オメガが2024年に発表した、アルミニウム製のベゼルリング・ダイアルを備えた「シーマスター ダイバー300M」を、Gressive編集長・名畑政治氏が着用レビュー。あのボンドも劇中で着用したこのダイバーズウォッチの実力とは?

Photographs & Text by Masaharu Nabata
[2025年4月18日公開記事]
程よい重さが充実感につながる「シーマスター ダイバー 300M」
今、時計界のトレンドは小径化とシンプル化。とはいえダイバーズウォッチでは、その頑丈さと視認性を考慮すると簡単にトレンドに流されるわけにはいかないようで、今回、インプレッションの対象となったオメガの「シーマスター ダイバー300M」のケース径は42.00mmと、やはりやや大きめ。しかし、このダイアルには日付表示がなく、バーとドットのコンビネーションによる蓄光塗料入りの大型インデックスと先端に蓄光が入ったマッシブな針によるキリリと引き締まったレイアウトは、やはり魅力的である。
今回名畑政治氏がインプレッションした、2024年発表の「シーマスター ダイバー 300M」。自動巻き(Cal.8806)。35石。2万5200振動/時。SSケース(直径42mm、厚さ13.8mm)。パワーリザーブ約55時間。30気圧水。100万1000円(税込み)。
しかもケースはステンレススティールでブレスレットもステンレススティールの分厚いメッシュであるから、総重量は155g(ナバタ調べ)と結構な重さ。ただし、時計は軽ければいいってものでもなく、この程よい重さが高級ダイバーズの重量感だと思えば苦になるどころか、むしろ充実感につながっていると思うのである。
そのステンレススティールのメッシュブレスレットは、一般に「ミラネーゼ(ミラノ風)」なんて呼ばれているが、私は昔からオメガが使う「シャークプルーフ(SHARK PROOF)」という呼び方がふさわしいと思う。ただ、オメガの資料を見ると「シャークプルーフ」という名称を使っているのは、より耐水圧の高い「シーマスター プロフェッショナル 600(編集部注:1970年代にオメガが製造していたダイバーズウォッチ。「プロプロフ」の通称を持つ)」など。そのブレスレットと比較すると、確かに「シーマスター ダイバー300M」装着のブレスレットはメッシュ両面がフラットに加工されてあり、ちょっとお洒落仕様になっている。とはいえ一般のドレスウォッチに付いているミラネーゼブレスレットに比べると厚さが2.5mmもあって強さは抜群。まぁサメに噛まれたら安全性が確保できるかどうか不明だが、「シャークプルーフ」と呼べる頑丈さと耐久性は十分に持ち合わせているはずだ。

そして通常、インプレッションのための時計を手配していただく場合、手首の周囲を伝えるのだが、今回はまったくなしで時計をそのまま手渡された。さて「着用にあたってフィッティングはどうするのかな?」と思っていたら、ダブルプッシュ式のオープンバックルを開き、そこにブレスレットの穴を適切な位置に合わせて、バックルを閉じるだけで調整完了。この簡便さは大正解。メッシュブレスレットならではの特徴とは思うが、リンク式のブレスレットだと、もう少し伸ばそうという時に、外したリンクをどこに入れたか分からなくなったりして困ることがある。このブレスレットなら、そんな問題を最初から回避できる。

またこのモデルは、メッシュをはじめ、ブレスレットやストラップのバリエーションが豊富なのも特徴。五連仕様のステンレススティールブレスレットやラバーストラップ、ストライプ入りのNATOストラップなど、好みと着用シチュエーションに合わせてイロイロと交換できるのは何よりうれしい。

ダイバーズウォッチとしての性能やいかに?
ではダイバーズウォッチ、あるいはアウトドア用ウォッチとしての性能はどうだろうか? まず昼間の視認性。これはもう抜群。先程も説明したが、大きなインデックスと太い針が、レーザーによる波模様加工が施されたダイアルからくっきりと浮き立ち、時刻の読み取りは極めて容易である。次に気になるのが夜間や暗闇での視認性。これもまた良好。ちょっとでも暗い場所に入るとインデックスと針の先端にある蓄光塗料が青白く光り時刻を読み取りやすくしてくれる。さすが高い輝度を誇るスーパールミノバだけのことはあるね。

もちろん時刻の精度についても、まったく問題なく極めて信頼性が高い。それは、このモデルが「マスター クロノメーター」の検定にパスしたものであることで確かに証明されているのである。
マスター クロノメーターは、国際規格ISO 3159に基づき、スイス クロノメーター検定協会(COSC)によるテストを受けて日差-4~+6秒以内という精度基準を満たすことで公認クロノメーターの認証を受ける。次に、そのムーブメントを搭載した時計本体がスイス連邦計量・認定局(METAS)が定めた8つのテストを10日以上かけて受け、精度が日差0~+5(または〜+7)秒以内であることや、強い磁場にさらされても精度が落ちないことなどを認定。これによって1万5000ガウスという磁場に耐えつつ、高い精度を長期間にわたって確保できる高い機能性が認められるのである。
ボンドにとっても我々にとっても頼れる相棒
最後になったが、この「シーマスター ダイバー300M」は、2021年に公開された映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」において、ジェームズ・ボンドが着用したモデルなのである。実際、劇中でボンドが着用したのは「シーマスター ダイバー300M」のチタンエディションであり、ケースもブレスレットもグレード2のチタン製だったから、ボンドの派手なアクションを邪魔しない軽量なモデルであった。さらに劇中では時計の裏側に仕込まれたコイルから強力な電磁パルスを放出し、あらゆるネットワークをダウンさせるというギミックが盛り込まれていた。こんな装置は装着されていないが、強力な磁場にも耐える「シーマスター ダイバー300M」なら、もしかしたらあるかもね、と思わせる迫力がある。
あのボンドさえサポートした屈強なるダイバーズウォッチ「シーマスター ダイバー300M」。コイツは我々にとっても、実に頼れる相棒であることは間違いない。
選者のプロフィール

名畑政治
ブランド腕時計の正規販売店紹介サイトGressive編集長にして、日本における時計ジャーナリストの第一人者。1994年よりスイスの大規模時計展示会を取材し続け、得た見識は業界随一だ。クロノス日本版では特集記事の執筆のほか、巻末の「Chronos Top10 Ranking」で選考委員を務める。近年は犬派から猫派に転向。共著に「カルティエ時計物語」。