【お(た)くの細道】ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2025日記 Day 3「さすがに時計見過ぎて、頭混乱してきたぞ」

2025.04.07

やあみんなこんにちは!『クロノス日本版』とwebChronos編集長の広田雅将だよ! 今年も世界最大の時計見本市、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2025が開催されるので、強制的に動員されることになった。「広田さん、またジュネーブ日記書くんですよね?」「おおん?」というわけで、今年も会場の様子、新作の超雑感などをお届けします!

なんと今年のウォッチズ&ワンダーズには、ショップがあった。どれも高いけど、折りたたみ傘だけは50スイスフランと安い。パーカー(75スイスフラン)を買おうと思ったけど、完全なマニアになりそうなので止めた。

【お(た)くの細道】ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2025日記 前夜祭 by ヒロタ

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広田雅将(クロノス日本版):写真・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[2025年4月7日公開記事]


Day3は朝食にありついてから、F.P.ジュルヌの本社工房へ

 2025年4月3日、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ3日目。今日はなんと朝食の時間があった。ホテルのレストランでサンドウィッチを食べる。ジュネーブのホテルよりずいぶんマシで、電車移動がなければ、ジュネーブの定宿はここにしたいぐらいだ。朝7時34分の電車に乗り、トラムを乗り継ぎ、8時半過ぎにジュネーブ市内にあるF.P.ジュルヌの工房着。新作を(といっても1点しかないのだが)を見る。

ホテルの部屋。いい感じでとっちらかってきました。部屋自体は快適だけどバスタブなし。変えてあげようかと言われたけど、おっくうなので断った。変えておけば良かったかなあ。

ホテルのレストラン。なんと珍しくハムがある。というわけで、スイス恒例のホットサンドを作って食べた。意外と美味しい。

出勤風景。1等車と2等車では料金が倍違うが、乗るのは1等だ。というのも、この時間の2等は座れません。

コルナバン駅からトラムに揺られてF.P.ジュルヌに向かう。5分ほど。W&WGのパスがあれば、期間中は公共交通機関は乗り放題になっている。

シナゴーグ通りに面したF.P.ジュルヌの本社。「ジャーナリストよりもコレクターたちが増えて大変だ」とのこと。

 もっとも、その新作はただ事でない。「クロノメーター・フルティフ」は、ブレスレットを含めてタングステン・カーバイド、文字盤もなんとブラックエナメル製だ。加えてムーブメントも面白くて、4番車がセンターにあるダイレクトセンターセコンド輪列を採用している。F.P.ジュルヌでは初とのこと。F.P.ジュルヌらしさが横溢しているのは、輪列をコンパクトにまとめることで余白を作り、その上下にパワーリザーブとムーンフェイズを加えたこと。スペースの魔術師は一層冴えた感がある。もっとも、F.P.ジュルヌの工房はこれを作れるのだろうか。公称の年産は1000本だけど、実際はもっと少ないのだ。

F.P.ジュルヌ「クロノメーター・フルティフ」

F.P.ジュルヌの新作が「クロノメーター・フルティフ」。外装すべてをタングステンで作るという無茶振りがすごい。しかもエナメル文字盤の出来も、僕が見た中ではピカイチだろう。F.P.ジュルヌ御大は完全な鏡面を求めたとのこと。そこにレーザーでロゴなどを彫っている。

F.P.ジュルヌ「クロノメーター・フルティフ」

搭載するムーブメントも別物だ。ツインバレルは従来の「クロノメーター・スヴラン」に同じ。しかし輪列をコンパクトにまとめて、上下に付加機構を加えている。センターセコンドの挙動も安定している。

F.P.ジュルヌ クロノメーター・スヴラン

こちらは比較として。「クロノメーター・スヴラン」はものすごく好きだけど、入手はものすごく大変。

取材中の様子。ホソヤン(編集部の細田雄人)もめちゃくちゃ動いてます。それに伴い、彼のトレードマークであるスウェイン&アドニーのトランクはめっちゃ痛んできた。


再びW&WG会場へ!

 10時に取材を終えた後、タクシーで慌ててPalexpo(パレクスポ)に移動。別チームが撮影している、ジャガー・ルクルトに乱入。ミラネーゼブレスレット付きの「レベルソ」は傑作じゃないですかね。それと、ワールドタイマーこと「レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク」もいい。値段は上がったけど、ジャガー・ルクルトの外装は大きく底上げされた感がある。いいなあ、老舗復活かも。どうでもいいけど、開発責任者の浜口尚大さんとは、4月下旬に対談します。お楽しみに。

ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク」

お金があったらこれは欲しい。「レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク」は、裏側にワールドタイムを合わせたモデル。縦49.4×横29.9mm、厚さ11.14mmというサイズもいい。

ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク」

ジオグラフィークの裏側には、各国の都市名と24時間リングが配されている。サファイアクリスタルの中心を薄く削ってくり抜き、そこにレーザーエッチングしたメタルのプレートをはめ込んでいる。サファイア自体に色を付けたり、穴を開けたりしなかった理由は「デザイナーが望まなかったから」(浜口さん談)。

ジャガー・ルクルト レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド

2025年の推しはこれかも。「レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド」は、非常によくできたミラネーゼを備えている。600万円台という価格も魅力的だ。

ジャガー・ルクルト レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド

ミラネーゼの大きな特徴が、剣先をベルトの内側に差し込むこと。これにより、見た目はかなりすっきりする。ミラネーゼの専用工房(ドイツではない)と共同開発したブレスレットはかなりどころか、抜群の出来映えだ。

 ジャガー・ルクルトに30分滞在した後、モンブランCEOのローラン・レカンのインタビュー。今年同社が推すのは「モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン」。ベゼルがブルーの2トーンになったほか、ケースサイズも直径38mm、厚さ12.3mmと小さくなり、まともなISO 6425に準拠したダイバーズウォッチになった。「日本を含むアジアには受けるでしょう」とのこと。他にもいろいろ話したが、政治的に微妙なので内容は記さず。個人的に引かれたのは、ミネルバの年次カレンダーである「モンブラン 1858 ジオスフェール アニュアルカレンダー リミテッドエディション – 30」。一見地味だが感触、仕上げともにいい。

モンブラン 1858 ジオスフェール アニュアルカレンダー リミテッドエディション – 30

今年目を引いたのは、ミネルバのワールドタイマー。都市名ではなく地球儀と第2時間帯表示を連動させたのは新しい。仕上げは素晴らしいが、そろそろケースの造形には新味が欲しい。


W&WG会場からホテル デ・ベルグへ

 その後、再びタクシーに飛び乗り、市内にあるホテル デ・ベルグに移動。移動だけで痩せそうです。ユニバーサル・ジュネーブの話を、ディレクターのグレゴリー・ブルタンから聞く。彼がロジェ・デュブイの開発責任者だった頃から話を聞いているので、余計な前置きがいらないのはありがたい。いろいろすっ飛ばして深い話を聞く。ガチガチにNDAを結んでいるので写真も撮らず。「僕が最初に買ったのは、実はユニバーサルのマイクロローターだった。ユニバーサルに来たのは運命だと思うよ」。ブルタンはマイクロローターマニアだったのか!!! 日本で飲む約束をして退散。

ユニバーサル・ジュネーブの取材でホテル デ・ベルグに移動。NDAを結んでいるため写真は撮らず。この天気、仕事でなければ最高なんだけどなあ。

昼食を食べる時間がないと伝えたところ、ユニバーサルがサンドウィッチを持たせてくれた。フォトグラファーの堀内さんとタクシーの車内で食べる。デ ベルグ製だからそりゃいいけど。もっと景色のいいところで食べたかった。


またまたW&WG会場へとんぼ返り……

 その後再び、タクシーでパレクスポに移動。その後、かろうじてプレスセンターで昼食をとる。秘密の調味料を持ってきたので、これでラーメンのリベンジ。意外とイケるんじゃないでしょうか、知らんけど。集ったジャーナリストたちはいよいよ殺伐としている。

3日目の会場。パブリックデーはまだだが、かなり混んできた。プレスセンターも激混みでのもはやどうにもならない。

 14時から、IWCの開発責任者であるステファン・イーネンに話を聞く。今年は外装に特化していたため、彼の本領たるムーブメントの話題は少なかった。「CEOのグランジェ・ヘア(編集部注:クリストフ・グランジェ・ヘア)にケースを薄くしろと言われるんだな、これが大変なんだよ」とのこと。もしシリコン製ヒゲゼンマイを採用したら、「インヂュニア 35」は買うかもしれない、と伝えたところ「シリコンの研究は続けているよ」とイーネンは答えた。ともあれ、彼がいる限りIWCは信頼できる。

IWC インヂュニア

直径42mmの新型「インヂュニア」。サテンとブラスト仕上げにより、外装の質感はかなり落ち着いている。リュウズのガタのなさは天下一品だ。

IWC インヂュニア

セラミックス製インヂュニアのケース構造。セラミックスにねじ込みは出来ないので、ムーブメントリングに裏蓋をネジ留めしている。ムーブメントで知られるIWCだが、外装の技術はひょっとしてそれを上回っているかも。

 その後、ヴァシュロン・コンスタンタンのプロダクション&イノベーションディレクターであるサンドリン・ドンガイさんへのインタビュー。「外装にもより力を入れるようになったのは、前のCEOであるルイ・フェルラが来て以降でしょうね」。デザインも分かる、製法も分かる彼女は強い。でもって、女性用が良くなったのも納得だ。「今回の270周年には、文字盤にグラフィカルに改めたマルタ十字をあしらっています。製法はギヨシェ、エンボス(つまりプレス)、そしてマザー・オブ・パールにはエングレーブ」。製法が違うのに、仕上がりをほぼそろえてきたのはさすがヴァシュロン・コンスタンタンとしか言いようがない。

 16時15分からはIWCのタッチ&フィール。十分触りきれなかった新作を堪能する。感心させられたのは、リュウズのガタのなさ。最近いろんなメーカーがリュウズ周りの遊びを詰めているが、その中でもIWCはピカイチじゃないか。一通り聞いたので、記事のネタには困らないかも。「でもなぜ、ショックアブソーバーにBMGガラスを使ったんですか?」「むしろあれを外装に使う方が信じられないよ」。

入りやすいこともあってか、IWCのブースは大盛況だった。人、人、そして人!

映画『F1』で使用されたモデルの市販版。インデックスと針を金色にすることで、普通のパイロットウォッチと比べてシックに見える。個人的にはかなり萌える色の組み合わせだ。


IWCとパルミジジャーニ・フルリエ経由でウブロ行き

 その後、所用があり会場内を回る。パルミジジャーニ・フルリエのブースで、コンセプトCEOのヴァレリアン・ジャケと会う。「今年ジェイコブに行った?」「いやまだですけど」「今年の4軸トゥールビヨンは面白いよ、ぜひ見て」。後に見たけど、確かにこれはヤバい。

パルミジャーニ・フルリエ トリック

今年パルミジジャーニ・フルリエは「トリック」に永久カレンダーを加えた。あえてインダイアルをふたつにまとめた、完全なツウ向け。ごちゃごちゃさせないところに、CEOであるグイド・テレーニの見識がうかがえる。売れるかは分からないけど、これは好きです。

 他、関係者たちと会った後、ウブロの取材に合流。新作を一通り見る。

 ウブロはド派手なイメージが強いけど、毎年のように内外装に手を加えている。「ビッグ・バン」20周年の今年は、なんと初代モデルをほぼ忠実に復刻した。もっとも搭載するのは、新しいムーブメント「ウニコ2」で、ケースの素材もチタンになった。部品の噛み合わせが良くなったほか、樹脂(ウブロはカーボンと言っているが)の成形も良く、何しろ感触が改善された。プッシュボタンの押し心地は、ウニコ2搭載機の美点だろう。ちょっとこれは欲しいかも。

ウブロ ビッグ・バン

今年は「ビッグ・バン」20周年ということで、初代モデルの復刻版が出た。これは「ビッグ・バン 20th アニバーサリー チタニウム セラミック」。見た目は初代にほぼ同じだが、中身は新しいウニコ2。そしてステンレススティールからチタンに置き換えられた。

ウブロ ビッグ・バン

復刻版をサイドから見る。「耳」の成形が良くなったほか、部品の面は整い、噛み合わせも良くなった。2005年モデルと同じに見えるが、出来は別物だ。

こちらはビッグ・バン20周年セットなるもの。1億何千万だか、だそうです。好事家向けね。

ウブロ ビッグ・バン

意外な伏兵が「ビッグ・バン ウニコ ミントグリーンセラミック」。発色の難しい中間色をセラミックで実現したほか、ストラップや文字盤も、完全に同色にそろえてみせた。この合わせ込みは、他者では真似できないだろう。

ウブロ ビッグ・バン ワンクリック

簡単にストラップを交換できる「ビッグ・バン ワンクリック ジョイフル」。今年はベゼルに36個のカラージェムストーンがセットされたモデルを加えた。色をそろえるのは、今やウブロのお家芸かも。

昨年は発泡スチロールで展示物を作り、全世界的に不評だったパネライ。今年は見やすく、入りやすいブースになった。もっとも、個別取材はなし。もったいない。

取材が出来ないのでブースの写真のみ。今年パネライは、「ルミノール」の防水性能を500mに高めた。ムーブメントはCal.900計の改良版であるCal.980。どうせなら傑作Cal.9010を載せて欲しいところだが、ケース厚を保ちつつ、500mの防水性を実現できたのはCal.900系の薄さがあればこそか。


ブライトリングとの会食後、また40分かけてホテルへ

 その後、ジュネーブ市内に移動して、今やユニバーサル・ジュネーブとギャレ(僕らはギャレットと呼びたい)を傘下に収めたブライトリングとの会食。気の置けない感じでゆるゆる酒を飲む。情報交換と言うよりも雑談。

 食事を早々に終え、トラムに乗ってコルナバン駅に行き、電車で40分揺られてモルジュに着く。23時頃。0時に就寝する。さすがに時計見過ぎて、頭混乱してきたぞ。

ブライトリングとの食事は、市内のオサレレストランだった。味は大変に良かったのでブクマしました!

ブライトリング

なぜかジュネーブのレストランでは、タルタルがよく食べられる。というわけでタルタルを注文。ガーリックと砕いたナッツ入り。日本でも食べたい味だ。

そして列車に揺られてモルジュに向かう。長旅なのよねえ。


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