2025年に発表された新作時計の中から、時計のプロがベスト5を選ぶ年末恒例企画。今回は時計ジャーナリストの篠田哲生が選りすぐりの5本を詳細する。今年はアニバーサリーイヤーを迎えたブランドが多かっただけあり、該当ブランド/コレクションから気合いの入ったモデルが登場。その中でも特に象徴的だったブレゲ「クラシック スースクリプション 2025」やウブロ「ビッグ・バン 20th アニバーサリー」などのモデルが選出された。

ブレゲ「クラシック スースクリプション 2025」
端正で美しいワンハンドモデル。ムーブメントを含めた完成度の高さは驚異的だが、さらにかつてのスースクリプションと同じく“受注生産”にしたことも面白い。ただし全額前払いになったというのは、現代的変更だ。

手巻き(Cal.VS00)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約96時間。18Kブレゲゴールドケース(直径40mm、厚さ10.8mm)。3気圧防水。735万9000円(税込み)。(問)ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211
オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ(RD#5)“150周年アニバーサリー”」
クロノグラフ×トゥールビヨンという組み合わせは珍しくないが、それを直径39mm、厚さ8.1mmという初代モデルと同じサイズに収めるという考え方が面白い。それでいてプッシュボタンのタッチはスマホ的で驚いた。

自動巻き(Cal.8100)。44石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。チタン×BMGケース(直径39mm)。2気圧防水。世界限定150本。要価格問い合わせ。(問)オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000
ウブロ「ビッグ・バン 20th アニバーサリー」
“融合“をコンセプトにしてきただけに、20年目は初代と現代を融合させるという戦略は見事。さらに現在のビッグ・バンを象徴するスタイルをまとう5モデルを発表したのも素晴らしい。個人的な好みはキングゴールドモデル。

自動巻き(Cal.HUB1280)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18Kキングゴールド+ブラックセラミックケース(直径43mm)。100m防水。世界限定250本。(問)LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055
ヴァシュロン・コンスタンタン「レ・キャビノティエ・ソラリア・ウルトラ・グランドコンプリケーション ‒ ラ・プルミエール ‒」
8年の歳月をかけて開発された超絶時計は、41もの複雑機構と13件の特許技術を採用しつつ、ケースの直径45mmで厚さが14.99mmという腕時計サイズ。実用性をしっかり意識しているところに、本気が詰まっている。

自動巻き(Cal.3655)。204石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18Kホワイトゴールドケース(直径45mm、厚さ14.99mm)。ユニークピース。(問)ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755
ゼニス「G.F.J.」
天文台クロノメーターコンクールにて好成績を収めてきた名機「キャリバー135」を現代的にアップデートしつつ、ロービートなのに超高精度。今後はドレスウォッチの軸としていくというから楽しみしかない。

手巻き(Cal.135)。1万8000振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ptケース(直径39.15mm、厚さ10.5mm)。5気圧防水。695万2000円(税込み)。(問)ゼニス ブティック銀座 Tel.03-3575-5861
総評
2025年はアニバーサリーを迎える実力派ブランドが多かった。こういった節目には特別なモデルが発表されるが、これらの中からも秀作が目立っていた印象だ。アニバーサリーモデルは、ブランドの過去と今を結び付ける重要なモデルだけに、力が入ったのだろう。
今年の中心にあったのはブレゲだろう。250周年と歴史も長く、数字の見映えも良いだけに、アニバーサリーは大いに盛り上がり、時計はもちろんのこと独自素材の18Kブレゲゴールドも話題となった。
数字の見映えが良いという点では、150周年のオーデマ ピゲだって黙っちゃいない。今年は時計の未来像を目指す「RDシリーズ」が最終章を迎え、創業150周年を祝う特別展「ハウス オブ ワンダーズ展」を、銀座にて2026年4月30日まで開催するなど、ブランド全体が盛り上がった印象だ。
しかし個人的には、20周年を迎えたウブロの「ビッグ・バン」を推したい。ひとつの時計が誕生し、大きな熱狂を生み、その足跡を追いかけながらCEOや開発者にインタビューを重ねることができたのはいい経験であり、ずっと成長を見守ってきた時計がハタチを迎えたのは親戚のような気分でもある。
もちろん270年間も一度も途切れることなく時計技術を探求してきたヴァシュロン・コンスタンタンの超絶ハイコンプリケーションモデルも、創業160周年を節目に再びドレスウォッチにも力を入れるというゼニスもの戦略も、アニバーサリーだからこその物語があって、どれもが甲乙つけがたい。
選者のプロフィール

篠田哲生
1975年生まれ。講談社『ホットドッグプレス』編集部を経て独立。時計専門誌、ファッション誌、ビジネス誌、新聞、ウェブなど、幅広い媒体で硬軟織り交ぜた時計記事を執筆している。また仕事の傍ら、時計学校「専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジ」のウォッチコース(キャリアスクールウォッチメーカーコース)に通い、時計の理論や構造、分解組み立ての技術なども学んでいる。クロノス日本版のTop 10 Rankingのレギュラー選考委員。2020年には『教養としての腕時計選び』(光文社新書)を上梓。



