アシンメトリーなケースデザインで時計の既成概念を打ち壊してきたディオールの「シフル ルージュ」。2024年に登場したトゥールビヨンモデルにもまた、オートクチュールメゾンならではの独創性が受け継がれていた。

Ref.CD08452X1461。新生シフル ルージュのゴールドバンパーモデルに、ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンベースのフライングトゥールビヨンを搭載。背面にはブリッジとの一体感を持たせたカナージュ模様が刻印された18KPG製マイクロローターを備えている。自動巻き(Cal.CD.003)。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約40時間。SS+DLC×18KPGケース(直径41mm)。100m防水。参考価格1900万円(税込み)。
Text by Naoto Watanabe
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年3月号掲載記事]
「シフル ルージュ」にトゥールビヨンモデルが登場
ディオールのメンズウォッチコレクション「シフル ルージュ」のリニューアルから1年。シリーズ中最も複雑な機構となるフライングトゥールビヨンを搭載した「シフル ルージュ トゥールビヨン」が発表された。今回登場したのは、DLCを施したSSケースに18KPG製バンパーを備えたモデルと、ベゼル部を18KPG製に差し替え、バゲットカットのサファイア、アメシスト、トルマリン、ルビーによって7色を60段階のカラーグラデーションで表現したモデルの2型だ。

Ref.CD08452X1462。ベゼルを18KPG製に差し替え、バゲットカットの宝石をあしらったモデルも登場。18KPG 製ベゼルにサファイア、アメシスト、トルマリン、ルビーを配置することで、60段階の色相変化を表現。見事なカラーグラデーションを実現している。自動巻き(Cal.CD.003)。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約40時間。SS+DLC×18KPGケース(直径41mm)。100m防水。参考価格2700万円(税込み)。
一般的にトゥールビヨンは、キャリッジの回転軸と天真(テンプの中心軸)を同軸で配置した構造が主流だが、本作ではあえて天真をオフセット配置。さらに、格子状のパーツをキャリッジの表面と背面に角度差をつけて搭載することで、ディオールのシンボル的デザインであるカナージュ柄を表現した。また、文字盤のカナージュ柄も従来のスジ彫りではなく、多層的で立体感のある彫りに変化させ、キャリッジ表面に合わせた面取りを施すなど、フライングトゥールビヨンとの一貫性が高められている。停止状態ではブリッジを備えた従来型トゥールビヨンにも見える異色の造形だが、実際はオートクチュールメゾンならではの独創性が光ったコンセプチュアルなデザインだと言えるだろう。
ポケット内で保持姿勢が固定化されていた懐中時計とは異なり、腕に着用することで姿勢変化がもたらされる腕時計において、重力補正機構としてのトゥールビヨンは形骸化したかもしれない。しかし、15秒に1度だけキャリッジと文字盤の柄を噛み合わせながら、テンプがゆっくりと円形窓枠内を移動していく本作は、トゥールビヨン機構に「視覚的創造性」という独自の価値を与えた1本だ。