2024年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで、ベル&ロスが披露した時計のひとつが「BR-05 ブラックセラミック」だ。今回はこの都会的なスポーティーウォッチをインプレッションする。BR-05シリーズで初めてセラミックスを採用した本作は、控え目なポリッシュがラグジュアリーな雰囲気を醸しており、着用時には老若男女を問わず注目を集めた。
Text by Yoko Koizumi
[2025年4月21日公開記事]
洒脱なミリタリーウォッチはベル&ロスの得意技
ベル&ロスのブランドの公式創業年は現在1994年(ファーストモデル発表年)としているが、実際に会社を設立したのはフランスのパリで、1992年のことである。
デビュー当初から注目されていたが、ブレイクしたのは2005年に発表した角型のBR-01の登場からだ。ミリタリーテイストで角型というのも斬新だったし、それも46mmという大きなケースサイズは驚きだった。欧米人のサイズを考えれば、もちろん46mmは大きくはあるけれど、使うことに不都合はないのだろうなとも思ってもいた。

2005年に誕生し、ベル&ロスの名を世に広めた傑作。航空計器をモチーフとしたスクエアケースのミリタリーウォッチは、当時、驚きを持って迎えられた。自動巻き(BR-CAL.302/ETA2892A2)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS+PVDケース(ケース径46mm)。100m防水。
BR-01が登場した2005年を振り返ると、各ブランドがいわゆる“超ド級”といわれる複雑機構を次々と登場させている頃。トゥールビヨンですら“スタンダード感”がにじみ出ているから恐ろしい。価格も2000万円、3000万円は当たり前で、いま振り返ってみると「なんか、バグってたなぁ……」と思う。とはいえ、時計というモノがいろんな脱皮を繰り返していた時期であり、この技術開発合戦が今の時計の面白さにつながっているのは間違いないので、この時期に幾度となく「ひゃ~」とか「ぎゃっ」とか思わせてくれた業界に感謝である。
で。そんな潮流のなかでのベル&ロス、BR-01である。もう立ち位置自体がすがすがしいことがお分かりになるだろう。

ファーストモデルは1997年に登場。ベゼルとミドルケースを一体化した、2ピースケースを持つ実用時計だ。紹介の写真はインデックスの形状などに改良を加えた第2世代で、2010年には後継機の「ヴィンテージ BR 123」に置き換わった。自動巻き(Cal.ETA2895A2)。27石。参考商品。
なにしろスタンスは「視認性」「機能性」「高精度」「信頼性」の4つが基本原理。「どんなディテールにもそれぞれの意味があり、機能がある」と言い切っているわけで、彼らにとって“理由のないもの”はしっかりとご遠慮いただいている。
それでいて、そこはかとなく「おしゃれ」なのである。これがいわゆる「フランス人のエスプリなのか?」と思った当時の私だが、1997年に発表した「ヴィンテージ 123」の洒脱なデザインに惚れていたので、「今度はコックピットがモチーフなのね。それも“おしゃれ”にしちゃうんだから、やっぱり腕がいいなぁ」とただ納得していたモデルだった。ちょびっと大きかったけど。
超技巧派の対局にあったベル&ロスは多くのユーザーにとっても新鮮に映ったし、スクエア×ミリタリーというスタイルはさらに革新的で、人気が出ないわけがなかった。20年を経たいまではブランドのアイコンとして、離れていても「ベル&ロス」と分かるまで認知度アップ。このモデルがベル&ロスをブランドとして育て上げたといっても過ではないだろう。2006年にケースを42mmにダウンサイジングした「BR-03」を、2019年にベゼル形状をスクエアに、四隅にビスを配した「BR-05」を発表し、BRシリーズのラインナップは拡充し続けている。
ブラックセラミックスがいかに注目されるか
という流れを受けての、今回のインプレッションが昨年登場した「BR-05 ブラックセラミック」である。やっと本題です。
「BR-05」はもっと気軽に着けられて、なおかつベル&ロスとしての雰囲気も欲しいという声が誕生のきっかけだったという。「BR-03」よりも小ぶりで、さらにBR-05のために設計されたケース一体型のブレスレットを持つ。そしてミリタリーのエッセンスを洗練したデザインに昇華させたベル&ロス独自の「アーバンスタイル」を提唱しているコレクションだ。先にも述べたが2019年に誕生し、今年で6年目。少しずつコレクションが充実しているが、そのうちのひとつが「BR-05 ブラックセラミック」というわけだ。
3針モデル+デイト表示モデルが40mmのところ、同じ構成ながら41mmへサイズアップ。この理由は「黒だと締まって見える」ことから、視覚的な効果を考慮しての+1mmだそうだ。

自動巻き(BR-Cal.321-1)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約54時間。セラミックケース(直径41mm、厚さ11.2mm)。100m防水。113万3000円(税込み)。
正直、これまでのBR-03は大きいなと感じていたので、腕に乗せたときのちょうどいいサイズ感はうれしい驚きでした! ケース径41mmをユニセックスとカテゴライズできるのか、判断に迷うところだが、少なくとも多くの女性にも支持されると確信を持って言える。その理由のひとつがセラミックスの美しさ。
時計にはいろいろな黒色があるが、これは質感を含めて黒色のコンビネーションが楽しめるモデルと感じた。とくにポリッシュの部分には金属とは異なる奥行きと艶感がある。
女性にとって2000年にシャネルの「J12」が登場して以来、時計におけるブラック・ラグジュアリーはスタンダードになっている。いまだに大人気モデルだが、その反面であまりにアイコン化が進み過ぎたこと、またすべてがツヤツヤ・ピカピカで、使うのに気後れしてしまう方も多かったように思う。
その点、「BR-05 ブラックセラミック」で磨かれているのはベゼルサイドとケースサイドのエッジの部分の1mmほど。光の加減でちょっと光る、このほどほどの加減が素晴らしい。

ブレスレットも同じくセラミックス製なのだが、こちらでは中央のコマが磨き上げられている。これがラグジュアリーな輝きを創り出す。近くで見るよりも、その輝きは少し離れたところからときに効果を発揮。「かなり気になる存在」となる。
仕事柄、(自分のモノではない)さまざまな時計を付けていることが多いのだが、「BR-05 ブラックセラミック」は、「どこの時計ですか?」と尋ねられることが多かった。特に20~30代の男性に響いたようで、なかには生まれてこのかた、スマートウォッチしか使ったことがないという“時計遍歴”を持つ人も含まれている。そこはかとなく輝いているものが、男子はお好きですもんね~。
これまで私の時計など気にも留めたことがない83歳の母までも「あら、素敵じゃない。これまでの時計とはちょっと違う」とべた褒めであった。
そして、そのブレスレットの装着感が素晴らしく良かった。正直、ブレスレットモデルはコマの調整によってはバックル部分が手首の中央からズレてしまうことが多く、時計がカタカタと動いて装着感を損なうことがあるのだが、ピタリとはまった。
セラミックスの特性なのだろうが、装着時にひんやりすることもなく、バックルも使いやすい。日常使いでストレスもなかった。女性にとってもかなり魅力的なモデルであろう。
ムーブメントはケースに合わせてブラックルテニウム仕上げを施したCal.BR 321-1を採用(ちなみにルテニウムとは元素番号44の元素だそうです)。ベースにセリタのCal.SW300を使い、テンプ、ヒゲゼンマイ、ムーブメント全体を覆いながらもそれを隠さない360度回転するローターを備えてカスタマイズされている。

ローターはBR-05のためにデザインされたもので、トランスパレント仕様(シースルーバック)のケースバックからそのすべてを見ることができる……と書きたいところだが、ブレスレット仕様のため、全体像を若干、見づらかったのは残念。ローター鑑賞が外せない方は、ラバーストラップ仕様がラインナップしているので、そちらもご確認ください。
還暦、おめでとう!
ベル&ロスを創業したのはブルーノ・ベラミッシュと、カルロス=アントニオ・ロシロだ。ふたりは高校時代の同級生であり、ミリタリーウォッチ好きとして意気投合。そんなふたりが興した時計ブランドがベル&ロスである。

ちなみにふたりは1965年生まれ。そしてパリで会社を設立したのは1992年、27歳のときのこと。いまでこそ、この年齢で起業することは珍しいことではないが、30年以上前の時計業界で、さらにフランス出身、というのは稀有な存在だった。
私が最初にブルーノ・ベラミッシュに出会ったのは、1997年か1998年のバーゼルフェア(のちにバーゼルワールドに変更)だった。ブースにお邪魔して、新製品を紹介してもらった。当時、私が勤めていた会社がジンとの関係が深く、その関係で取材に行ったように記憶している。
ベル&ロスとドイツの時計会社ジン、その創設者であるヘルムート・ジンとの関係についての記事はあちらこちらで見ることができる。詳しく知りたい方は『腕時計パラノイア列伝 ベル&ロス誕生物語』(https://www.webchronos.net/comic/90256/)をご覧ください。
そこで見たのが「ヴィンテージ 123」で、単なるミリタリーウォッチではなく、新しい解釈を加えたそのスタイルは大いに魅力的だった。何しろ白いダイアルのミリタリーウォッチなんて、いや~、驚きました。彼らの時計作りの理念は、いわゆる質実剛健。言葉からは無骨なスタイルになりそうだけれど、素晴らしく洒脱。洒脱でいながら質実剛健。相反する単語だけれども共存できるんだなと思った。
ただ驚いたことはもうひとつあり、個人的な理由だが、1966年生まれの私と彼らとが同世代だったこと。30歳そこそこでバーゼルフェアにブースを構えて、自分たちの作った時計を堂々と紹介しているふたりと、まだ時計の右も左もよく分からない自分との違いに少なからずショックを受けたのである。
当時はいまのようにひっきりなしに取材がなかったのか、他社ブランドが気になったのか、会期中に会場内で何度かブルーノと出くわした。まだ会場に日本人は少なくて、覚えていてくれたのだろう、会えば丁寧な会釈をしていたのだが、3回目くらいになると、「またお前か!」と苦笑いし合った。
そんな思い出もあってベル&ロスには成功を望んでいたし、ずっと気になるブランドであり続けた。現在の世界的な人気は本当に喜ばしいことで、とくにブルーノが第一線で活躍していることは同世代としてもうれしい限りだ。
今年、ブルーノとカルロス=アントニオ・ロシロはともに還暦。フランス人に還暦の考え方はないだろうけれど、彼らに日本から、還暦のお祝いの気持ちを送ります。お互いに頑張ろうね!
これからは、彼らもヘルムート・ジン氏に教えを乞うたように、若き世代に時計作りを伝えていく年齢になるんだろうけれど、これからも「BR-05 ブラックセラミック」のような魅力的な時計を創ってもらいたい……なんて思っていたら、今年はなんと「BR-05」の36mmが発表されたというではありませんか!
以下はウェブクロノスの記事のコピペですが。
「本作では、複雑なBR-05のケース設計が一から見直されており、従来の最小サイズであった直径40mmから、4mmものダウンサイジングに成功している。さらに、ケースの小型化に合わせて、厚みも8.5mmにまで抑えられており、ブレスレットも最適化されたことで、より良好な手首へのフィット感も獲得している」(https://www.webchronos.net/features/135608/)
おぉ、なんと。あ~、これも大いに気になる。せっかくだし、私の還暦祝いに買っちゃおうかな。