卒業制作はなんと機械式メトロノーム! 岡田樂「テンポ・ルバート」に注目

2025.04.28

毎年、優秀な時計師たちを輩出するヒコ・みづのジュエリーカレッジ。2025年の卒業制作展でひときわ目を引いたのが、岡田樂氏の製作する機械式メトロノームの「テンポ・ルバート」だ。

テンポ・ルバート

テンポ・ルバート
気鋭の時計師、岡田樂が完成させた世界初の腕時計型機械式メトロノーム。世界最小サイズというだけでなく、任意にBPMを変えることが可能。写真でも分かるように、すでに製品として通じるだけの完成度を備えている。手巻き(Cal.TempoRubato)。7200~1万4400振動/時。SSケース(直径39.5mm、厚さ13mm)。日常生活防水。非売品。
Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年5月号掲載記事]


世界初の腕時計型機械式メトロノーム

 ヒコ・みづのジュエリーカレッジに通っていた岡田樂氏は、卒業制作で驚くべき機械を完成させた。それが世界初となる、腕時計型機械式メトロノームの「テンポ・ルバート」だ。その特徴は、機械式メトロノームとしては世界最小サイズであること。メトロノームの稼働中でも、任意にBPMを変えられること、そして実際に使えることだ。ジャズドラムが趣味である岡田氏は、実際テンポ・ルバートを腕に着けて耐衝撃テストを行ったというから、これは単なるガジェットではないのである。

Cal.TempoRubato

Cal.TempoRubatoの大きな特徴が、機械式時計のアンクルをメトロノームの針に見立てたこと。なお、ヒゲゼンマイにあたる部品には、片山次朗氏のアドバイスで、ギターの弦を使っている。確かに、品質の安定した弦はうってつけだ。2本の軸で支えられているのが、BPMを支える錘。最新版では右側の軸にもスリーブが被せられ、安定性が増した。錘は銀製だが、重い素材に替えることで厚みは減らせそうだ。

 操作は実にシンプルだ。左下のプッシュボタンを押すとメトロノームが動き、ベゼルの左右回転でBPMの調整(120〜240)と、右回転でゼンマイの巻き上げを行う。

 可能にしたのは、機械式時計のアンクルをメトロノームの針に見立てるという発想だった。また回転ベゼルと針に連結された錘を上下に動かすことで、BPMを変えられる、というアイデアも類を見ないものだ。機構の負荷は大きそうだが、岡田氏は、針の軸の上下など、大きなトルクのかかる部分に、ミネベアミツミ製のボールベアリングを使って解決した。

テンポ・ルバート

 感心させられたのは、パッケージの巧みさだ。直径39.5mm、厚さ13mmというサイズのおかげで腕乗りはかなり良好である。そして左右に回るベゼルの感触も、それ自体を楽しむために触りたくなる節度感がある。正直、これが卒業制作とは誰が思うだろうか?

 音楽関係者でなくとも、メカ好きならば間違いなく手にしたくなるテンポ・ルバート。これはあくまで卒業制作だが、岡田氏は遠くない時期に市販化を検討している。将来が楽しみな時計師がまた増えることを、大いに喜ぼうではないか!



Contact info:https://www.instagram.com/gaku_okada/


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