いまや国内外に894のホテルを展開するアパホテル(アパ直参加ホテルなどを含む。2024年12月時点)。首都圏では主要な駅の近くにはほぼアパホテルがあるというイメージが定着している。そのビジネスホテル業界トップの組織を率いるのが、個性的な帽子を愛用する元谷芙美子社長だ。お金を貯めることに興味がないと公言しており、宵越しの金は持たない主義だという。そんな豪快な金銭哲学を持つ女社長が選んだ時計に今回は注目したい。

Text by Yukaco Numamoto
土田貴史:編集
Edited by Takashi Tsuchida
[2025年4月5日掲載記事]
帽子が目印! 死線を2度くぐり抜けた女傑の波乱の半生
ある意味、芸能人よりも知名度が高い存在と言えるだろう。日本の最大ホテルチェーンであるアパホテル社長の元谷芙美子と聞くと、多くの人はトレードマークともいえる帽子を被った姿を連想する。特徴的なルックスで、ホテルのPRに積極的に出演しているので、普段ビジネスホテルを利用することがない人でも、駅ナカの広告やテレビCMで見かけたことがあるだろう。
そんな元谷芙美子は福井県出身。未熟児として生まれ、なんとか生き延び、1歳の時に福井地震に被災している。その際、気絶して倒れていたところに、観音開きになった仏壇に偶然守られて助かったため、「1歳までに2回死にかけたので一生分の厄落としをしている」と、本人は考えているそうだ。
元々は学校教員になりたかったが、家庭の事情で高校卒業後は福井信用金庫に就職し、金融機関で組織された労働組合の会合の席で、夫の元谷外志雄と知り合った。夫が起業した信金開発株式会社(現・アパ株式会社)の取締役を経て、1994年にアパホテル株式会社取締役社長に就任している。
53歳で夢を叶えた学生生活! ホテル経営と両立した驚きの行動力
彼女の行動力の高さを示すエピソードがある。なんと53歳で社長業の傍ら、夢だった大学進学を叶えたのだ。そのきっかけは長男夫婦との食事中に見ていたドラマで、懸命に頑張る小さな女の子の姿に心を動かされたことだった。2001年1月、思い立ったその日の時点で受験できる大学を探して、法政大学人間環境学部を受験した。
環境について勉強しようと思ったのも、ホテル社長として環境を重視した時代が来ると予感していたからだ。入学後は1日も休まず、最前列で講義を受け、充実した4年間を過ごす。学習意欲が刺激されたのか、続いて早稲田大学大学院を受験して合格。「やりたいことに遅いことはないのだと思います」と、インタビューで語ったこともある。
「宵越しの金は持たない」豪快な金銭哲学が支える52年連続黒字経営
独自の金銭哲学を持つ元谷芙美子は「宵越しの金は持たない主義」である。生活費で使用する分以外は、ほとんどをホテル事業などへの投資につぎ込んでいるが、2人の息子のお嫁さんや従業員にプレゼントをするのが大好きで、足りなくなったら夫に借りに行くこともあるという。
52年連続で脅威の黒字経営を続けるAPAグループの背景には、そんな豪快な金銭哲学が息づいているのかもしれない。
実用性と優雅さを兼ね備えた一本! 女社長が選んだロレックスの真価
アパグループの公式インスタグラムにも広告塔として自ら登場する元谷芙美子。その突出した個性派ファッションに目が行くが、腕元に確認できるのはロレックス「デイトジャスト」のコンビモデルだと思われる。自動巻き(Cal.2236)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。ロレゾールケース(直径31mm)。100m防水。
アパグループの公式インスタグラムが設立されたのは2023年8月のことだ。その後、元谷芙美子が動画で初めて登場した際に着用していたのが、ロレックスの王道レディースモデル「デイトジャスト」のコンビ(ロレゾール)モデルだと思われる。この時計は、2020年頃のインタビュー記事や2021年に投稿されたSNSなどにも着用していたことから、愛用モデルなのだろう。
ロレックスのレディースモデルの中でも不動の人気を誇るデイトジャストは、ラグジュアリーでありながら知的な雰囲気を演出できるモデルだ。特にバリエーションが豊かなモデルなので、リファレンスの特定は難しいが、フェミニンなスタイルを信条とする元谷芙美子のチョイスとしては、幾分意外に感じた人もいるのではないだろうか。
しかし、日本のホテル業界のトップに君臨する元谷芙美子は、時計にラグジュアリーさだけを求めているわけではないのだろう。財布も亡くなった古い友人からもらったものを大切に使い続け、お札は財布とは別に和紙の封筒に入れて使用しているというのだ。
和紙の封筒に入れる理由はお札が傷まないためだというが、そんな実用性を重視する彼女がロレックスの定番モデルを選んだことには納得がいく。堅牢性、エレガンス、両方の調和がとれたロレックスは、他のジュエリーともぶつかりにくい。
元谷芙美子のポジティブな考え方や自由な生き方に憧れや共感を抱く女性経営者も多いという。これからもその元気で独創的な姿を、私たちに見せ続けてくれることを願わずにはいられない。