オリス CEOのロルフ・スチューダーにインタビュー。より進化させるためのリブランディング

2025.12.23

2025年7月末に東京を訪れたオリスCEOのロルフ・スチューダー。来日の目的はオリスのリブランディングを語るためだという。確かにこの数年、ミドルレンジを主軸とするブランドは苦戦しているように見受けられるが、その一方でオリスは機械式時計の入り口として独自のマーケットを形成しており、経営は盤石のようにも思える。その意図を聞いてみた。

三田村優:写真
Photograph by Yu Mitamura
細田雄人(本誌):取材・文
Text by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]


排他的とは真逆のラグジュアリー像を見つけていきたい

ロルフ・スチューダー

ロルフ・スチューダー
1972年、スイス・ルツェルン生まれ。スイスのフリブール大学とフランスのモンペリエ大学で法律を研究し、弁護士資格を取得。99年にコカ・コーラ ビバレッジへ入社し、マーケティング&セールスを担当。2006年にオリスへ入社、16年より現職。オンラインショップでの時計購入時に限定モデルのシリアル番号選択を可能にするなど、積極的にEコマースに取り組む。

「創業以来120年以上にわたって我々の在り方は不変でしたし、今後も変わることはありません。つまり機械式時計の入門で在り続けるということです。そのうえでオリスをより進化させるために、どのようなブランディングが必要か再考しました」

 軸となったのは、顧客にどういった価値を提示できるか。結果、「コミットメント(=誓約)」「キュリオシティ(=好奇心)」「コミュニティー(=共同体)」という3つの価値観をリブランディングの中心に据えていくことが決まったという。特にスチューダーが強調するのが「コミュニティー」だ。

「今、時計業界でラグジュアリービジネスというとエクスクルーシブという考えを持ち出しがちです。確かにこの両者は特別感を演出するために結び付きやすいが、本来、エクスクルーシブとは『排他的』という意味。そのため、解釈を間違えるとネガティブな感情を引き起こしかねません。我々にとってラグジュアリーというのは、その真逆だと信じています。つまり、1本の時計をひとりだけが入手でき、それを自慢するのではなく、コミュニティーの仲間たちみんなで喜びを共有していくものこそ、本当のラグジュアリーだと考えています。オリスはエクスクルーシブとは離れた、インクルーシビティに重きを置いた新しいラグジュアリー像を目指していきたいと考えているのです」

オリス×バンフォード プロパイロット アルティメーター “ミッションコントロール”

オリス「オリス×バンフォード プロパイロット アルティメーター “ミッションコントロール”」
バンフォード・ウォッチ・デパートメントとのコラボレーションモデル。機械式高度計を搭載した既存モデルのカラーバリエーションだが、蛍光色を多く用いることでポップなキャラクターを巧みに確立した。自動巻き(Cal.793)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約56時間。カーボンケース(直径47mm、厚さ16.70mm)。10気圧防水。世界限定250本。120万6700円(税込み)。

 時計界で定着したラグジュアリービジネスの定石とは一線を画したアプローチを採るオリス。そのマインドは、環境問題に対する姿勢からも見て取れる。

「我々は独立したブランドのため、ビジネスに関わる全てにおいて責任を持つ必要があります。つまり、オリスの時計を製造・販売していく中で、資源の無駄遣いが生じたり、不必要な環境汚染の原因となったりしてはいけないのです。私たちが環境支援モデルなどを展開するのもその考えがあるから。しかし残念ながらラグジュアリー業界は、まだそこに目が向いていません」

 なるほど、先に挙げたコミットメントも、このような真摯な姿勢の帰結と言える。それでは残りのひとつ、キュリオシティとは?

 それは言うまでもない。機械式時計の入り口に立った時から、オリスはずっと好奇心を与え続けてくれているではないか。



Contact info:オリスジャパン Tel.03-6260-6876


手巻き「ビッグクラウン」にバンフォードコラボモデル……オリスの2025年新作時計【ジュネーブ・ウォッチ・デイズ】

FEATURES

静かなる実力派。オリス「プロパイロットX キャリバー400」を実際に触ってチェック!

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個人的に理想の腕時計に近い1本。シーンを問わず活躍するオリスの旅向けウォッチ

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