時計装飾の極みともなる宝飾技術は、ヴァシュロン・コンスタンタンにおいて、常にその製作の根幹として息づいてきた。薄型ムーブメントの名手だからこそ成し得る、洗練のハイジュエリーウォッチをここに紹介する。
側面とラグ、ベゼルに144個のバゲットカットダイヤモンド、リュウズにも16個のバゲットカットダイヤモンドをインビジブルセッティングした、ハイジュエリーウォッチ。総計27.11ctのダイヤモンドが施されている。自動巻き(Cal.2160)。30石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KWGケース(直径41mm、厚さ12.46mm)。約30m防水。受注生産。ブティック限定。要価格問い合わせ。
Photographs by Takeshi Hoshi (estlleras)
野上亜紀:文
Text by Aki Nogami
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年5月号掲載記事]
ヴァシュロン・コンスタンタンから学ぶオートオルロジュリーの世界
今年で誕生270周年を迎えるヴァシュロン・コンスタンタン。メゾンはその歴史の中で、工芸技術を巧みに織り込んだジュエリーウォッチの製作にも意欲的に取り組んできた。彫金やエナメル、ギヨシェに加えて、メゾンが誇るのが、ジェムセッティングの技である。
「創業者ジャン=マルク・ヴァシュロンの時代から時計とジュエリーの製造は非常に緊密なものであった」とスタイル&ヘリテージディレクターのクリスチャン・セルモニは語るが、事実ヴァシュロン・コンスタンタンは工房で磨き上げた宝飾技術をもって、ハイエンドモデルを求める顧客たちの要望に応えてきた。

この「トラディショナル」のトゥールビヨンハイジュエリーもその証しであり、334個のダイヤモンドが文字盤やラグ、ケースを覆い尽くす。厚さわずか5.56mmの超薄型キャリバー2160を搭載することで、文字盤へのダイヤモンドセッティングの可能性は広がり、インナーベゼルの部分にまでダイヤモンドを施した立体的な意匠をも成し得たのである。
このようにジェムストーンを主役とするアプローチは、画家レイモン・モレッティがデザインした1979年製「カリスタ」や1980年製「キャラ」などの、同社の宝飾時計におけるマイルストーンをも彷彿させる。いずれも金塊に彫金を施し、100個以上のエメラルドカットダイヤモンドを配することで、アールデコの芸術的なシルエットを完成させた。

近年発表されたトランスフォームスタイルの「グランド・レディ・キャラ」がその直系だが、このモデルにおいても、宝石を用いた造形表現は脈々と受け継がれている。ハイジュエリーではモチーフを緻密に描くためにカスタムカットのジェムをしばしば用いるが、この時計でもトゥールビヨンから放射状に広がりゆく、幾何学的なラインを描くためにダイヤモンドは最適なサイズにカットされ、平面や曲面を隙間なく埋め尽くした。その調整力が実に見事ながら、ダイヤモンドのガードルの下に溝を彫り込み、表から爪が見えないようにレールにはめ込むインビジブルセッティングにより、輝きの効果もまた最大限に導かれたのである。
ヴァシュロン・コンスタンタンにとって宝飾技術は、高級時計製造の芸術をさらなる高みへと引き上げるための重要な鍵となる。今年新たに「探求」というテーマを掲げるメゾンの、次なる一歩をこの比類なき輝きが語り掛ける。
広田ハカセの「ココがスゴイ!」
創業以来、メティエダールを得意としてきたヴァシュロン・コンスタンタン。実はそこにはジュエリーセッティングも含まれる。数こそ少ないが、際立ったジュエリーウォッチを手掛けてきた同社は1979年に、計118個、総数130カラットものダイヤモンドをあしらった大作「カリスタ」を完成。時計全面にダイヤモンドを敷き詰める手法はこのモデルが確立したものだ。
そんな同社の最新作が「トラディショナル・トゥールビヨン・ハイジュエリー」である。立体的なケースに歪みなくセットされた合計331個のダイヤモンドは、この複雑時計をよりジュエリーらしく見せる。しかし、時計としての機能がまったく損なわれていないのはさすが老舗だ。