日本最大級のパテック フィリップのオンリーブティックとして誕生した「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」。その格式と洗練を兼ね備えた店舗は、国内外の時計愛好家にとって垂涎の場となっている。開業を導いたのは、日本における高級時計文化の発展を牽引し続けてきたザ アワーグラスジャパン代表取締役の桃井敦氏だ。同店の魅力、そしてオープンまでの知られざるストーリーを紹介しよう。
髙井智世:取材・文 Text by Tomoyo Takai
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年5月号掲載記事]
「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」
東京・銀座、並木通り。数々の名門ブランドが居並ぶこの地において、ひときわ静謐な重厚感を放つ時計店がある。それが日本最大級の規模を誇るパテック フィリップ専門ブティック、「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」である。同店は、春節の佳き日である2025年1月29日、晴れやかにその扉を開いた。パテック フィリップの販売拠点は世界におよそ270を数えるが、その中でもブランドの哲学や美意識を隅々まで体現する「ブティック」は、直営あるいは厳選されたパートナーのみが運営を許される、極めて限られた存在である。その数は世界でわずか80店舗あまりに留まり、日本においても2店舗目という稀有な存在だ。
広々としたエントランスをくぐると、頭上には特注のバカラ製シャンデリアが煌びやかに輝き、正面にはフルコレクションを取り揃える重厚なショーケースが鎮座する。その左右両側には2部屋ずつの商談スペースが備わる。右奥には広いラウンジもあり、複数名での来店も可能だ。左奥にはブティックの特徴のひとつである「エッセンシャル・メンテナンスサービス」専用のカウンターが設けられている。このサービスは包括的なアフターケアを提供し、「世代を超えて受け継がれる時計」というブランドの理念を支える重要な礎となっている。
卓越した接客もまた同店の魅力だ。パテック フィリップでは、スイス本社による厳格かつ段階的な販売員育成プログラムが設けられており、同店には、最高位「ステップ4」に認定されたスタッフが9名も在籍する。まさにここは、ブランドの世界観を余すところなく伝える珠玉の空間である。
桃井敦氏「やるのであれば、ぜひ私にやらせてほしい」
世界の主要都市に展開されるパテック フィリップ ブティック。その中に日本有数の高級商業地として知られる銀座という地が加わったことに、驚きを覚える者はいないだろう。多くの人は、このブティックの誕生を、スイス本国が銀座のポテンシャルを見いだし、旗艦拠点として自ら開業を決めたものと想像するかもしれない。しかしながら実際は、ブランド主導ではなく、販売パートナーの熱意により実現されたものであることを特筆したい。その立役者となった人物こそ、ザ アワーグラス ジャパン代表取締役社長の桃井敦氏である。

桃井氏について改めて紹介したい。今でこそ並木通りは世界の名だたる時計ブランドが集う日本屈指の「時計街」となっているが、その先駆けとして文化の礎を築いたのが、2002年に開店した「アワーグラス銀座店」だ。開業から二十余年にわたり、桃井氏は日本における高級時計文化の発展を牽引し続けてきた人物である。
そんな桃井氏をもってして、「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」の実現には粘り強いオファーが必要だったと語る。ここからは桃井氏の言葉を通じて、同店に込められた思いをひもといていきたい。
桃井氏は、ブティック開業が決定した当時の心境を、ユーモアを交えながらも感慨深く語ってくれた。「ブティック開業の承諾を得た瞬間、まるで中学時代から何十年も憧れていた女性と交際が始まったかのような気持ちになりましたよ」。この銀座ブティック開業に向けた第一歩が踏み出されたのは、2019年頃のことだ。
「銀座は日本の“へそ”のような存在であり、あらゆるラグジュアリーが集まる場所です。時計ブランドのブティックも数多く存在感を放っている。にもかかわらず、パテック フィリップだけが販売店のみに留まり、フラッグシップとなるブティックが存在していない。それはどう考えても不自然だと感じていました」。桃井氏はそう話し、「やるのであれば、ぜひ私にやらせてほしい」との強い意志を、本格的なビジネスプランとしてパテック フィリップに提出したという。そこから、構想が静かに動き始めていた。
桃井氏とパテック フィリップとの縁は、1988年にまで遡る。桃井氏が20代前半であった当時、シンガポールを拠点とするザアワーグラスがオーストラリアに進出した直後、その店舗でヘッドハントを受け勤務していた。そしてパテック フィリップも担当し、前社長フィリップ・スターン氏との交流を深める機会に恵まれた。95年に日本帰国が決まった際には、フィリップ氏から現地のディストリビューターを紹介されるなど、すでに堅固な信頼関係が築かれていた。
「当時からパテック フィリップに対する思いは特別なものでした」と桃井氏は語る。そうした長年の想いが実を結び、2023年、「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」は開業決定に至った。
万感の思いで進めた開業準備。桃井氏は、アワーグラス時代から大切にしていたバーカウンターの設置を、スイス本国からの指摘を受けながらも貫き通した。「銀座という土地柄もあって、当店には時計購入の喜びを噛みしめながらお酒を楽しまれるお客様が多く訪れます。またこのバーカウンターは、時計を通じたお客様同士の交流を育む場としても機能してきました。ここで出会ったお客様同士が、プライベートでも親しくなり、グループで来店される姿もしばしば見受けられます。私たちの店にとってバーカウンターは切っても切れない間柄にある。そのことをスイス本国に力説しました」。
このように人的なつながりが広がる光景は、高級時計店において珍しいものだろう。そして一朝一夕に促せるものでもない。ここは単なる高級ブランドブティックに留まらず、桃井氏率いるスタッフが磨き上げた、時計文化の交流サロンとして育まれてきた場所でもあるのだ。
時計を通じて、その土地や時計趣味を共にする人々との交流を豊かに広げていく。時計は、そんな新たな世界の扉を開く力を持っている。新しい一本を手にするならば、「パテック フィリップ ブティック 東京 銀座」のような洗練を極めた空間で、その扉を開いてみたい。
店舗情報
パテック フィリップ ブティック 東京 銀座
住所:東京都中央区銀座5-4-6 ロイヤルクリスタル銀座
電話番号:03-6264-5307
営業時間:11:00~19:00(年中無休)