東京・銀座にパテック フィリップの殿堂現る「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」

2025.04.21

日本最大級のパテック フィリップのオンリーブティックとして誕生した「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」。その格式と洗練を兼ね備えた店舗は、国内外の時計愛好家にとって垂涎の場となっている。開業を導いたのは、日本における高級時計文化の発展を牽引し続けてきたザ アワーグラスジャパン代表取締役の桃井敦氏だ。同店の魅力、そしてオープンまでの知られざるストーリーを紹介しよう。

パテック フィリップ ブティック 東京 銀座

橋本美花:写真 Photographs by Mika Hashimoto
髙井智世:取材・文 Text by Tomoyo Takai
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年5月号掲載記事]


「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」

パテック フィリップ ブティック 東京 銀座

「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」は、銀座・並木通り5丁目に位置する。ここは2024年までアワーグラス銀座店があった場所だ。旧店舗は並木通り6丁目へ移転し、その店舗跡が、スケルトン仕様で再構築された。200㎡を超える広々とした空間を活かし、最新のデザインコンセプトの下、ブランドの世界観を余すところなく表現している。広いVIPルームも完備され、格調高い接客空間を提供している。

 東京・銀座、並木通り。数々の名門ブランドが居並ぶこの地において、ひときわ静謐な重厚感を放つ時計店がある。それが日本最大級の規模を誇るパテック フィリップ専門ブティック、「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」である。同店は、春節の佳き日である2025年1月29日、晴れやかにその扉を開いた。パテック フィリップの販売拠点は世界におよそ270を数えるが、その中でもブランドの哲学や美意識を隅々まで体現する「ブティック」は、直営あるいは厳選されたパートナーのみが運営を許される、極めて限られた存在である。その数は世界でわずか80店舗あまりに留まり、日本においても2店舗目という稀有な存在だ。

 広々としたエントランスをくぐると、頭上には特注のバカラ製シャンデリアが煌びやかに輝き、正面にはフルコレクションを取り揃える重厚なショーケースが鎮座する。その左右両側には2部屋ずつの商談スペースが備わる。右奥には広いラウンジもあり、複数名での来店も可能だ。左奥にはブティックの特徴のひとつである「エッセンシャル・メンテナンスサービス」専用のカウンターが設けられている。このサービスは包括的なアフターケアを提供し、「世代を超えて受け継がれる時計」というブランドの理念を支える重要な礎となっている。

パテック フィリップ ブティック 東京 銀座

「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」では、ショーケースを挟んで店舗の左右に2部屋ずつ、合計4部屋の商談スペースが設けられている。スイス・ジュネーブの本店と統一感のあるデザインコンセプトを採用し、木目や大理石を用いた素材感のあるインテリアが落ち着いた空間を演出している。いずれも個室型で、防音性にも配慮されており、他の顧客の目や声を気にせず、ゆっくりと時計と向き合うことができる。

パテック フィリップ ブティック 東京 銀座

 卓越した接客もまた同店の魅力だ。パテック フィリップでは、スイス本社による厳格かつ段階的な販売員育成プログラムが設けられており、同店には、最高位「ステップ4」に認定されたスタッフが9名も在籍する。まさにここは、ブランドの世界観を余すところなく伝える珠玉の空間である。

桃井敦氏「やるのであれば、ぜひ私にやらせてほしい」

 世界の主要都市に展開されるパテック フィリップ ブティック。その中に日本有数の高級商業地として知られる銀座という地が加わったことに、驚きを覚える者はいないだろう。多くの人は、このブティックの誕生を、スイス本国が銀座のポテンシャルを見いだし、旗艦拠点として自ら開業を決めたものと想像するかもしれない。しかしながら実際は、ブランド主導ではなく、販売パートナーの熱意により実現されたものであることを特筆したい。その立役者となった人物こそ、ザ アワーグラス ジャパン代表取締役社長の桃井敦氏である。

桃井敦

ザ アワーグラスジャパン代表取締役の桃井敦氏。1963年、東京都生まれ。豪州で時計業界のキャリアを開始後、88年にザ アワーグラスへ転職。シンガポール、豪州勤務を経て、96年にザ アワーグラスジャパンを設立。2002年に「アワーグラス銀座店」を開店し、稀少な高級時計を揃える名店を築いた。2025年1月「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」をオープン。

 桃井氏について改めて紹介したい。今でこそ並木通りは世界の名だたる時計ブランドが集う日本屈指の「時計街」となっているが、その先駆けとして文化の礎を築いたのが、2002年に開店した「アワーグラス銀座店」だ。開業から二十余年にわたり、桃井氏は日本における高級時計文化の発展を牽引し続けてきた人物である。

 そんな桃井氏をもってして、「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」の実現には粘り強いオファーが必要だったと語る。ここからは桃井氏の言葉を通じて、同店に込められた思いをひもといていきたい。

パテック フィリップ ブティック 東京 銀座

ショーケース右手に配置された受付カウンター。この受付では、来店目的に応じて、商品を見る、商談する、メンテナンスについて相談するなど、適切に案内される。モデルの詳細を見たい場合は商談スペースへ案内され、じっくり時計に向き合う時間が提供される。複数名での来店時は、店舗右奥の広々としたラウンジも活用される。事前予約が望ましいが、当日訪問でも可能な場合がある。

パテック フィリップ ブティック 東京 銀座

 桃井氏は、ブティック開業が決定した当時の心境を、ユーモアを交えながらも感慨深く語ってくれた。「ブティック開業の承諾を得た瞬間、まるで中学時代から何十年も憧れていた女性と交際が始まったかのような気持ちになりましたよ」。この銀座ブティック開業に向けた第一歩が踏み出されたのは、2019年頃のことだ。

「銀座は日本の“へそ”のような存在であり、あらゆるラグジュアリーが集まる場所です。時計ブランドのブティックも数多く存在感を放っている。にもかかわらず、パテック フィリップだけが販売店のみに留まり、フラッグシップとなるブティックが存在していない。それはどう考えても不自然だと感じていました」。桃井氏はそう話し、「やるのであれば、ぜひ私にやらせてほしい」との強い意志を、本格的なビジネスプランとしてパテック フィリップに提出したという。そこから、構想が静かに動き始めていた。

パテック フィリップ ブティック 東京 銀座

エッセンシャル・メンテナンスサービスの専用カウンター。ここではクォーツモデルの電池交換や防水検査、精度測定、ストラップ交換、ブレスレットの調整、磁気帯びのチェックなど、日常的なメンテナンスを即座に受けることができる。

 桃井氏とパテック フィリップとの縁は、1988年にまで遡る。桃井氏が20代前半であった当時、シンガポールを拠点とするザアワーグラスがオーストラリアに進出した直後、その店舗でヘッドハントを受け勤務していた。そしてパテック フィリップも担当し、前社長フィリップ・スターン氏との交流を深める機会に恵まれた。95年に日本帰国が決まった際には、フィリップ氏から現地のディストリビューターを紹介されるなど、すでに堅固な信頼関係が築かれていた。

「当時からパテック フィリップに対する思いは特別なものでした」と桃井氏は語る。そうした長年の想いが実を結び、2023年、「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」は開業決定に至った。

CUBITUS

パテック フィリップ ブティックではフルコレクションが取り揃えられる。取材当日には、昨年25年ぶりに発表された新コレクションの「CUBITUS」がその一角を飾っていた。

 万感の思いで進めた開業準備。桃井氏は、アワーグラス時代から大切にしていたバーカウンターの設置を、スイス本国からの指摘を受けながらも貫き通した。「銀座という土地柄もあって、当店には時計購入の喜びを噛みしめながらお酒を楽しまれるお客様が多く訪れます。またこのバーカウンターは、時計を通じたお客様同士の交流を育む場としても機能してきました。ここで出会ったお客様同士が、プライベートでも親しくなり、グループで来店される姿もしばしば見受けられます。私たちの店にとってバーカウンターは切っても切れない間柄にある。そのことをスイス本国に力説しました」。

パテック フィリップ ブティック 東京 銀座

「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」は、画一的なブティックの枠に収まらない。象徴的なのが、全長4mのバーカウンター。和の趣を巧みに織り込み、稀少な国産ウイスキーを揃える。時計購入後の高揚感とともに味わう一杯は格別だ。ここは、時計趣味を共にする顧客同士が自然に交流を深めるサロンとしても機能してきた。出会いを機に、食事や旅行を共にする仲になることもある。

パテック フィリップ ブティック 東京 銀座

 このように人的なつながりが広がる光景は、高級時計店において珍しいものだろう。そして一朝一夕に促せるものでもない。ここは単なる高級ブランドブティックに留まらず、桃井氏率いるスタッフが磨き上げた、時計文化の交流サロンとして育まれてきた場所でもあるのだ。

 時計を通じて、その土地や時計趣味を共にする人々との交流を豊かに広げていく。時計は、そんな新たな世界の扉を開く力を持っている。新しい一本を手にするならば、「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」のような洗練を極めた空間で、その扉を開いてみたい。

パテック フィリップ ブティック 東京 銀座

洗練されたガラスファサードの外観。壁面の石材はスイス本社から送られたもの。テナントビルの外壁を改修することは稀だが、特別にビルオーナーの許可を得て実現した逸話がある。興味深いのは、アワーグラスの開店を巡る話。入居者選定に際し、ビルオーナーがパテック フィリップの腕時計をしていることを桃井氏が面接で触れたところ、過去にオーストラリアで桃井氏が接客し、購入した人物であることが判明。運命的な縁が存在していた。

パテック フィリップ ブティック 東京 銀座


店舗情報

パテック フィリップ ブティック 東京 銀座

住所:東京都中央区銀座5-4-6 ロイヤルクリスタル銀座
電話番号:03-6264-5307
営業時間:11:00~19:00(年中無休)


2025年 パテック フィリップの新作時計を一挙紹介!

FEATURES

パテック フィリップの新コレクション「Cubitus(キュビタス)」を、この上なく詳細に解説!

FEATURES

ドレスウォッチなのにオタク時計? デザインにうるさいライターが奇跡の1本と評するパテック フィリップ Ref.5170J

FEATURES