グランドセイコーが2025年に発表した限定モデル9本をまとめて紹介

例年、多くの限定モデルを発表することで有名なグランドセイコー。本記事では2025年に発表された限定モデルをまとめて紹介する。25年のトピックスは、年差±20秒という超高精度スプリングドライブムーブメントCal.9RB2の発表と、その搭載モデルのリリースであろう。限定の各モデルには、評価の高い型押し技術によって日本の自然を表現した文字盤が採用されており、それが独自の魅力を生み出している。なお、ここで紹介するモデルはいずれも数量限定のため、基本的には市場在庫のみとなる。

「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」Ref.SLGB001

　2025年のグランドセイコー最大のトピックスは、年差±20秒という超高精度スプリングドライブムーブメントCal.9RB2の搭載モデル「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」が発表されたことだ。“U.F.A.”とは超高精度（Ultra Fine Accuracy）を意味し、1969年に発売された高精度モデルに付けられた“V.F.A.（Very Fine Adjusted）”にちなんだものだ。

　Cal.9RB2は、温度補正機能を追加したスプリングドライブの制御ICとエージング済みかつ選定品のクォーツを搭載し、そこに緩急スイッチを加えたことで、システム全体の精度を底上げしつつ、それを維持しやすい、極めて高い完成度を実現している。さらに、ムーブメントには、北アルプスの山々から着想を得た「霧氷仕上げ」を施し、各所に椀状の面取りと鏡面仕上げが与えられ、審美性も高い。

　Ref.SLGB001は、スプリングドライブの製造地である長野県霧ヶ峰高原の情景を取り入れ、プラチナ製ケースを組み合わせた限定モデルだ。霧ヶ峰高原では針葉樹が薄氷に覆われ、樹氷林が広がることが知られている。本作の文字盤は、この樹氷林を型押しとライトブルーのカラーリングによって表現している。プラチナの素材由来の輝きと、樹氷林のモチーフが呼応し、冬の透明感や厳しい寒さを想起させる仕上がりだ。

「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」Ref.SLGB005

　Ref.SLGB005も、霧ケ峰高原に広がる樹氷林をテーマとしたCal.9RB2搭載モデルである。本作は、レギュラーモデルのRef.SLGB003同様に、ブライトチタン製ケースとブレスレットの仕様となる。そして本作の特別なデザインは、ヴァイオレットの繊細なグラデーションで霧ケ峰高原の夜明けの移ろいを描き出している点が特徴だ。型押しされた文字盤の上にグラデーションカラーが載せられており、深みや奥行き感のある仕上がりである。

「エボリューション9 コレクション」Ref.SLGH027

　Ref.SLGH027は、グランドセイコーのメカニカルモデルの製造を担う、グランドセイコースタジオ 雫石から望む岩手山を文字盤デザインに取り入れた限定モデルだ。岩手山は、数多くの活火山を擁する日本においても非常にアグレッシブな活動を経てきた山として知られ、荒々しい山容や北麓に広がる溶岩流の跡を見ることができる。

　本作は、悠久の時の中を感じさせる山肌の表情や、自然のエネルギーへの敬意をデザインに取り入れた限定モデルだ。文字盤には、鳥瞰で臨む岩手山の尾根筋から着想を得た新開発の放射状パターンが施される。また、岩手山を包み込む静澄な空気や水のようなクリアブルーのカラーリングによって、ダイナミックな稜線が、冴え冴えと浮かび上がる仕上がりである。

　ケースとブレスレットには、ステンレススティールとして世界最高レベルの耐食性を備えた「エバーブリリアントスチール」を採用し、ムーブメントには毎時3万6000振動のハイビートでありながらパワーリザーブ約80時間駆動を実現したCal.9SA5を搭載する。

「エボリューション9 コレクション テンタグラフ」Ref.SLGC006

　Ref.SLGC006も岩手山をモチーフとした限定モデルである。ベースはメカニカルクロノグラフモデルの「テンタグラフ」である。文字盤には、岩手山の特徴的な稜線と険しい地表から着想を得たパターンが施されている。

　そして本作は、カッパーピンク文字盤と、インデックスやベゼル、プッシャーとリュウズに用いたローズゴールドにより、朝の陽光を浴びて輝く岩手山が表現されているのが特徴だ。3時位置のスモールセコンドをオレンジ、6時位置の12時間積算計と9時位置の30分積算計をバーガンディーと、機能によって色分けしている。

　全体のデザインは、エボリューション9のデザインコードをクロノグラフのデザインに落とし込んでおり、メリハリの効いたインデックスによる視認性の高い文字盤デザインや、エッジの効いたケースシェイプを楽しむことができる。このケースはブライトチタン製であり、大型モデルのため軽量とは言えないが、着用時のバランスが良く、存在感がありながら実用的な仕上がりとなっている。

「スプリングドライブGMT 銀座限定モデル」Ref.SBGE313

　セイコーの創業の地であり、現在も本社やフラッグシップショップを構える銀座の風景を取り込んだ限定モデルが本年も発売された。2025年の限定モデルは、GMT表示機能を備えたスプリングドライブムーブメント搭載モデルをベースとしたRef.SBGE313である。

　特徴は、文字盤に施された「銀座グリッドパターン」だ。銀座の路地をパターンに取り入れ、銀座限定モデルでは定番となったデザインであるが、本作では従来モデルのデザインを抽象的にリニューアルしたものが採用されている。

　そして、本作のイメージカラーは紫だ。銀座は伝統ある店舗や技術が大切にされてきた一方で、世界から新しい文化を取り入れ、文化と情報を発信する最先端の街として発展してきた。このような、世界へと独創性を発信しつづける街の姿をデザインすべく、伝統と品格を備え、新しいことに挑戦する意欲をかきたてるカラーとして紫を選定。銀座の象徴としてダイアルや回転ベゼルに採用している。

「エレガンスコレクション 和光限定モデル」Ref.SBGJ291

　銀座に居を構える和光の限定モデルも毎年リリースされる、“定番の限定”モデルだ。2025年も例に漏れず魅力的な新作が発表された。1本目は「グランドセイコー エレガンスコレクション 和光限定モデル」Ref.SBGJ291である。

　クラシカルテイストが人気のモデルをベースとしつつ、ダイヤモンドの輝きをモチーフとしたデザインを随所に取り入れている点が本作の特徴だ。文字盤には繊細な放射線状の型打ちが施されるとともに、ペールグレーの色調があしらわれることによって、多層的な陰影が生み出されており、見る角度で表情が変化する仕上がりとなっている。これは、モチーフとするダイヤモンドが、見る角度によってさまざまな輝きを見せることから着想を得たものである。“GS”ロゴとGMT針にはゴールドカラーのアクセントが配され、こちらもダイヤモンドの輝きを想起させる。

　本作が、従来モデルと趣きが異なる点は、メンズモデルをベースとしながら、女性も愛用できるようなデザインとなっていることだ。手元に華やかな彩りを添えるジュエリーのように、コーディネートに取り入れられることがテーマなのだ。このテーマを反映するように、付属するクロコダイルストラップは、キラキラときらめくパールホワイトを採用しており、ダイヤモンド、ゴールド、パールというジュエリーのエッセンスがふんだんに取り入れられている。

「ヘリテージコレクション 和光限定モデル」Ref.SBGJ289

　もう1本の和光限定モデルは、基本デザインをRef.SBGJ291と共有しつつ、梅雨時期の銀座の風景を文字盤に取り込んだ「ヘリテージコレクション 和光限定モデル」Ref.SBGJ289である。

　雨の日に和光の店内からウインドウ越しに外を眺めた際に、銀座の街が独特なブルーグリーンに染まって見えることが本作の着想につながっている。日本らしい透明感のある色彩を文字盤色に取り入れ、ウインドウを流れる雨粒をイメージした繊細な型打ち模様を施している。白色のGMT針を採用することで、さわやかなデザインに仕上げつつ、高い視認性を確保している点も注目だ。

　搭載されるハイビートムーブメントのCal.9S86の高精度さを象徴するように、文字盤外周には5分の1秒までの緻密なスケールが刻まれており、これが本作にツールウォッチのテイストを加えている。

「マスターピースコレクション スプリングドライブ8days ジュエリーウォッチ限定モデル」Ref.SBGD223

　グランドセイコーは、毎年、少数であるがメンズ向けジュエリーウォッチもリリースしている。本年の新作は、漆黒の闇より出でる孤高の獅子を表現した「マスターピースコレクション スプリングドライブ8days ジュエリーウォッチ限定モデル」Ref.SBGD223である。

　グランドセイコーは、1960年の誕生以来、力や威厳、王の象徴とされてきた“獅子”をブランドのシンボルとして掲げている。最高峰の腕時計を追求し続けてきた揺るぎない精神を、ブランドの象徴である獅子をテーマとしてデザインに昇華させたのが、本作である。テーマとする漆黒の闇より出でる孤高の獅子を表現すべく、ケース、ダイアル、ベゼル、リュウズには合計600個を超えるダイヤモンドを配し、モノトーンの世界観の中に、きらめきと圧倒的な存在感を放つデザインとしている。さらに、ダイアルには、ダイヤモンドをブラックスピネルと隣り合わせることで輝きを一層引き立たせ、「光と影」のコンセプトを大胆に表現している。

　ムーブメントは、「マイクロアーティスト工房」製のスプリングドライブ8Days「Cal.9R01」を搭載。3つの香箱を直列に配置することにより、最大約192時間のロングパワーリザーブを実現している。

「スポーツコレクション AJHH創立20周年記念限定モデル」Ref.SBGE311

　最後に紹介するのは、AJHH（Association Japon de la Haute Horlogerie／日本正規高級時計協会）の創立20周年を記念する限定モデルである。2005年設立のAJHHとは、日本全国の正規時計販売店のうち、2025年時点で19社が加盟している組織であり、その目的とは、健全な市場の育成と時計文化の継承、高級時計の魅力を広めること、業界内での情報共有による時計業界の更なる発展である。

　時計販売のプロが集まる組織であるAJHHが、本作を企画する際に軸としたコンセプトは4つある。ひとつ目は、他社にはない技術であるスプリングドライブを採用すること。ふたつ目は、高い技術力による型押しで日本の情緒を文字盤に描くこと。3つ目は世界的に認められたステータス性があること。そして最後に、優れたアフターサービスが提供されることである。

　自動巻きスプリングドライブムーブメントのCal.9R66を搭載する「スポーツコレクション AJHH創立20周年記念限定モデル」Ref.SBGE311の文字盤には、この時計が製造される長野県塩尻から見える穂高連峰に降り積もった雪が、風に吹かれたことで生まれる繊細な風紋をイメージした「雪白パターン」が採用されている。また、ホワイトの文字盤をベースとして、ブラックのセラミックス製ベゼル、ブラックとレッドで昼夜を示した見返し部によって、精悍でスポーティーな仕立てとなっている。

2026年もグランドセイコーの新作に期待

　AJHHがコンセプトとして挙げたように、グランドセイコーの各モデルは世界から高い評価を受けている。ここで重要な事は、技術力が高く、品質が高いことだけが注目されているのではなく、日本の精神性や美的感覚をデザインに取り入れ、それらが受け入れられているということだ。この方向性は来年度以降も継続され、魅力的なモデルが提案されることだろう。

　また、グランドセイコーはアフターサービスも充実しており、単純な清掃だけでなく精度基準を満たすように再調整が行われるオーバーホールや、大きな傷を埋め戻して再研磨されるリペアポリッシュが提供されており、日本でグランドセイコーを購入し、愛用することは地理的な優位性もある。

　今回紹介した各モデルは限定モデルであるため、すべて完売の可能性がある。お気に入りのデザインを見逃してしまわないように、2026年もチェックを続けよう。