現代において、買い物をする時、何を手掛かりにして購入しているだろうか? ロゴ(商標)は大きな判断基準のひとつである。ラグジュアリーの世界ではなおさらだ。だが、H.モーザーの「エンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーン」では、あえてそれをしない。すなわち、文字盤上にはロゴが印されていないのである。腕時計としては異例のことだ。ロゴがなくとも、腕時計のデザインだけでH.モーザーであると認識させる自信があるのだ。『ウォッチタイム』アメリカ版に携わるライター・編集者のマーティン・グリーンが、その魅力を深掘りする。
文字盤に「ロゴ」のないH.モーザーの腕時計
現代において、ブランド名を明示せずに製品を発表するには、相当な覚悟が求められる。好むと好まざるとにかかわらず、ブランドとその認識は現代人の生活に深く根差しており、とりわけラグジュアリーの分野では、ブランドそのものが製品の主要な価値を成すこともある。
H.モーザーは、伝統を重んじながらも、革新的なマーケティング手法を採用している。その姿勢は、モデルによっては、に一切のロゴやブランド名を記さないという大胆なアプローチにも表れている。自らのデザインがブランドのアイデンティティを雄弁に語ると確信しているからである。
この姿勢を象徴するのが、「エンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーン」である。直径40mmのステンレススティール製ケースを採用した本作は、「エンデバー」コレクションに属する。H.モーザーの定義では、このコレクションは現代的なスタイルを指向するものとされている。

自動巻き(Cal.HMC 200)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.2mm)。3気圧防水。447万7000円(税込み)。
鮮烈なライムグリーンの文字盤
ケースも洗練されているが、もっとも目を奪うのは鮮烈なライムグリーンの文字盤である。H.モーザーは3種類の顔料を用いて、フュメ効果を伴ったエナメルを製作。この文字盤にはハンマー仕上げが施されており、グラン・フー・エナメルにさらなる光の変化をもたらし、見る角度によってさまざまな表情を見せる。この魅惑的な効果は、インデックスやロゴなどの要素を省いたミニマルな構成によって、さらに際立っている。そこにあるのは、時・分・秒を示す3本の針のみである。
ブランド名がなくとも認識できるデザインコード
ブランド名の記載なしでここまでの存在感を放つことができるのは、H.モーザーが築いてきた明確なデザインコードゆえである。唯一ブランド名が確認できるのは裏蓋側で、シースルーバックを通してムーブメントが姿を見せる。
ダブルヘアスプリングを備えたCal.HMC 200
搭載されるムーブメントは自社製Cal.HMC 200である。H.モーザーの象徴であるダブルヘアスプリングを備え、審美性と堅牢性を兼ね備える。大型のローターを搭載し、最大約72時間のパワーリザーブを実現する。この優れたムーブメントによって、エンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーンは、その名にふさわしい「自信」の結晶たるタイムピースとして成立している。視覚的なブランディングを必要としないのも、当然の帰結といえる。