2025年8月28日、パルミジャーニ・フルリエが銀座にブティックをオープンした。しかもそのロケーションは中央通りの一等地。ブティックを開いた意図をCEOのグイド・テレーニに尋ねた。
Photograph by Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]
重要なのは大事なものを絞り込んで明確にすること

パルミジャーニ・フルリエCEO。1969年、イタリア生まれ。ルイジ・ボッコーニ大学で経営学士を取得後、ブルガリに入社。メンズウォッチのプロダクトマネージャー、ウォッチプロダクト全般の総括責任者を務めた後、マーケティングディレクターを経て、時計部門の責任者に就任。2021年1月より現職。「トンダ PF」のヒットでパルミジャーニ・フルリエのパブリックイメージを大きく変えつつある。
「ブティックの計画はそもそもなかったよ。パートナーから1年前に提案された。間口は狭いけれど、2階を合わせた総面積は75.3㎡。ビジビリティーは最高だった。ブランドのステートメントを示すのは良かったし、こんな場所を得るのは極めて難しいからね」
ちなみにパートナーに選んだのは、時計のリテーラーではなく、このビルで主にイタリアンジュエリーを輸入販売するリテーラーだ。しかし、時計専門店ではないのに運営に問題はないのか?
「いや、問題はないと思っているよ。彼らは他の国でも時計やラグジュアリーなアイテムを手掛けているしね。そして教育も行っている」
このブティックで驚かされたのが、時計のブティックらしからぬ造作だ。スイスのアトリエ・オイが手掛けた内外装は、まるでリビングのようだ。一見地味だけどお金がかかっていると述べたところ、テレーニはその通り、と言った。
「ブティックで重要視したのは雰囲気だった。空を示した大きなパネルは、自然光のように時計を見せてくれる。スポットライトを当てないで、ラグジュアリーにしたかったんだ。これはかなり難しいのだけどね」

日付と曜日、月と閏年をそれぞれふたつのインダイアルに分けることで、極めて端正なデザインを実現した新作。パーペチュアルカレンダーにもかかわらず、ケース厚を10.9mmに留めたのも見識だ。非常に通好みの意匠を持つが、そのミニマルさは唯一無二。手巻き(Cal.PF733)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRGケース(直径40.6mm、厚さ10.9mm)。30m防水。世界限定50本。1397万円(税込み)。
縦に長いパネルが違和感を与えないのは、縦の空間を強調したため。
「縦の流れを遮断しない造作になっているよ。光も下から上に昇っていく。開口部を大きく取って心地よい空間を演出したんだ。もっとも、ここは東京のブティックだから、日本の文化も加えた。2階にあるライトは折り紙のように形を変え、色もグレーやブラウンになる。色で遊ぶというブランドの哲学も反映させたつもりだよ」
しかし、筆者が見た中で、これほどブティックと時計が一致する例は稀だ。このブティックに身を置くと、パルミジャーニ・フルリエの時計がどのようなものか、見ずとも想像できるのではないか?
「大事なのは一貫性。広告もブティックも、同じ価値の提供をしたい。コンセプトも揃えて、ハーモニーを出すことが大事なんだ」
もうひとつ、このブティックには、創業者のミシェル・パルミジャーニや、その卓越した技巧を示す説明は全くない。メゾンを紹介する本さえも置いていないのだから、その切り詰め方は徹底している。
「もちろん、ミシェル・パルミジャーニは私たちの原点ではあるけれど、それを永久化させるのが大事だと思う。そのためにはエッセンスを抽出して示すこと」



