高級腕時計に衝撃を与えることは厳禁とよく言われているが、それはなぜだろうか? 衝撃が加わることで腕時計に生じる影響を説明する。さらに、この弱点を克服すべく各社が開発した耐衝撃ウォッチ3本を紹介。

Text by Tsubasa Nojima
[2025年12月27日公開記事]
高級腕時計が衝撃に弱いのはなぜ?
時に数百を超える部品によって構成される高級腕時計には、取り扱い上避けるべきものがいくつかある。そのうちのひとつが、衝撃だ。腕は歩くたびに前後に振ったり、物を取ったりと、人体の中でも頻繁に大きく動かす部位である。そのため、不意に家具や壁、扉などにぶつけてしまうことも珍しくはない。手首に装着しようとして、取り落としてしまうことも考えられる。
高級腕時計に多い機械式という駆動方式は、主ゼンマイの動力を複数の歯車を経由して調速機構につなげ、一定のリズムで駆動する仕組みを持つ。ここで要となるのが、調速機構を構成するヒゲゼンマイと天真だ。ヒゲゼンマイは、調速機構の生み出すリズムを決定付け、天真はその回転軸となる部品である。機械式腕時計に大きな衝撃が加わると、ヒゲゼンマイが変形し絡みあってしまうことや、天真が折れてしまうことにつながる。すると、調速機構のリズムが乱れたり、最悪運針が止まってしまったりするのだ。
とはいえ、現代の機械式腕時計のほぼすべてには、衝撃を緩和させるための耐震装置が備わっており、軽微な衝撃であれば気にすることはない。耐震装置の原点はブレゲが1806年に披露した「パラシュート」であり、その後も「インカブロック」や「キフショック」「パラショック」など、さまざまな耐震装置が開発された。基本的な構造は、天真のホゾを支える受石にバネを取り付けるというものであり、衝撃が加わった際にバネがたわむことで天真への影響を軽減させている。
しかし、強い衝撃ともなれば一般の耐震装置では防ぎきれないこともある。そこでタフな時計作りを目指す一部のメーカーでは、さらに独自の衝撃吸収機構を開発し、その耐衝撃性能を飛躍的に向上させている。ここからは、そんな独自技術を注ぎ込み開発された腕時計3本を紹介しよう。
なお、機械式のみならずクォーツ式でも衝撃には注意すべきだ。内部に収められた歯車などの部品にダメージを与えてしまうことや、圧入された針が衝撃によって外れてしまうこともある。腕時計は精密機械であるということを忘れず、大切に扱うよう心掛けたい。
安心の耐衝撃モデル3選
各社の工夫やテクノロジーによって、衝撃や振動を気にせず、アクティブに使える高級腕時計を3本紹介する。
ボール ウォッチ「エンジニアハイドロカーボン ネドゥ G5」Ref.DC3226A-S4CJ-BK

600mもの防水性に独自の耐衝撃機構を搭載した、ハイスペックなダイバーズウォッチ。大型のケースながら、チタン製のため軽量に仕上げられている。自動巻き(Cal.RR1402-C)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。Tiケース(直径44mm、厚さ17.3mm)。600m防水。69万3000円(税込み)。(問)ボール ウォッチ・ジャパン Tel.03-3221-7807
鉄道時計による厳格な運行管理によって、アメリカの鉄道網の発展に貢献したボール ウォッチ。そのタフな精神は、現行モデルにも受け継がれている。「エンジニアハイドロカーボン ネドゥ G5」は、600mもの防水性と堅牢性を兼ね備えた屈強なダイバーズウォッチだ。
本作の耐衝撃性を向上させている機構が、「セーフティロック・クラウンシステム」である。外部とムーブメントの接点となるリュウズは、衝撃が加わることでムーブメントの破損につながりかねない。多くのスポーツウォッチではリュウズガードを備えることでリュウズに対する横方向の衝撃から保護する仕組みを備えているが、セーフティロック・クラウンシステムでは縦方向の衝撃を防ぐプロテクション・プレートを設けることによって、さらに保護性能を向上させている。このプレートはリュウズを完全にねじ込まなければ閉じることができず、ねじ込み忘れの防止としても機能する。

その他、ボール ウォッチでは緩急針が衝撃によって動くことを防ぐ「スプリングシール」や、ムーブメントを保護する「アモータイザー衝撃吸収リング」や、「エラストマー耐衝撃リング」など、多くの耐衝撃機構を開発している。
本作の特徴は優れた耐衝撃性だけではない。軽量かつ高い耐食性を備えるチタン製の外装、昼夜を問わず高い視認性を発揮する「自発光マイクロ・ガスライト」、飽和潜水に対応する「リューズビルトイン型自動減圧用ヘリウム排出バルブ」、2点でケースに固定されたブレスレット、COSC公認クロノメーターを取得した高い精度など、プロフェッショナル用のダイバーズウォッチとしてふさわしいスペックが与えられている。
ノルケイン「ワイルド ワン スケルトン 39mm」Ref.N3001.07Q02.B02

独自のカーボン複合材であるノルテックやラバー製ミドルケースなどの多層構造によって、優れた耐衝撃性を獲得した「ワイルド ワン」。スケルトンウォッチでもその耐衝撃性は健在だ。自動巻き(Cal.N08S)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約41時間。ノルテックケース(直径39mm、厚さ11.75mm)。200m防水。92万4000円(税込み)。(問)ノルケインジャパン Tel.03-6864-3876
2018年に創業した新進気鋭のスイス製腕時計ブランド、ノルケイン。同社の誇る耐衝撃ウォッチが、「ワイルド ワン」である。その特徴は、ムーブメントをチタン製のコンテナで包み、その上にラバー製のミドルケースを重ね、さらに独自のカーボン複合材であるNORTEQ(ノルテック)で保護するという多層構造だ。この構造によって、5000Gもの耐衝撃性を達成している。

ノルテックはカーボンファイバーとポリマーマトリックスを配合した素材であり、軽量かつ高い堅牢性を誇る。衝撃や経年によってカーボンファイバーが剥離してしまうことがないのも魅力だ。ノルテックとラバー製ミドルケースは、個別に色を与えることが可能であり、豊富なカラーリングを実現できるという特徴もある。この特徴を生かし、ノルケインでは顧客が自由にパーツをカスタマイズしてオーダーする「ワイルド ワン オブ ワン」というサービスも展開している。
ここで紹介する「ワイルド ワン スケルトン 39mm」は、その名の通り大胆なオープンワークを施したダイアルが特徴のスケルトンウォッチだ。ムーブメントの地板やブリッジを削ぎ落したスケルトンウォッチは、一般的に衝撃に弱い。しかしノルケインでは建築的構造理論に基づいた設計を採用し、各支持点を複数のアームで支えるという構造を開発。スケルトンウォッチでありながらも高い耐衝撃性を確保することに成功したのだ。
200mの防水性を備えたコンパクトな39mmケース、ミラネーゼパターンが施されたしなやかなスカイブルーのラバーストラップなど、日常からレジャーシーンまでを楽しく彩ってくれるスポーツウォッチだ。
G-SHOCK「MR-G」Ref.MRG-B5000B-1JR

チタン製の外装を纏ったフルメタルモデル。初代「DW-5000C」のデザインに最新技術を盛り込んでいる。タフソーラー。フル充電時約22カ月(パワーセーブ時)。Tiケース(縦49.4×横43.2mm、厚さ12.9mm)。20気圧防水。49万5000円(税込み)。(問)カシオ計算機お客様相談室 Tel.0120-088925
耐衝撃ウォッチの金字塔であるカシオ G-SHOCK。その最高峰に位置するのが、「MR-G」だ。本作では、初代モデル「DW-5000C」のデザインを継承したスクエア型のケースを採用している。初代モデルとの外観上の大きな違いは、外装がフルメタルとなったことだろう。ケース、ケースバック、プッシュボタンには64チタン、トップベゼルにはプラチナと同等の輝きを持つとされるコバルトクロム合金であるコバリオン、ブレスレットのコマには優れた硬度を誇るチタン合金のDAT55G、バックルには純チタンを採用している。
初代モデルでは、柔軟性のある樹脂製の外装と、モジュールを内部で浮かせた中空構造によって耐衝撃性を高めていたが、本作では新開発のマルチガードストラクチャーによって外部から加わる衝撃を吸収する。マルチガードストラクチャーは、複数の部品に分割されたベゼルの間にシリコン緩衝体を、四隅にT字バーと板バネによるサスペンションパーツを組み込むことで、フルメタルでありながらもG-SHOCKらしい堅牢性を与える画期的な構造だ。

アイコニックなデザインも本作の魅力だ。液晶に表示される7セグメントの時刻や、その周囲に配されたレンガパターンとレッドのライン、ベゼルやブレスレットに設けられたディンプルなど、初代モデルのデザインが随所に反映されている。
機能面も充実しており、電波受信による自動時刻補正や光発電機能であるタフソーラー、Bluetoothを介してスマートフォンに接続し、アプリ上で各種設定や時刻補正が可能なモバイルリンク機能、ワールドタイム、ストップウォッチ、タイマー、アラーム、フルオートカレンダーなどを備える。



