今回は2025年の新作時計のうち、50万円以下の販売価格から傑作を選んで紹介する。この価格帯は魅力あるモデルが充実しているレンジとなるが、選出した各モデルは基本性能の高さ、チタン採用による良好な着用感、高い外観品質、不朽の名作のブラッシュアップなど、それぞれに魅力のあるものだ。各モデルの選出理由とともに解説してゆこう。
Text by Shin-ichi Sato
[2025年4月14日公開記事]
多機能モデルやブランドのアイコン、不朽の名作の新作などが盛りだくさん
今回は2025年の新作時計のうち、50万円以下の販売価格から傑作モデルを選んで紹介する。「傑作」と言っても基準が難しいため、「機能のみならず着用感を含む性能が高いこと」「各社の強みや特徴が出ていること」「幅広いシーンにマッチすること」を考慮しながら選出した。加工をはじめとした各種技術の向上によって低価格帯の製品のレベルが底上げされ、魅力あるモデルが充実しているレンジとなる。その中でも選出した各モデルは、多機能やロングパワーリザーブ等の基本性能の高さ、チタン採用による良好な着用感、外観品質を高める部品や手法の採用、独自性のあるデザイン、不朽の名作のブラッシュアップといった特有の魅力を備えている。
各モデルに対して選出理由も添えたので、それらを参考にしながら各モデルを俯瞰しつつ、今後の時計選びの一助となれば幸いである。
セイコー アストロン「Nexter GPSソーラー デュアルタイム・クロノグラフ」Ref.SBXC175
機能性とモダンなスタイリング、軽量で快適な着用感を兼ね備えるセイコー アストロン「Nexter」コレクションに、今年、ハイエンドモデルとなる「Nexter GPSソーラー デュアルタイム・クロノグラフ」が追加された。セイコー アストロンおよびそのNexterは、時計ファンのみならず、「ビジネスシーンのために機能性の高いモデルを1本」というニーズにマッチし、幅広く支持されるコレクションであるため選出した。
アストロン Nexterは、次世代リーダーたちの活躍を後押しすることがコンセプトである。そのため、電池切れトラブルの発生を抑えるソーラー発電、世界を相手とするビジネスをサポートするワールドタイム、正確な時刻に自動調整するだけでなく、海外出張時でも現地時間にセットしてくれるGPS電波受信など、ビジネスシーンを支える機能が盛りだくさんだ。

GPSソーラー(Cal.5X83)。14石。フル充電時約2年駆動(パワーセーブ時)。Tiケース(直径44.1mm、厚さ14.4mm)。10気圧防水。35万2000円(税込み)。2025年5月発売予定。(問)セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-061-012
今回選出したRef.SBXC175は、もともと優れていた外観品質に磨きがかけられている点が注目だ。トピックスは、コレクションとして初めてサファイアクリスタル製ベゼルを採用した点で、艶感や立体感、光の入射による表情の変化がアストロン Nexterに加えられた。また、ポリッシュ仕上げとサテン仕上げを使い分けたチタン製のケースとブレスレットを採用しており、スーツスタイルにマッチするスタイリッシュさを備える。
国内メーカーには本作のような自動時刻調整機能とソーラー発電を備える多機能モデルが多くラインナップされ、それらがしのぎを削っている。そのため、アストロン Nexterにはセイコーの技術力が投入され、訴求力の向上が図られている。本作はその最前線に立つモデルであるので、ぜひ店頭でチェックいただきたい。
ザ・シチズン「AQ4100-57E」
光発電エコ・ドライブ(Cal.A060)。フル充電時約1.5年駆動(パワーセーブ時)。Tiケース(直径38.3mm、厚さ12.2mm)。10気圧防水。41万8000円(税込み)。(問)シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807
ザ・シチズンの3針モデルは極めて王道的なデザインのインフォーマルウォッチで、そのスタイリングを維持しながら文字盤に新たな表現手法を盛り込んだ新作が毎年追加されている。この観点から述べれば、ザ・シチズンの3針モデルはコレクション自体が殿堂入り的な傑作なのだが、今般取り上げるモデルは従来のザ・シチズンが備えていなかった魅力が加えられているため、選出した。
同時にホワイト文字盤もリリースされている。エコ・ドライブ(Cal.A060)。TIケース(直径38.3mm、厚さ12.2mm)。10気圧防水。41万8000円(税込み)。(問)シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807
光発電エコ・ドライブ駆動のCal.A060を搭載するザ・シチズンは、発電のための光が透過する文字盤でなければならず、ポリカーボネートや和紙といった素材が用いられてきた。特に、和紙を用いた文字盤は特有の柔らかな質感を備え、これがザ・シチズンの魅力となっていた。一方で、光を遮断、反射する金属のような素材を用いることは難しかった。
これに対して今年発表された「AQ4100-57E」は、メタリックな質感を備える新作だ。本作の文字盤はポリカーボネート製で、塗装によってこのメタリックな質感が与えられている。金属の結晶模様のように見えているのは、躍動感のあるイーグルの羽から着想を得たパターンである。この表現手法は、2024年発表でブルーカラーの限定モデルRef.AQ4100-57Mに採用されたもので、本作はこれに続くレギュラーモデルである。

2024年8月に発表されていたモデル。エコ・ドライブ(Cal.A060)。TIケース(直径38.3mm、厚さ12.2mm)。10気圧防水。41万8000円(税込み)。公式ホームページでは完売。(問)シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807
搭載されるCal.A060は年差±5秒の高精度を誇り、ケースはシチズン独自のスーパーチタニウム製のため軽快な着用感が期待できる。また、その表面にはデュラテクトプラチナが施され、耐傷性と外観品質が高められている。時計の基礎を固める各要素の性能や品質の高さを備えるので、本作に限らず気になる文字盤デザインがラインナップされていたら店頭で手に取っていただきたい。
オリス「ビッグクラウン ポインターデイト」
今回のテーマである“50万円以下”の価格帯で外せないのがオリスだ。そんなオリスは今年、ブランド刷新を発表して、それに合わせてオリスのアイコンのひとつである「ビッグクラウン」をリニューアルした。では、ビッククラウンやオリスについて振り返りつつ、選出したモデルを紹介してゆこう。
ビッグクラウンは、航空機パイロットによるグローブ着用状態での操作を容易にするために大きなリュウズ(クラウン)を採用したパイロット向けモデルが元となっている。そこから発展、派生してモダンなスタイリングとなった「プロパイロットX キャリバー400」もラインナップされる。この他、プロフェッショナル向けとしてダイバーズウォッチ「アクイスデイト キャリバー400」をはじめとしたツールウォッチがオリスにはラインナップされてきた。では、オリスがハードコアなブランドであるかというとそうではなく、ユニセックス向けを想定したコンパクトなモデルや、ポップなカラーのバリエーションを多く並べ、さらには自然環境に配慮した素材をストラップへ採用する一面もある。
左:Ref.754 7798 4069-07 8 20 06 中:Ref.754 7798 4068-07 8 20 06 右:Ref.754 7798 4065-07 8 20 06
自動巻き(Cal.Oris754)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約41時間。SSケース(直径40mm、厚さ12mm)。50m防水。各34万1000円(税込み)。(問)オリスジャパン Tel.03-6260-6876
今年、オリスはブランド刷新を発表し、「メイクピープルスマイル(人々を笑顔にする)」という新たなパーパスを掲げ、ポップなピーチローズとグリーンをブランドカラーとして定めることとなった。詳しい背景についてはニュース記事(https://www.webchronos.net/news/135883/)を参照いただきたい。筆者の考えるポイントは、従来のオリスを変えてしまうのではなく、従来、オリスが持っていたパーソナリティーを言語化して前面に押し出すようになったという点だ。それを示すように、今回紹介する「ビッグクラウン ポインターデイト」には、わくわくするような、そしてこれまでのオリスの魅力がしっかりと残ったカラフルな文字盤が並んでいる。オリスのこれまでと今後が盛り込まれたアイコンであるという点が、今回の選出理由だ。
選出したビッグクラウン ポインターデイトは、ケース径40mmで、セリタ製の自動巻きムーブメントCal.SW200-1をベースとするCal.Oris 754を搭載する。バリエーションとして、フレッシュなイエロー、エレガントなライラック、爽やかなブルーの3モデルが用意される。鮮やかでありながら、わずかに彩度や明度を抑えて落ち着きを与えている点がオリスらしい。モデル名の由来となっている、針で日付を表示するポインターデイトは、長きにわたって継承されてきたオリスのアイコンである。
タイメックス「ジョルジオ・ガリ S2 Ti」Ref.tx-tw2y27500
ご存じのようにタイメックスは、ボトムエンドの価格帯で大きな存在感を放ち、多様なデザイン、サイズ、特徴を持つモデルのほとんどを5万円以下でラインナップするブランドである。その顔触れは、ファッショナブルなモデルから、ハードな環境にマッチするツールウォッチ、過去のアーカイブの復刻モデルなど多岐にわたり、さまざまな時計を所有する時計ファンが思わず買ってしまうような魅力的なモデルが並ぶ。
では、そんなラインナップのクリエイティブディレクターを務めるジョルジオ・ガリがシグネチャーモデルを出すとしたらどうなるか? それが今回選出した「ジョルジオ・ガリ S2 Ti」である。

ジョルジオ・ガリは、1990年代から腕時計の世界でデザイナーとして活躍し、スウォッチデザインラボの所長を務め、モバードグループやセイコー、シチズン、セクター、ノーティカといった多くのブランドに携わってきた人物だ。ジョルジオ・ガリは、タイメックスで「S1」、「S2」といったSシリーズを展開しており、本作はSシリーズの最後を飾るモデルとなっている。

自動巻き(セリタ Cal.SW200-1)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約41時間。Ti×カーボンケース(直径38mm、厚さ12mm)。50m防水。34万3200円(税込み)。(問)株式会社ウエニ貿易 Tel.03-5815-3277
外観は、シンプルでプレーンな文字盤にリング状のアワーインデックスの組み合わせで、ミニマムながらインパクトのあるデザインである。そして特徴はケースやラグの構造で、カーボンファイバー製のミドルケースをチタン製パーツで挟んでおり、ラグには大胆なスケルトンが設けられている。これにより、カーボンファイバーとチタンの層が作る直線のラインと、ラグ部が生み出す曲線、ふたつの素材と空間のコントラストが複雑に絡み合わさったデザインとなっている。そのほかにも、ドーム型の風防や、側面に凹部のある特徴的なブレスレットのコマ、ポリッシュ仕上げとサテン仕上げの使い分けなど見どころが多い。
シンプルでありながら他には無く、奇抜さもありながら日常に取り入れやすいデザインを、チタンやカーボンファイバーを採用しながら50万円以下で実現していることが、本作の選出理由だ。
ハミルトン「カーキ フィールド オート」Ref.H70605160
特定の用途に限定せず、屋外活動をサポートするフィールドウォッチの中で、ハミルトンの「カーキ フィールド オート」は代名詞であり、不朽の名作と言ってよいだろう。シンプルなデザインと比較的薄い仕立てによって、フィールドのみならずカジュアルや(業界にもよるが)ビジネスシーンにもマッチするモデルとなっている。
フィールドウォッチのみならずツールウォッチは、強い光が入射した際に反射で視認性が低下することを嫌い、マットな仕上げを用いることが多い。このマットな質感はツールウォッチのストイックさを演出する魅力のひとつであるが、表情に乏しいと感じる人も多いのではないだろうか?

自動巻き(Cal.H-10)。25石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径42mm、厚さ11mm)。10気圧防水。11万2200円(税込み)。(問)ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン Tel.03-6254-7371
今回選出した新作の「カーキ フィールド オート」は都会的なエッセンスを加えたモデルで、金属光沢のある文字盤が与えられている。サテン仕上げのケースに対してベゼルはポリッシュ仕上げで、文字盤もメタリックな質感があり、コントラストを生んでいることがポイントだ。文字盤デザインは従来のモデルを継承し、最外周には秒スケール、外周に“12”までのアラビックインデックス、内周部に13時以降を24時間表記で示す時間インデックスが配される。各部で仕上げを変えることで変化が加えられており、本作の特徴である金属的な光の反射が仕上げによって代わり、本作の魅力を生み出している。
ピックアップしたのは、直径42mmのグリーン文字盤にメタルブレスレットの組み合わせである。時計仕上がり厚さは11mmと比較的薄い仕立てで、都会の生活にマッチするスタイリッシュさを持つことは嬉しいポイントだ。バリエーションとしてブルー文字盤モデルがラインナップされ、それぞれにブレスレットとレザーストラップの組み合わせが用意される。また同時に、ケース径38mmで、グリーン文字盤、ブルー文字盤も用意される。いずれのモデルにも搭載されるのは、自動巻きのCal.H-10で、約80時間のロングパワーリザーブを誇る。シンプルで普遍的なデザインに、基本性能が高いムーブメントを組み合わせ、現代のニーズにマッチした都会的なテイストが加えられた1本と言え、本作を選出した。