今年創業20周年を迎えたクストス。その陣頭指揮を執るのは、創業当初から一貫してサスーン・シルマケスだ。ブランドの共同創業者にしてCEOである彼に、クストスが続けてきた〝チャレンジ〞について語ってもらった。
Photograph by Mika Hashimoto
細田雄人(本誌):取材・文
Text by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]
小規模ながらも独立性の高い企業に成長しました

クストス共同創業者兼CEO。1984年、スイス生まれ。高校卒業後、父でありフランク ミュラー ウォッチランド グループCEOであるヴァルタン・シルマケスの経営する宝石のセッティング工房に入社。その後、フランク ミュラー ウォッチランド グループで会計に携わる。2004年にアントニオ・テラノヴァと出会い、05年にクストスを共同創業。
「20年前にクストスを立ち上げてから、常に時計ブランドとして独立するということを目指していました。創業間もなくジュネーブの中心にオフィスを借りたのも、その後あまり時間を置かずにいろいろな機械を導入するなど、インフラを整えたのもその一環です。もちろん初めは外部のサプライヤーと協力して時計製作をしていましたが、今は小さいながらも独立性の高い企業になったと自負しています」
本人は小さな会社と謙遜するが、現在のクストスはデザインや最終組み立てを行うジュネーブの本社以外にも、近郊に工房を擁しており、この2拠点だけで社員数は約50人に及ぶ。特に7〜8年前から設備投資を始めたという後者では現在、ムーブメントパーツからケース製造までを手掛けている。盤石な生産体制を整えたクストスは今や、スイスでも屈指のマニュファクチュールにまで成長を遂げたと言えるだろう。20年足らずでここまで会社を大きくできた秘訣はあるのだろうか?
「この20年間、世界中でシェアを伸ばしており、マニュファクチュール体制を整えるための機械を導入できました。それとやはり共同創業者のアントニオ・テラノヴァの存在が大きい。彼はデザイナーですが、ムーブメントのエンジニアリングを学んできたため、エボーシュの改良から新規設計までできるのです。今でもハイテク、スポーティー、テクノロジーという価値観を持つ新しい時計を生み出しています」

テニスプレイヤー、カレン・ハチャノフとの協業モデル。製作にあたっては、サスーン・シルマケスがメッセージアプリを通じてハチャノフの要望を直接聞き取って共同開発したという。手巻き。2万1600振動/ 時。アルミニウム合金ケース(縦53.7×横41mm)。100m防水。世界限定55本。297万円(税込み)。
現状に慢心することなく積極的に設備投資を続けてきたシルマケスと、機械から外装まで、時計をパッケージで設計できるテラノヴァ。共同創業者のふたりが経営と現場をそれぞれ回してきたからこそ、クストスは短期間でここまで成功を収められたに違いない。
自身が立ち上げたブランドで「チャレンジ精神」を掲げ、20年間最前線に立ち続けてきたシルマケスに、次の20年でどのようなチャレンジを続けていくつもりなのか、最後に聞いてみた。「フラッグシップブティックをつくること。そしてヒゲゼンマイも含めて、自社製のテンプを開発すること、このふたつが当面のチャレンジになると思います。それと実は先日、創業20周年を記念した限定モデルをテニス選手と共同開発しました。重量はわずか55g。この腕時計も実にチャレンジングなモデルで、彼はプレー中も着用しているようです」。



