入門機、それは要注目すべき存在である。なぜなら、より本格的なモデルを手にするであろう“見込み客”に向けて、ブランドが提示したい魅力を盛り込みファンになって欲しいからだ。『ウォッチタイム』アメリカ版に関与する編集者・ライターのマーティン・グリーンが、ノモス グラスヒュッテの「クラブ キャンパス38 エンドレス・ブルー」を取り上げる。この腕時計、ノモス グラスヒュッテであって然るべき要素がすべて詰まっているのだ。
入門機ながらも確実な品質、そして遊び心

エントリーモデルの製品(入門機)は、たとえ名門ブランドによる製造であっても、自らの価値を証明するためにより多くを求められることが多い。とりわけ価格に対する品質のバランスは、この市場において頻繁に問われる。ノモスの「クラブ キャンパス」に対する評価も、まさにその文脈に当てはまる。というのも、同社自身がこのモデルを“機械式時計への入り口として積極的に訴求しているためである。
とりわけこの腕時計が初めての1本となるケースが多いことから、ノモスは裏蓋に広い範囲の刻印が可能なソリッドバックを採用している。コンセプトとしては素晴らしいが、それによって内部に収められたアルファムーブメントが隠れてしまうことは否めない。グラスヒュッテ様式の3/4プレートやブルースクリューを備えたこのムーブメントは、同社による自社製造で、厚さわずか2.6mmと非常にスリムである。もしこれを目にすれば、クラブ キャンパスに対する認識が一変するかもしれない。

遊び心あふれる、ブルーのカリフォルニアダイアル
マイティ(力強い)と評されるゆえんは、この時計が真面目さを保ちながらも、どこか遊び心を忘れていない点にある。カリフォルニアダイアルと呼ばれるスタイルは、アラビア数字とローマ数字を混在させ、さらにいくつかのインデックスも追加している。

視認性は極めて高く、そこに明るいオレンジ色のスモールセコンド針が鋭く目を引くアクセントとして配置される。ラグは想像以上に長く、時計により豊かなキャラクターを与えている。
一部では、ノモスがティファニー・ブルー人気に便乗したと評されるが、たとえこの種の色彩が現在トレンドであっても、ノモスは常に独自の美学を貫いている。文字盤をよく観察すると、インデックスや数字の縁取りに、ピンクが使われていることに気づくだろう。細部に宿るこの工夫こそが、全体の完成度を一段と高めている。
もっとも、そこまでしなくともこのノモスは十分に人々を引きつける魅力を備えている。筆者自身もノモスの中ではより高価なモデルを所有しているが、クラブ キャンパスを着ける体験はそれらに引けを取らない。それは、ノモスへの愛情を再確認させてくれると同時に、コレクションに加えたいという欲求をもかき立てる。
その理由のひとつは、手持ちのより真面目なノモスが黒またはシルバーの文字盤を備えていることにある。対してクラブ キャンパスは、より色彩豊かな選択肢を提供しており、「ノンストップ・レッド」と本稿で紹介する「エンドレス・ブルー」がラインナップに加えられている。
鮮やかなブルーの文字盤にマッチする、グレーのビーガンストラップ
ケース径38.5mmのクラブ キャンパスは、さまざまな手首のサイズや形状にフィットする。非常に気軽に着用でき、ほとんどの装いにマッチする腕時計である。別の言い方をすると、このカラーリングに合うもの自体がほとんど存在しない、とも言える。
ノモス自身もこれを示すかのように、グレーのストラップを合わせている。素材はビーガンストラップで、筆者にとっては嬉しい驚きだった。ビーガンストラップは、リンゴの皮20%とプラスチックや接着剤80%で作られていることが多く、高級時計の美観や装着感にはそぐわないことが多い。だが、このノモスのストラップは、プレスリリースを読み込むまではヴィーガンと気づかないほど自然で、すでに着用して気に入っていた。

手頃な価格ながらも、ノモスの名に恥じない高い品質の腕時計
このように、ノモス「クラブ キャンパス38 エンドレス・ブルー」は、高級時計への入門者向けとして位置づけられている一方で、経験豊富なコレクターにとっても、コレクションに彩りと遊び心を加える絶好の1本である。手頃な価格でありながらも、洗練された基準を損なうことがない。ゆえに、「エントリーレベルのノモス」などという概念は存在しないと言い切ってよい。価格に関係なく、ノモスの腕時計はいずれも等しく作られているのだ。

手巻き(Cal.アルファ)。17石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約43時間。SSケース(直径38.5mm、厚さ8.5mm)。10気圧防水。26万4000円(税込み)。