webChronosの忘年会に出たら、オメガを購入しないといけなくなってしまった話

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2025.04.15

ベテラン時計愛好家が、webChronosの忘年会でオメガの純正NATOストラップをゲット。しかし、そのラグ幅は21mmとマニアックなサイズだった。案の定、複数本所有する自身のオメガコレクションに該当サイズはなく……。大勢の知り合いの前で、「このストラップに合う時計を持っていなかったら、新規で購入します」と宣言してしまった手間、新しくオメガの時計を購入する話。

Text by Shisyamo
[2025年4月15日公開記事]


webChronos忘年会でNATOストラップをゲット

 オメガというブランドは時に稀代のアンバサダーを得る。そのひとりが、2000年代前半のオメガとクロノグラフに関する伝説的なコレクター、チャック・マドックスであることに異論はないだろう。チャックは2008年に急逝したが、その当時のウェブページは親交があったコレクターたちによって今でもメンテナンスされている(https://chronomaddox.com/)。

 彼は多数のフォーラムやウェブページに積極的に投稿し、さまざまなアドバイスを与えた。オメガに関する記事も多く、「ホーリーグレイル」の名付け親でもある。オメガのイベントでふたりの宇宙飛行士と共に撮影した写真が以下から参照できる(https://www.fratellowatches.com/it-has-been-three-years-since-chuck-maddox-in-memoriam/#gref)。

 webChronosをはじめ、多くのSNSで著名な「中の人」ことくじら(@HikousenKuzira)さんを見ていると、時々このチャック・マドックスに被って見えることがある。

オメガ 中の人

時計愛好家の生活 くじらさん「オメガは増えたけど、売るつもりは全くないですね」

https://www.webchronos.net/features/110156/

 何しろオメガのことなら何でも知っている。しかもすべて包み隠さず、話せる範囲ですべて答えてくれる。くじらさんのアドバイスでいったい何人の方が新しくオメガのオーナーになったことか分からないが、日本での影響力は絶大といっても過言ではないのではないか。

 そして、そのくじらさんの巧みな“マーケティング戦略”によって、筆者もまた新しくオメガの現行品オーナーにデビューさせていただくことになってしまった。この記事ではその顛末と最後に簡単な使用上のレビューを書いてみたいと思う。

 はじまりはビンゴゲームであった。webChronosのSNSでは毎年、媒体公式忘年会を行っている。「公式」とはいうものの、完全なボランティアOFF会である。主催者であるワールドタイムさんによる、広田編集長を主役としたファンミーティングといえばより実態に近いのではないか。

 以前は10名程度の集まりであったが、今回は初めて参加者30名を超え、ホテルの宴会場を一室借り切って行なわれた。クロノス日本版編集部からは広田編集長をはじめ、編集部の細田さんと鶴岡さん、さらにゲストとしてNAOYA HIDA & Co.の飛田直哉さんと彫金師の金川恵治さんも参加されるという豪華な会となった。

 そのwebChronos「公式」忘年会において、毎年の恒例行事としてビンゴゲームが行なわれる。この景品も参加者がそれぞれ持ち寄ったものだ。一部は編集部からも提供されるが、他はすべて参加者が自主的に持ってきたものであり、実に多くの景品が集まる。

 今回であれば、ジュネーブ・パテック フィリップ・ミュージアムのオリジナルDVDやオーデマ ピゲのウォッチケース、クロノセオリーのオリジナルウォッチケース、ブレゲのポーチ、パネライのセーター、さらにはシャンパンやワインといった酒類もそろった。

 今回の物語はここから始まる。私は、いわゆる初期モデルコレクターであり、「ジェンタデザイン好き」「クロノグラフ好き」の時計コレクターであると思っている。もちろんオメガは大変好みのブランドのひとつであり、手巻きのスピードマスターは私にとって神モデルのひとつである。

時計愛好家の生活 Y.K.さん「ここにある時計は、みんな“初期モデル”なんですよ」

https://www.webchronos.net/features/119870/

 伝説のCal.321をオメガが復刻したと聞いたときには双手を上げて拍手して「そんなクレイジーなことを考える人がいて、その考えを実現してしまうオメガの技術力」に感動して、その一番初期のモデルを入手させていただいた。スピードマスター、シーマスター、コンステレーションなどの主要モデル、ヴィンテージを中心にオメガの時計もそれなりの数を所有している。

 その私が前述した、webChronos公式忘年会のビンゴで当選したときに選ばせていただいたのが、くじらさん提供の21mm幅のNATOストラップであった。21mmという少し規格外のストラップであっても、オメガならたくさん所有しているしなんとかなるだろう、と私は思った。

くじらさんの巧妙な策略にまんまと引っかかる

 そして、皆の前で「手持ちの時計に合うものがなかったら、21mmのストラップに合う本体を購入します」と言い切ってしまった。思えば、それがくじらさんの深謀遠慮であった。

 私は自分を信じすぎていた。私より先にビンゴで当選された方が、「ああ、21mmですか……それは難しいです」と遠慮された方がいらっしゃったが、私もそのくらいの慎重さがあればよかったと思わなくもない。

 しかしいずれにせよ、21mmのNATOストラップは私の手元にきてしまった。そうなれば合う時計本体を探さなければならない。私もまあまあ知られているかもしれないコレクターである。腕は2本しかないが、その必要以上に時計は所持している。

 ところが、21mm幅のストラップというのは想像以上にハードルが高かった。メンズの時計のラグ幅で、一番メジャーなラグ幅は18mmであろう。次にメジャーなのが20mm、その次が22mmくらいではないか。21mmとたった1mmの差なのだがこれが難しい。

 他のブランドの中にはそのサイズでもあるにはある、というところもあるが、オメガで21mmは相当難しい。これが私の知った現実であった。もちろんその現実をくじらさんはご存じだったはずである。その上で21mmのNATOストラップを用意していたのである。つまり、彼の罠に私はまんまとはまってしまったのであった。


オメガのラグ幅21mmモデルを探し始める

 こうなったら忘年会で、数々のコレクターさんの前で言い切らせていただいた手前、時計本体を買わせていただくしかない。私も時計コレクターの端くれ、時計を買うことについて吝かではない。しかし、それからのモデル選択がまたひと仕事であった。なんと21mmのラグ幅を持つコレクションの筆頭として挙げられるのは、セラミックモデルのスピードマスターであったのだ。

オメガ スピードマスター セラミック

Photograph by Naoto Watanabe

 セラミックケースのスピードマスターは確かにかっこいい。しかし一方でお値段もまたかっこいい。「1本くらい持っておけば」と思いもするが、一介のサラリーマンとしては簡単に割り切れないほどかっこいい価格なのである。

 また好みの問題もある。私はクロノグラフの場合、「スピードマスター プロフェッショナル(現スピードマスター ムーンウォッチ)」やブライトリング「ナビタイマー」のような、3つ目クロノグラフが好みである。さらにもうひとつ言えば、私はブレスレットモデルを好む。

オメガ スピードマスター

ししゃも氏が所有する、自身とほぼ同い年のスピードマスター。右がCal.321搭載のST145.012、左がCal.861搭載のST145.022。

 このふたつの条件がそろわないと、なかなか私の所持時計の中での稼動順位が上がってこない。幸いなのか残念なのか分からないが、オメガのスピードマスターのセラミックモデルはこの私の好みの条件には合わなかった。

 スピードマスターに候補がないのであれば次にくるのはシーマスターである。しかし、私が少し調べた限りではシーマスターの通常モデルにはラグ幅21mmのモデルなどは見当らなかった。そこで私は日本を代表するオメガコレクター、ワールドタイムさんにもアドバイスを求めた。するとたちどころに返事が返ってきた。

シーマスターなら好みのものが見つかるかも

 いわく「『シーマスター』ならケース径43mmの『シーマスター アクアテラ』や『シーマスター 300』(がラグ幅21mm)」。やはり真のコレクターは各モデルのラグ幅にも精通しているものなのだ。ちなみに、「シーマスター ダイバー300」は20mmだそうだ。さて候補が決まれば、私の好みに合っているのどうか、検証を続けなければならない。

1.ブレスレットのオプション。これは必須である。レザーストラップの時計は使用頻度が少なくなる。また私はヴィンテージ時計のコレクターであるから、ヴィンテージの様にブレスレットにテーパーがきってあるブレスレットが好みである。

2.ケースの厚さ。さほど厳格な基準ではないが、最低限15mm以下であってほしい。15mm以上でもよいが、その場合どうしても使用頻度は低くなる。

3.できればソリッドバック。トランスパレントバックのモデルももちろん良いが、実使用を考えると、とくに防水時計の場合はソリッドバックが使いやすい。私はブレスレットを少しきつめに巻くのが好みである。夏に汗を書くとトランスパレントの時計は腕に貼りつく感じがする。

4.できればノンデイト。日付表示はあっても良いが、それなりに時計を所持しているので、いちいち合わせるのは大変だ。また私は海外出張に行くことがあり、デイトがあると、それを合わせるのは更に面倒である。

 ワールドタイムさんから教えていただいモデルのうち、アクアテラはトランスパレントバックかつデイト付である。かくして、私はシーマスター 300に照準を絞ることになった。

 しかし、その後がまた大変であった。私はヴィンテージコレクターである。状態さえ良ければ中古の時計に抵抗はない。そこでここ10年くらいのシーマスター 300のモデルの履歴を調べた。すると、なんとも微妙な変更がいくつもあるのである。

 例えば2014年製のRef.233.30.41.21.01.001と21年製 Ref.234.30.41.21.01.001を比較しよう。前者の搭載するムーブメントはCal.8400、対する後者はCal.8912だ。そのためか、ケース厚は前者が15mmに対して、後者は13.9mmまで薄型化を果たしている。

オメガ シーマスター 300

オメガ「シーマスター 300」
Ref.233.30.41.21.01.001はアロー秒針、セラミックベゼル、ブレスレットはテーパー弱のセンターポリッシュの構成を持つ。

 この過去モデルのふたつを比較すると、圧倒的に21年モデルであろう。なんといっても300m防水で14mmを切る薄さは大きい。装着感にかなりの差が出るはずだ。

 また、秒針の形状やベゼルの素材、ブレスレットのデザインも下記の様に異なる。

オメガ シーマスター 300

オメガ「シーマスター 300」
Ref.234.30.41.21.01.001はロリポップ秒針、アルミベゼル、ブレスレットはテーパー強サイドポリッシュの構成を持つ

 このように、キャタピラブレスも改善されている。テーパーも強く、またサイドポリッシュという本来のキャタピラブレスの仕上げになっているのだ。一方で21年モデルは、よりヴィンテージよりにベゼルまでアルミニウムに戻してしまった。これも好みの問題だが、セラミックスのほうがアルミニウムよりも耐久性は高い。

 そう考えながらまた調べると、最新のサマーブルーでは、ベゼルがセラミックスに戻っているではないか。

オメガ シーマスター 300

 ここに至って、現行のサマーブルーが候補の最有力となる。サマーブルーはベゼルがセラミックスの上にソリッドバックという点も個人的にポイントが高い。一方で、サマーブルーは、多少文字盤が派手な趣きがある。素晴しい文字盤であるが、すこし派手すぎる、自己主張の激しすぎる時計はやはり少し使いにくいこととなる。

 ただそうはいってもゴールドを使っているわけでもなくブルーのグラディエーション文字盤である。実際に実物を見たわけではないから賭けではあるが、オメガ自体、さほど派手なデザインを好むブランドでもないから、ここはオメガを信頼することにしよう。

 さてあとはどこで入手するかである。このモデルは現行品であり複数の選択肢がある。中古および平行、正規品である。コレクターとしては、できれば正規品が良いが、あまりに正規と平行品、中古に差額が大きい場合には、リーズナブルな入手先を選択するという選択肢も当然視野にある。安くはない買い物である。差額でちょっとした買い物ができることも十分あるから、どこで入手するかは大変に切実な問題なのである。

 結果的にこのサマーブルーの場合、想定内の差額であった。そこでブティックへ電話すると、幸い在庫があり「取り置きしておきます」とのことだった。こうしてwebChronos忘年会の3週間後には、正規品で私はこの時計を入手することとなった。


シーマスター 300のサマーブルーはめちゃくちゃ使いやすい

 最後に使用感である。

 1週間ほど続けて使っているが、ひと言でいうと感想は、「なんじゃこりゃ、めちゃくちゃ使いやすいじゃん」である。時間がほとんど狂わず(現在日差±1秒程度である)、私にとってはほぼクォーツである。

シーマスター 300 オメガ

オメガ「シーマスター 300」
自動巻き(Cal.8912)。38石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径41mm、厚さ13.9mm)。300m防水。114万4000円(税込み)。

 またブレスレットも秀逸である。300m防水ともなると、時計本体が頑丈になり、ブレスレットの造りも頑丈に重くなるケースがあるが、この時計は、ヴィンテージのキャタピラブレスをよくオマージュした無垢ブレスレットが腕にしなやかにフィットしてくれて大変付け心地が良い。

 さらに購入してから知ったのであるが、このムーブメントは時針の単独調整が可能だ。これは海外に行ったときなどの時刻調整に重宝する非常に便利な機能だ。さらに、この時計はマスター クロノメーター認定機であり、帯磁を気にする必要がない。これはコレクターにとっては意外なことに大変うれしい機能であった。

 複数の時計を持ち運びする時、2、3本の時計を携行ケースにいれてバッグに入れて運ぶことがある。今までは大して気にしていないようでいて、やはりPCやスマートフォンらはできるだけ離すような気遣いを無意識のうちにしていた。

 ただ、この時計の場合、こうした気遣いは一切無用だ。時計ケースをそのままバッグに収めればよい。機械式時計は帯磁に気を付けなければいけない、とずっとそのように扱ってきた私にとって「最新のオメガはここまできていたのか」という新鮮な驚きであった。

 かくしてこの時計を入手してから私はずっとこの時計と共に過している。コレクターである私にとってはこれはかなり新鮮な経験である。いままでは毎日時計を替える、また午前と午後で時計を替えるなどは当たり前のことだったし、鞄の中には常に1本は予備の時計を用意していた。

 ところがこの時計を入手してからというもの、いまのところ私はこの時計しか使っていない。まるで、初めて清水の舞台から飛び降りる気持ちで購入した高級機械式時計を入手したときのフレッシュな気持ちがよみがえってきたようである。

 そろそろ年貢の納めどきなのか、時計趣味を上がってしまったのかはまだ分からないが、何にしてもよい傾向であり、これはまさしく吉兆ではないかと思っている。持つべきものは友。くじらさん、ワールドタイムさんには大変感謝いたします。


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