近年、ラインナップの拡充が見られる小径モデルに注目して、2025年の新作腕時計のうち、直径38mm以下のケースを持った傑作をピックアップして紹介する。手首の細い人、ヴィンテージテイストを好む人、男性向けモデルのスタイリングを取り入れたい女性にとって、見逃せないモデルが並んでいるはずだ。これまで小径モデルに注目していなかったユーザーも、ぜひとも店頭にてチェックいただきたい。腕時計の新たな魅力に気付くきっかけとなるかもしれない。
Text by Shin-ichi Sato
[2025年4月16日公開記事]
魅力的な選択肢の増加につながる小径モデルに注目
今回は2025年の新作腕時計のうち、ケース径38mm以下に絞って傑作を紹介する。近年の傾向として、大まかに直径40mmを基準に、大径モデル・小径モデルに分けることは、多くの読者に同意いただけるのではないだろうか。この基準に従えば、今回取り上げる直径38mm以下は小径モデルに分類されることになる。
昨今の小径モデルの拡充は、かつての“デカ厚ブーム”の揺り返しという側面があるのと同時に、手首の細い人、ヴィンテージテイストを好む人、男性向けモデルのスタイリングを取り入れたい女性にとって、魅力的な選択肢が増えている点は見逃せない。
これまで、小径モデルに触れてこなかったユーザーは、ぜひとも今回選出した新作の直径38mm以下の傑作5モデルを中心に店頭で試着してみていただきたい。腕時計の新たな魅力に気付くきっかけとなれば幸いである。
IWC「インヂュニア・オートマティック 35」Ref.IW324903

自動巻き(Cal.47110)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KRGケース(直径35mm、厚さ9.4mm)。10気圧防水。575万3000円(税込み)。(問)IWC Tel.0120-05-1868
従来モデルに対して大きくコンパクト化が図られた新作がIWCの「インヂュニア」である。従来のインヂュニアは、2023年にフルモデルチェンジが行われており、1976年にジェラルド・ジェンタがデザインした「インヂュニア SL(Ref.1832)」に回帰するデザインコンセプトとなったことが話題となった。
2023年発表の「インヂュニア・オートマティック 40」はケース径40mm、厚さ10.7mmであるのに対し、コンパクト化された「インヂュニア・オートマティック 35」はケース径35mm、厚さ9.44mmと、小径化のみならず、より薄く仕立てられている。サイズダウンに際し、ケースサイドとブレスレットをつなぐなだらかなラインや、ベゼル上のネジといったデザイン上の要素に加え、スタイリングを維持するようにすべてのパーツ、すべてのディテールの見直しが行われている。また、小型かつフラットなシルエットと、人間工学の観点からのさらなる改良により、良好な着用感が期待できる。
従来モデルがケース径40mmに対して、本作は35mmと、直径の差が大きいことが本作の特徴だ。これは、1976年初出のインヂュニア SL Ref.1832がケース径40mmであったのに対して、1980年代に34mmモデル(Ref.3505)が追加されたことを踏まえてのことであろう。
今回取り上げる18Kレッドゴールド製モデル(Ref.IW324903)に加え、ステンレススティール製モデルのシルバー文字盤(Ref.IW324901)およびブラック文字盤(Ref.IW324906)の計3種が発表された。いずれも搭載するのは自動巻きムーブメントのCal.47110で、パワーリザーブは約42時間だ。
オメガ「シーマスター ミラノ・コルティナ 2026」Ref.522.53.37.20.04.001
自動巻き(Cal.8807)。35石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約55時間。18Kムーンシャイン™ゴールドケース(直径37mm、厚さ11.55mm)。100m防水。297万円(税込み)。(問)オメガ Tel.0570-000-087
ヴィンテージウォッチファンにも刺さるケース径37mmの新作、オメガ「シーマスター ミラノ・コルティナ 2026」は、コンパクトなモデルを取り上げる中で見逃せない。本作は、オリンピックのオフィシャル タイムキーパーを務めるオメガが、1年後の2026年2月6日に開会式を迎えるミラノ・コルティナ 2026 冬季オリンピックの開催を記念するモデルである。
本作がベースとするのは、1956年のメルボルン大会を記念するモデルである。当時の記念モデルや、同時期のコンステレーションで特徴的な“猫足”型のラグやラウンドケース、楔形のインデックス、ドーフィン針、六角形のリュウズ等が継承されている点が見どころだ。

そして、デザインを継承するだけでなく、現代のオメガの技術やクラフトマンシップが融合している点が、オメガらしいアプローチである。搭載されるのは自動巻きコーアクシャル マスター クロノメータームーブメントのCal.8807であり、実用精度や耐磁性の高さは現代基準で申し分ない。クラシカルでコンパクトなデザインを、現代基準の信頼性で堪能できることは、本作特有の魅力と言えるだろう。
ケースはオメガ独自の18Kムーンシャイン™ゴールド製で、ダークブルーの空に輝く月の光からインスピレーションを得た素材だ。一般的なイエローゴールドよりも淡い色調で、本作のホワイトの文字盤との組み合わせによりエレガントさを生み出している。このホワイトの文字盤はグラン・フー エナメル製であり、艶やかな質感が本作の特別さを演出している。
タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー フォーミュラ1 ソーラーグラフ」Ref.WBY1111.BA0042

ソーラークォーツ(cal.TH50-00)。フル充電時約10カ月稼働。SSケース(直径38mm、厚さ9.9mm)。100m防水。28万6000円(税込み)。(問)LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7030
“タグ・ホイヤー”ブランドの始まりにも関わる「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」にも、ケース径38mmの新作が追加された。タグ・ホイヤー フォーミュラ1は、旧ホイヤーが、タグ・ホイヤーというブランド名でデビューを果たした1986年に誕生したコレクションだ。
鮮やかなカラーリングをはじめとするスポーティーでポップなデザインが人気を集め、タグ・ホイヤーブランドの知名度を高めると同時に、タグ・ホイヤーのレーシングスピリットを象徴するモデルとしてラインナップを支えてきた。
今回追加された新作は、デビュー当時のデザインを踏襲しており、かつて憧れたモデルとの再会を喜ぶファンも多いのではないだろうか。そして、新作の最大のトピックは、コレクションで初となる“ソーラーグラフ”ムーブメントCal.TH50-00の搭載である。光発電を採用するCal.TH50-00はタグ・ホイヤーが開発したムーブメントで、わずか2分間の直射日光で1日分のエネルギーをまかなえる発電効率の高さを備える。また、フル充電時には最大10ヶ月間の駆動が可能かつ、約15年というバッテリー寿命も実現するなど、優れた信頼性を備える。
ケース径38mmのサイズは、オリジナルの35mmからサイズアップされているが、現代基準で38mmはコンパクトかつ主流のサイズに近いことから、幅広く受け入れられることだろう。時計仕上がり厚さは9.9mmと薄型の仕立てで、この点からもコンパクトさは維持されていると言って良いだろう。
取り上げるのはサンドブラスト仕上げのステンレススティール製モデルである。ブラックのベゼル、ホワイトの文字盤にレッドのリングが配され、タグ・ホイヤーのグリーンとレッドのエンブレムが添えられる。そのカラーリングは往年のレーシングカーも思わせるもので、本作のテイストとマッチしている。本作の他には、軽量で耐久性に優れる、バイオポリアミド素材「THポリライト」を採用したカラフルなモデルも並ぶ。こちらも往年のモデルを思わせるデザインだ。
ブライトリング「トップタイム B31」Ref.AB3113171L1A1

自動巻き(Cal.B31)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約78時間。SSケース(直径38mm、厚さ10.3mm)。100m防水。86万9000円(税込み)。(問)ブライトリング・ジャパン Tel.0120-105-707
アイコニックなクロノグラフとして親しまれてきたブライトリング「トップタイム」コレクションに、ケース径38mmの3針モデル「トップタイム B31」が今年追加された。ブライトリングはこれまでにも、アイコニックなクロノグラフモデルを3針モデルのデザインに落とし込むアプローチを取っており、それらの人気が高まっているという背景がある。元となったクロノグラフモデルを所有しつつ、シーンに応じて3針モデルを着用したいという需要や、クロノグラフモデルとコンパクトな3針モデルが広義のペアウォッチとして選ばれているのではないか? と筆者は考えている。
1960年代に登場したトップタイムは、当初からスポーツ用途にマッチした高性能さとスタイリングを追求したタイムピースとして支持されてきた。また今年は、クッションケースに特徴的な“角丸”型のサブダイアルと「ダッシュボード」モチーフのクロノグラフモデルが復刻され、コレクション全体の注目度が高まっていると言えるだろう。
トップタイム B31は、このようなクロノグラフの伝統を引き継ぎつつ、時刻表示に特化したシリーズとして進化している。ケース径は伝統的な38mmを継承し、クラシックなプロポーションを備え、文字盤デザインにはエッジの効いたバー型の時分針とインデックスといったモダンなテイストが加えられている。
今回取り上げるのはグリーンの外周にブラックを加えたツートンカラーで、ブリティッシュスポーツカーを思わせる仕上がりである。本作以外には、ブルー×ホワイト、ベージュ×スカイブルーの組み合わせが用意されており、これらは往年のレーシングカーからサンプリングされており、トップタイムの系譜を感じさせるものだ。
ブレスレットの他に、パンチングメッシュが施された“ラリータイプ”のレザーストラップも用意され、クラシカルなモータースポーツ向けモデルの趣きを感じさせる仕上がりとなっている。
レイモンド ウェイル「ミレジム 35 スモールセコンド」Ref.2130-STC-80001

自動巻き(Cal.RW4250)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約41時間。SSケース(直径35mm、厚さ10.25mm)。50m防水。34万1000円(税込み)。(問)ジーエムインターナショナル Tel.03-5828-9080
コンパクトなサイズ感は、クラシカルな印象をもたらす。その観点から、ケース径35mmのレイモンド ウェイル「ミレジム 35 スモールセコンド」のサーモンピンク文字盤モデルは外せない。1930年代に流行したアールデコ様式を取り入れて“ネオ・ヴィンテージ”をコンセプトとする「ミレジム」の中で、ケース径35mmかつスモールセコンドの組み合わせは往年のドレスウォッチに通ずるスタイリングであり、レトロなテイストの強いラインナップと言えるだろう。
サーモンピンクカラーはヴィンテージモデルに見られ、その特有の色調と質感から人気が高いカラーである。近年では、ヴィンテージモデルの復刻やそのテイストを引き継いだ新作への採用が見られ、人気と一般的な知名度の高まりを見せている。そんなカラーを備えたミレジム 35 スモールセコンドモデルは、アールデコ様式を取り入れつつ立体感のあるセクターダイアルと組み合わされることで、いっそうレトロ&ドレッシーな仕上がりとなった。一方で、“ヴィンテージモデルの再現”となっていない点がミレジムの注目点で、トライアングル型の針に装飾の要素を廃したインデックス、切り立ったケース側面、グレーのレザーストラップとのコーディネートがモダンさを漂わせている。
搭載されるムーブメントは自動巻きのCal.RW4250で、パワーリザーブは約41時間だ。時計の仕上がり厚さは10.25mmと薄い仕立てで、ケース径と相まってコンパクトかつスタイリッシュな仕上がりとなる。本作のコンパクトさに、この薄い仕立ては必須と言えるのではないだろうか。