2025年のオーデマ ピゲは、創業150周年という節目にあたり、自らが培ってきた複雑機構、素材表現、そしてデザインコードをあらためて問い直す限定モデルを提示した。「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」では、天然石ダイアルやチャイミング機構を通じて「音」と「素材」の伝統を現代へと更新。一方「ロイヤル オーク」では、超薄型の理想を極限まで押し広げるRD#5や、長年ブランドを支えてきたムーブメントの到達点となるパーペチュアルカレンダーが、その歩みを静かに刻む。本特集では150年の歴史が結実したこれら限定モデルを通じて、オーデマ ピゲの現在地を見つめる。

150年の蓄積が結実する、技術と素材の現在地
2025年にブランドの創業150周年を迎えたオーデマ ピゲ。150周年モデル群に共通するのは、単なる記念性ではなく、過去の技術や意匠をいかに「次の時代へ受け渡すか」という明確な意思である。超薄型、複雑機構、天然素材、音響といった要素は独立して語られるものではなく、ブランドの思想の中で有機的に結びついている。オーデマ ピゲはこの節目において、自らの歴史を振り返るだけでなく、その先に続く未来への方向性を、確かな造形と機構によって示したと言えるだろう。
CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ フライング トゥールビヨン 38mm

自動巻き(Cal.2968)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRGケース(直径38.00mm、厚さ9.60mm)。3気圧防水。
オーデマ ピゲ創業150周年を記念して発表された「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ フライング トゥールビヨン 38mm」のうち、本作はブルーソーダライトの天然石文字盤を採用するモデルである。深みのあるブルーの石肌は、理知的で落ち着いた印象をもたらし、18KRGケースの温かみのある輝きと対照的なコントラストを描き出す。
6時位置に配されたフライング トゥールビヨンは、下側のみで支持される構造によって、ダイアル上に浮遊するかのような視覚効果を生む。天然石を薄くスライスして仕上げたダイアルは、模様や濃淡に個体差を持ち、同じ表情を持つものは存在しない。
搭載されるCal.2968は、厚さ3.4mmの超薄型自動巻きフライング トゥールビヨンムーブメント。チタン製ケージとペリフェラル駆動によって軽量化と安定性を両立し、小径ケースにおける複雑機構の完成度を高い次元で実現している。

自動巻き(Cal.2968)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KWGケース(直径38.00mm、厚さ9.60mm)。3気圧防水。
ルビールートを文字盤に用いた本作は、天然石ならではの力強さと情熱的な色調を前面に押し出したモデルである。赤褐色の中に走る自然な模様は素材の生命感を強く主張し、18KWGケースのクールな輝きと結びつくことで、緊張感のある佇まいを形成する。
6時位置のフライング トゥールビヨンは、ケージを下側のみで支える構造により、文字盤の上に解き放たれたかのような印象を与える。天然石ダイアルは極めて繊細な加工を要し、その個体差こそが1本ごとの表情を決定付ける。
Cal.2968は、従来のトゥールビヨンの比率を保ちながら薄型化を追求したムーブメントであり、小径ケースであっても複雑機構を妥協なく成立させる、オーデマ ピゲの技術的成熟を象徴する存在だ。

自動巻き(Cal.2968)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KYGケース(直径38.00mm、厚さ9.60mm)。3気圧防水。
グリーンマラカイトを採用する本作は、天然石が持つ力強い縞模様を主役に据えたモデルである。濃淡のあるグリーンは視覚的な奥行きを生み、18KYGケースのクラシカルな輝きと組み合わされることで、華やかさと落ち着きを併せ持つ表情を獲得している。
6時位置に配されたフライング トゥールビヨンは、ダイアル上に浮かぶような構造によって、マラカイトの有機的な模様と機械的な運動をひとつの画面にまとめ上げる。天然石はすべてが一点物であり、同一モデルであっても個体ごとに異なる印象を楽しめる。
超薄型のCal.2968は、安定性とエネルギー効率を高めた設計により、実用性と視覚的な軽やかさを両立。素材の象徴性と高度な複雑機構を正面から融合させた本作は、CODE 11.59コレクションの中でも際立った物語性を備えている。
ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ(RD#5)

自動巻き(Cal.8100)。44石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。チタンケース(直径39mm、厚さ8.1mm)。2気圧防水。世界限定150本。
RD#5は、“ジャンボ”の薄さと装着感を維持したまま、フライバック クロノグラフとフライング トゥールビヨンを同時搭載した腕時計だ。そのために開発された新ムーブメントCal.8100は、従来の常識だったハンマーとハートカムによるリセット機構を捨て、ラック&ピニオン機構を採用。作動時にエネルギーを蓄え、リセット時に一気に放出する構造によって、インスタントジャンプミニッツと極めて軽い操作感を両立させている。
クロノグラフのプッシュボタンは短いストロークと小さな力で作動し、その触感は従来の機械式クロノグラフとは明確に異なる。加えて、チタンとBMG(バルクメタリックガラス)を組み合わせたケースとブレスレットは、軽量性と輝きを両立。“ジャンボ”の繊細なプロポーションを損なうことなく、操作性そのものを再定義したクロノグラフである。
ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー オープンワーク “150周年アニバーサリー”

自動巻き(Cal.5135)。38石。1万9800振動/時。パワーリザーブ約40時間。チタン×BMGケース(直径41mm、厚さ9.9mm)。2気圧防水。世界限定150本。
このモデルの本質は、約10年にわたりオーデマ ピゲのオープンワーク自動巻きパーペチュアルカレンダーを支えてきたキャリバー5135に別れを告げる、最後のリファレンスである点にある。1978年に始まる超薄型自動巻きパーペチュアルカレンダーの系譜を継ぎ、2019年以降はロイヤル オークのオープンワークモデルで成熟を遂げたこのムーブメントは、本作をもってその役割を終える。
デザイン面では、ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲに所蔵される懐中時計(Ref.25729)から着想したヴィンテージ調のダイアルコードが特徴だ。サファイアクリスタル越しにムーブメントを露わにしつつ、インナーベゼルやサブダイアルの縁取り、フォントの造形に往年の意匠を反映。蓄光処理を施した18KWG製バスタブ型針や、丸みを帯びたアワーマーカーが、視認性と懐古的な趣を両立させている。
ケースとブレスレットにはチタンとBMG(バルクメタリックガラス)を組み合わせ、軽量性と耐久性、そして独特の光沢を確保。BMGはベゼルやケースバックフレーム、ブレスレットスタッドに用いられ、サテン仕上げのチタンとミラーポリッシュの対比が際立つ。さらに6時位置には、北半球と南半球それぞれの月相を示すデュアルムーンフェイズを配置し、天文的な正確さと詩的な表現を融合させた。
150周年を記念する特別なシグネチャーと、「150」ロゴ、「1 of 150 pieces」の刻印を備える本作は、素材実験や造形美を通じて進化してきたロイヤル オーク パーペチュアルカレンダーの一区切りを象徴する存在である。同時に、次世代ムーブメントへと移行する節目を明確に示す、静かなフィナーレと言える。
CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリ “150周年アニバーサリー”

手巻き(Cal.2956)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18Kピンクゴールドケース(直径41.00mm、厚さ13.60mm)。2気圧防水。創業150周年記念モデル。
創業150周年を記念する本作は、オーデマ ピゲが培ってきた天然石ダイアルの伝統を現代へとつなぐ意欲作だ。1960年代から90年代にかけて同社が確立した「ジェムダイアル」の美学を、CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲのモダンな造形の中に再定義。伝統への敬意と唯一無二の個性を両立させている。
最大の見どころは、0.45mmという極薄にカットされた「ハーレクインオパール」の文字盤にある。緑や赤、黄色の色彩が角張った模様のように浮かび、光の角度で万華鏡のように変化する。あえてインデックスを排したミニマルな構成が、石本来の神秘的な遊色効果を主役に据えた。
ケースは18Kピンクゴールドを採用し、熟練の職人による磨き分けが立体美を強調。内部には3つのゴングによる「カリヨン」と、驚異的な音響を実現する「スーパーソヌリ」を搭載する。最高峰の音響技術を、虹色の宝石が彩る静謐なキャンバスに閉じ込めた芸術的な1本である。

手巻き(Cal.2956)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18Kホワイトゴールドケース(直径41.00mm、厚さ13.60mm)。2気圧防水。創業150周年記念モデル。
そしてオーデマ ピゲが長年追求してきた「音」と「素材」の調和を、最も清謐な形で表現したのがホワイトゴールドモデルだ。かつての懐中時計に見られた貴石装飾の伝統を、現代的な18KWGケースに凝縮。石の美しさを愛でる文化を、150周年という節目に再び提示している。
文字盤には透明感のある「クリスタルオパール」を採用。ブルーのインナーベゼルがオパール内部の虹色の輝きと共鳴し、幻想的な奥行きを生んでいる。ふたつとして同じ表情が存在しない天然素材ならではの贅沢な視覚体験は、工芸品としての価値を揺るぎないものにする。
重厚なケースには、スイス連邦工科大学との共同研究で生まれたスーパーソヌリ技術を搭載。目に見える静かな輝きと、耳に届く豊かなチャイム。視覚と聴覚の双方向からマニュファクチュールの歴史を物語る、コンプリケーションの極致だ。



