輪列が浮かんで見えるミステリアスな複雑時計。ユリス・ナルダン「ブラスト フリーホイール マイユショール」

2025.12.27

香箱や輪列、フライングトゥールビヨンのキャリッジが文字盤上に浮かぶかのような「ブラストフリーホイール」に、温かみのある表情を持つ合金、マイユショールを文字盤に用いた新作が登場した。

ユリス・ナルダン ブラスト フリーホイール

ユリス・ナルダン「ブラストフリーホイール マイユショール」Ref.1760-401LE-4A-MAIL/3A
マイユショールと呼ばれる銅、亜鉛、ニッケルの合金を文字盤に用いたブラストフリーホイールの最新作。マイユショールは温かみのある色調で独特の質感を持ち、時の経過とともに風合いを増す。自動巻き(Cal.UN-176)。23石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約168時間。18KWGケース(直径45mm、厚さ12.4mm)。30m防水。世界限定50本。2338万6000円(税込み)。
Text by Shin-ichi Sato
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年9月号掲載記事]


思わず目を引く「ブラストフリーホイール マイユショール」

 ユリス・ナルダンの「ブラストフリーホイール マイユショール」 は、手にした際に思わず目を引かれる新作である。。9時位置の輪列をはじめとする文字盤上に配された各部品が、ボックス型風防によって設けられた空間を活用して、立体的に配置されているからだ。また、6時位置のフライングトゥールビヨンへつながる輪列が見えないことで、動力の伝達がなくても宙に浮いて回転を続けているかのような錯覚に陥る。

 同作がユニークなのはデザインだけではない。フライングトゥールビヨンは、ユリス・ナルダン独自の 「ユリス ・ アンカー・コンスタント ・ エスケープメント」を採用する。これは主ゼンマイの巻き上げ残量変化による出力エネルギーの変動が生じても、 テンプにかかる力を均一にし、作動の安定性を高めて等時性を高めるというものだ。アンクルを固定した円形フレームがふたつの板バネによって宙に浮くように支えられる構造を備え、板バネが力を受けることで曲がりつつ、安定した状態を維持する。同機構の革新性は高く評価されており、2015年のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリでトゥールビヨン部門賞を受賞している。

 文字盤素材はモデル名の由来となっているマイユショールである。マイユショールは、19世紀初頭にフランスで発明された銅、亜鉛、ニッケルの合金で、温かみのあるシルバーがかった色合いと、独特のきめのある質感を備える。耐久性が高いだけでなく時とともに風合いが増してゆくことも魅力である。

 これらの各要素は、サファイアクリスタル製ボックス型風防に収められ、正面からだけでなく、ケース側面からも鑑賞可能だ。独自性のある本作を隅々まで堪能するのに好適な構造と言えよう。

ブラスト フリーホイールは、ムーブメントの各要素の配置だけでなくケース構造にも特徴がある。受け皿状のケースに組み合わせられるボックス状の風防を備え、極めて立体的な機構の配置を側面から鑑賞可能だ。その光景は腕時計というよりもむしろクロックに近い。



Contact info: ユリス・ナルダン/ソーウインド ジャパン Tel.03-5211-1791


伝統を革新するユリス・ナルダンの象徴「フリーク」ヒストリー

FEATURES

ユリス・ナルダンの超高級ダイバーズウォッチ「ダイバー エアー」を着けて、このジャンルの難しさを考えてみる

ソーウインドグループCEOのパトリック・プルニエにインタビュー。今後の柱となるコレクションは?

FEATURES