに新しく加わったのが、ここで紹介するステンレススティール製の222である。基本構成は2022年モデルと同じだが、素材をステンレススティールとしたことで、その個性が一層強調されたのは興味深い。そもそも1977年のオリジナルは、72年の「ロイヤル オーク」や76年の「ノーチラス」に比べて、実はドレッシーな造形を持っていた。

ヴァシュロン・コンスタンタン「ヒストリーク・222」

ヴァシュロン・コンスタンタン「ヒストリーク・222」
世界的な評価を得た2022年発表の「ヒストリーク・222」。このモデルをステンレススティールに改めたのが本作である。薄いケースと軽さが際立った装着感をもたらす半面、テーパーを強めたブレスレットはドレッシーな印象を高める。搭載する自動巻きムーブメントはパワーリザーブこそ短いが、感触は際立って良好である。自動巻き(Cal.2455/2)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径37mm、厚さ7.95mm)。5気圧防水。ヴァシュロン・コンスタンタンのブティック限定販売。475万2000円(税込み)。

 それを示すのがバックル側に強いテーパーをかけたブレスレットである。イゼックは、ジェラルド・ジェンタの好んだ手法をより進化させ、一昔前のドレスウォッチ並みにテーパーを強くしたのである。テーパーを抑えたブレスレットを好んだ後のイゼックを思えば意外だが、薄い222ならば、この構成でも装着感は悪くならないと判断したのだろう。これこそヴァシュロン・コンスタンタンが、2022年のヒストリーク・222を“ラグスポ”ではなく、あえてドレスウォッチの文脈で再構築した理由ではなかったか。

 筆者が2022年の18Kイエローゴールドモデルで驚かされたのは、マッシブな見た目と重さからは想像できない、軽快な装着感だった。理由は、時計本体とブレスレットの重量バランスが優れていたため。そして、このキャラクターは、新しいステンレススティールモデルで一層強調された。具体的には重量が減ったことで、着用感はより快適に、かつ軽やかになった。しかも18Kイエローゴールドモデルで評価された、適度な遊びを持たせたブレスレットは、そのまま継承されたのである。

 正直に言うと、筆者はこのステンレススティール製の222にそれほど期待していなかった。しかし、時計愛好家の皆さんであれば、一度は本作を腕に載せ、その装着感を確かめてみてほしい。ドレスウォッチのような、そしてスポーツウォッチのような本作の仕立ては、ちょっと類を見ないし、実はそれこそが、222本来の個性ではなかったのか。復刻版を単なるリバイバルに終わらせなかった、老舗の力量には脱帽だ。



Contact info:ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755


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