魔法のようなブレスレット、そしてCal.822。ジャガー・ルクルトの新しい「レベルソ・トリビュート」は660万円でも買い!

2025.12.30

2025年4月にスイスで開催されたウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで、ジャガー・ルクルトは「レベルソ」祭りと言えるほど、このコレクションから多彩な新作モデルをリリースした。これらのうち、一際きらびやかだったのが「レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド」だ。今回、時計ライターであり、ジャガー・ルクルトをこよなく愛する堀内俊が、このモデルを深掘り。特に見るべきはブレスレット、そして手巻きムーブメントだ。

堀内俊:写真・文
Photographs & Text by Shun Horiuchi
[2025年12月30日公開記事]


ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート」とは何かから始める

「レベルソ・トリビュート」は、ジャガー・ルクルトが1930年代に製造した「レベルソ」の、オリジナルデザインに範を取ったシリーズである。1990年代にレベルソが復活して以降、しばらくはアラビア数字インデックスを文字盤に採用したモデルが主流であったが、オリジナルモデルに存在した砲弾型のインデックスを踏襲したモデルを“トリビュート”シリーズとして、2011年頃から展開している。そんなレベルソ・トリビュートの中でも、稜線を持った三面からなるアプライドインデックスが採用されたのが近年のシリーズであり、すでに定番化している。

 今回深掘りする、2025年新作「レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド」は、そんな同シリーズのラインナップのうち、オール18Kピンクゴールドの豪奢な仕様であることに加えて、全く新しいミラネーゼメッシュブレスレットをまとっていることも特筆すべき点だ。金無垢時計という特別なモデルを日常にも使いたくなるような、実に素晴らしい装着感を持つ。このモデルについて、レベルソ全体の歴史を簡単に俯瞰しつつ、深掘りしてみよう。

レベルソ トリビュート スモールセコンド

ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド」
手巻き(Cal.822)。19石。2万1600振動/時。18KPGケース(縦45.6×横27.4mm、厚さ7.56mm)。3気圧防水。660万円(税込み)。


レベルソの歴史(アウトライン)

 レベルソは1931年に発表され、実に90年以上の歴史を持つジャガー・ルクルトの基幹シリーズだ。まずはその歴史について簡単に振り返ってみよう。

 オリジナルのレベルソ(2針モデル)は、1931年のクリスマス商戦に間に合うように発表された。反転ケースの特許(FR712 868)が下りたのは同年8月3日であり、まさに直前である。ごく初期のムーブメントはタバン製Cal.064であり、これを1年半ほど用いたのち、1933年後半以降はジャガー・ルクルト製Cal.410が完成したため置き換わった。この第一世代のレベルソは、1950年代頃まで継続的に生産されたが、徐々に市場のニーズからは遠ざかっていく。

ジャガー・ルクルト レベルソ

1931年に製造された、オリジナルの「レベルソ」。現在にも受け継がれる、ケースを反転させて風防を衝撃から守る仕様が、すでに採用されている。

 時代は流れて1972年、イタリア・ミラノにてジャガー・ルクルトの代理店を経営していたジョルジオ・コルボがレベルソを販売したいとジャガー・ルクルトが拠点を構えるスイスのル・サンティエに問い合わせた。その結果、200個のブランクケースが発見され、これにオーバル型ムーブメントを組み合わせて販売したところ、すぐに完売。これを受け、ジャガー・ルクルトはケースを外部サプライヤーとともに一から再設計し、新たなレベルソを1979年に発表した。これが第二世代レベルソである。

 しかし防水性能が十分ではなかったため、ようやく自社で設計・製造されたケースを備えたレベルソが1985年、市場に投入された。現代まで続くレベルソの反転ケースの基本構造は、ここにようやく完成する。

 少し前後するが1978年、ギュンター・ブリュームラインが経営者となった、ドイツの計器メーカー・VDOは、IWCを買収、ジャガー・ルクルトもVDO傘下となる。ブリュームラインはIWCを率いつつA.ランゲ&ゾーネを復活させるなど、現在の機械式時計の隆盛の基礎を作った偉人であり、レベルソに関しては1991年に、これまでよりひと回り大きいGT(グランタイユ)ケースを開発し、レベルソ史上初めて複雑機能を持った「レベルソ・ソワサンティエム(60周年記念モデル)」を発表する。デザインはこれ以降、長くレベルソのデザインを統括するヤネック・デレスケヴィクスの手によるものとなった。

 つまり、1991年の時点でオリジナルから現在に至るレベルソシリーズの、直系の始祖が市場に出たことになる。ムーブメントは名機Cal.822の、やはり直接の始祖となるCal.824が搭載された。以降のレベルソの発展は読者の皆様のご存じの通りだ。


18Kピンクゴールドのケースについて

 さて、そんなレベルソの最新作である本モデルのケースサイズは、縦45.6×横27.4mmである。ひと昔前のビッグレベルソ(GTケース:縦42×横26mm)より若干大きいものの、厚さはわずか7.56mmと、2mm以上も薄くなっている。もともとレベルソは、時計単体の厚さに加えて台座(クレードル)の存在により厚くなるが、このモデルはクレードル込みで十分にドレスウォッチと言える薄さを実現している。

 ケース構造は、その長いレベルソの歴史の中では3.5世代と言えるものに進化しており、反転させるアクションにおいて、その工作精度の高さを十二分に感じられるソリッドなものだ。加えてケース内には、定評のある薄型手巻きムーブメントCal.822/2を抱き、ピンクゴールドの文字盤と針、風防をセットしてもこの厚さにとどまっているのは、B面をソリッドバックにしていることも大きな要因だ。Cal.822/2を見たいという気持ちも理解できるが、この時計の場合は薄さを優先とし、あくまで優雅さを追求したモデルであるべきだろう。

レベルソ トリビュート スモールセコンド

リストショット。細腕ゆえにケースはやや大きく感じるも、しなやかなブレスレットにより装着感は良好であり、使用に際して全く違和感はない。


驚愕のミラネーゼメッシュブレスレットと「板モノ」

 このレベルソを一度でも手に取ると、そのミラネーゼメッシュブレスレットの出来に驚嘆させられる。それはひたすらにしなやかで、肌への攻撃性も一切なく、ただただエレガントである。このブレスレットは、なんと16mにも及ぶ100本以上の金の糸を編み込んでいるのだ。その端部は全て人の手によって溶接されて一体化し、仕上げられている。

 一般にゴールド製ブレスレットの時計は、金の持つ比重からとても重量感のあるものになりがちである。一方でこのミラネーゼブレスレットは適度に薄く、時計本体の薄さと相俟って、決して身構えるような重量ではない。

ジャガー・ルクルト レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド

ケースを反転させて見える裏面はソリッド式の本モデル。しかしそのソリッド面は歪みなくポリッシュに仕上げられており、また、クレードル部分のサンレイ装飾と相まって、ジャガー・ルクルトの審美性を味わえる意匠を有していると言える。

 特筆すべきは時計本体のクレードルとの接合部であり、クレードル部のラグ部分から完璧なフラッシュフィットのような構造で隙間なく連続しているのだ。これにより、レベルソの印象は一変する。

 本モデルは、まるで1970年代に流行った薄型・金ブレスを持つドレスウォッチ群(例えばパテック フィリップ「ゴールデン・エリプス」やオーデマ ピゲ「コブラ」などの、通称“板モノ”)に並び称されるような位置付けになる。しかし本モデルは、それらの往年のブレスレットウォッチにはないメリットが発揮されている。

 というのも、1970年代の金無垢ブレスレットの多くは、オーナーの手首回りに併せて「切られ」て長さを調節されていた。よって一度短くなってしまえば、それより手首の太い人は着けられない。よりパーソナルなものになるという観点からは、そのような超高級時計の性質にもふさわしいとも言えるが、やはり「切る」のに抵抗を感じる人も一定程度いたであろう。どちらかというと、この「切断」を任された時計師のほうが、取り返しのつかないことにならないよう作業は緊張した、という話を聞いたことがある。

 一方、このレベルソのミラネーゼメッシュブレスレットは切る必要がない。バックルの構造により、ブレスレットのどの位置でも留めることが出来るため、手首回りに合わせたコマ詰めが必要ない。これは大きなアドバンテージであり、夫婦で使い分けたりすることが可能なのだ。むしろ一般的なブレスレットウォッチよりも柔軟ではないか。もちろんそのバックルも精緻な仕上がりであり、操作感も素晴らしい。このミラネーゼブレスレットは大きな価値であり、時計の販売価格は660万円(税込み)と、絶対的には高価であるが、相応のことはある。

レベルソ トリビュート スモールセコンド

16mもの金糸により編み込まれた精緻なミラネーゼブレスレットは圧巻である。また、バックルが秀逸で、ブレスレットのどの位置でもかっちりと留まり、手首の太さを選ばないユニバーサルだ。家族で共有して使うことも、全く問題ない。

 先にブレスレットに言及したのはそれがこのレベルソ最大の特徴であるからに他ならないが、本体についても深掘りしよう。

 目を引くのは、「全体がピンクゴールド一色」であることだろう。しかも一切いやらしさがなく、上品に見えるところがキモである。

レベルソ トリビュート スモールセコンド

細腕リストショットにおけるブレスレット。一糸乱れぬとはまさにこのことで、完全に規律正しく一様なミラネーゼブレスレットである。高精度な加工によるバックルも馴染みよく、欠点は皆無で甘美なまでの出来栄え。

 ケースは現在のジャガー・ルクルトの標準と言える出来で、カッチリとした形状の精度を持ち、かつ表面はよく磨かれている。ゴドロン模様もクッキリとしており、メリハリがある。文字盤は18Kピンクゴールドのブラストであり、その上に植字されたゴールドインデックスがキラキラと良いコントラストを生んでいる。針もふたつのファセット面が磨かれ、ピンクゴールドのワントーンなのに時間の視認性は高い。

 外周のトラックとブランドロゴは黒の印刷で、シャープである。特徴的なのは、JLロゴが、ここ数年でポピュラーになったアプライドロゴとなっている点だ。以前までこの仕様は、限定の特別モデルだけに許されていた。クレードルはラグが手首側に下がった、よりフィット感の高いものであり、ミラネーゼブレスレットの存在も相まって、良好な装着感に寄与している。なおクレードルの表面は、以前からあるペルラージュ模様のものではなく、近年多くなったサンレイ模様の筋が彫られているタイプだ。


ムーブメントは名機Cal.822/2

 ムーブメントは名機の誉れ高い手巻きのCal.822/2である。Cal.822からの変更点としては、チラネジからスムーステンプに変わり、フリースプラング化したこと、石数が2石減って19石となったことなどが挙げられる。長年生産されてきたCal.818にルーツを持つ息の長いムーブメントであり、ジャガー・ルクルトの時計師からも「油が切れていても動き続ける強靭なムーブメントで、精度も出しやすい」との声を聞いた。筆者が実際に使用している中で、高い精度もさることながら姿勢や温度差にも強く、日常使用していても遅れ・進みの差が少なく安定したムーブメントだと感じている。

 主ゼンマイの巻き心地も定評がある。このムーブメントの祖となるCal.824がデビューした1990年以降、レベルソは紆余曲折ありつつも、ほぼ常にCal.822とともにあった。2016年頃、レベルソの自動巻き化などという愚策(とあえて言いたい)もあったものの、やはりレベルソは手巻きが基本であり、今のジャガー・ルクルトにとってCal.822は屋台骨と言っても過言ではない。

レベルソ トリビュート スモールセコンド

名機Cal.822/2。いにしえの丸型ムーブメントCal.818の系譜で、Cal.822はすでに登場から30年以上が経過した。フリースプラング化され、かつ精度は期待できる。Cal.822から2石減っており、これはガンギ車の真のキャップドジュエルが相当するが、手巻き・スモールセコンド機の19石は十分高級機である。


まとめ

 本記事で深掘りした「レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド」は、ほとんど全てがピンクゴールドの、これまでありそうでなかったレベルソである。金無垢時計そのもので重量感も大したものだが、嫌味ないその色合いはいわゆる“金ぴか”時計とは一線を画するものであり、非常に上品である。絶対的には660万円(税込み)という価格はハイプライスだが、ジャガー・ルクルトのような名門の、ブレスの金無垢時計としては、その品質に鑑みても決して高すぎとは感じない。魔法のようなブレスレットがつくCal.822入りのレベルソは疑いなく至高の時計のひとつであり、興味のある人はぜひ一度手に取ってほしい。



Contact info:ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833


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