ルイ・エラールの「2340」を実機レビューする。本作は2025年に誕生した新コレクションであり、ブランド初のブレスレット一体型ケースを採用したモデルである。チタンとステンレススティールを使い分けた外装に、ミントグリーンダイアルを組み合わせている。

Photographs & Text by Tsubasa Nojima
[2026年2月3日公開記事]
ルイ・エラールが新コレクションに込めた決意とは?
今回レビューを行うのは、ルイ・エラールの「2340」だ。2340は2025年に発表された新しいコレクションであり、その名前は同社が拠点を構えるスイス・ノワールモンの郵便番号に由来する。
ここ5年程で大きく戦略を転換したルイ・エラールは、アーティストなどとのコラボレーションモデルをはじめ、新たな試みを多く取り入れることで、その注目度を年々上昇させていった。そんな同社が満を持して発表した本作は、これまでのクラシックな路線から少し異なる、ブレスレット一体型ケースを採用したスポーティなモデルであった。
いわゆる“ラグジュアリースポーツウォッチ”としてのコードを与えられた本作には、どのような魅力が宿っているのか。実機をもとに探っていきたい。
有機的なパターンが浮かぶ、ミントグリーンのダイアル
2340のダイアルは、ミントグリーン、スレートブルー、ディープブルーの3種類のカラーが用意されている。今回レビューを行うのは、ミントグリーンダイアルのモデルだ。カラーダイアルは、その色調によってポップにもシックにも印象を変えるが、本作の場合はパステルカラーのような淡い色合いに仕上げられ、過度な主張が抑えられている。ミントグリーンのダイアルはなかなか珍しいが、単に個性的なだけではなく、身に着ける服装の邪魔をしない控えめさと、男性だけではなく女性にも使いやすいニュートラルな色合いが、本作のキーとなる汎用性の高さを作り出している。

新コレクションとして登場した「2340」のミントグリーンダイアルモデル。同社初となるブレスレット一体型ケースを採用している。自動巻き(Cal.SW300-1)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約56時間。SS×Tiケース(直径40mm、厚さ8.95mm)。5気圧防水。75万9000円(税込み)。
ダイアルカラーもさることながら、そこに施されたエンボスパターンにも注目だ。スレートブルーとディープブルーのダイアルには水平方向のパターンが施されているが、ミントグリーンダイアルの本作には、丸と長丸を敷き詰めた有機的なカプセルパターンが与えられている。このパターンにどのようなメッセージが込められているのかは不明だが、柔らかなミントグリーンダイアルと調和し、直線を基調に構成されたブレスレット一体型ケースとのコントラストを際立たせている。
一見してブランド名の分からない、匿名性の高さも特徴だ。多くの場合、12時位置などのダイアルの目立つ位置にブランドやコレクション名を配しているが、2340では3時位置に小さなプレートを取り付け、ミニッツマーカーにさりげなくブランド名をあしらっているのみだ。しばしばブランド性を求められる高級腕時計において、あえてブランド名を目立たせていないのは、それ以外の魅力に自信がある表れだろう。
本作にミニマルな印象を与えているのが、バーインデックスとバトン型の時分針を組み合わせた、ノンデイト仕様のシンプルな構成だ。インデックスと時分針には多面カットが施され、光を受けて輝く。天面に蓄光塗料を塗布しているため、暗所でもしっかりと時刻を読み取ることが可能だ。エンボスダイアルのユニークさに目を奪われがちだが、インデックスやしっかりと届く長い針からは、基本をしっかりと抑えた時計作りがうかがえる。ひとつ気になったことと言えば、インデックスの形状が全て同じであるため、慣れなければ一瞬で時刻を確認することが難しいことくらいだろう。
ルイ・エラール初のブレスレット一体型ケース
同社初のブレスレット一体型ケースだけあり、外装の作り込みも気合が入ったものだ。手にしてまず驚くのはその薄さ。ブランドの公表しているサイズでは厚さ8.95mmと、自動巻き腕時計としてはかなり薄型である。フラットなミドルケースはそのままブレスレットへとつながり、斜めにカットされたベゼルが視覚的にも全体の薄さを強調する。
ポリッシュとサテンの磨き分けも、ラグジュアリースポーツウォッチらしい特徴だ。サテン仕上げ主体のミドルケースとブレスレットは、エッジの面取りやコマの一部にポリッシュを施すことで立体的に仕上がっている。
ケースとブレスレットの一体感を高めているのが、ケースサイドにあしらわれたガドゥルーン。角を落としたポリッシュ仕上げによって、見た目のアクセントにもなっている。ブランドロゴなどが配されていないリュウズは、ミニマルな本作に合ったデザインとも言えるが、やや素っ気ない印象だ。

ケースバックは、星形のスクリューによって固定されている。ソリッドバック仕様のためムーブメントを鑑賞することはできないが、サテン仕上げのサラリとした肌触りは、装着感の向上に寄与する。
本作には、ステンレススティールによる構造強化、チタンによる軽量化を狙ったコンビネーションケースが採用されている。ミドルケースとブレスレットの幅広のコマにはチタン、それ以外にはステンレススティールを用いているが、素材による色味の違いがほとんどないため、見た目だけで気付くことは難しいだろう。ただでさえ薄型のケースだが、手にしてみるとわずかに軽い。チタンの拍子抜けする軽さからは、ときにチープな印象を受けることもあるが、ステンレススティールを組み合わせた本作の場合は、軽すぎず重すぎずの丁度良い塩梅に収まっている。

ブレスレットは、サテン仕上げの際立った平面を強調したデザイン。リンク46 個、エンドリンク2 個、ピン32 本、スクリュー12 本の全部で92個ものパーツで構成されている。特徴的なのは、板バネを組み込んだバックルだろう。ブレスレットの片側を持ち上げるようにすると、バチンと勢いよくバックルが解放される。開閉用のプッシュボタンが無いため、すっきりとした見た目に仕上がっている。

薄型汎用機のセリタCal.SW300-1を搭載
本作が搭載しているムーブメントは、ルイ・エラールでは初採用となるセリタのCal.SW300-1だ。ETAのCal.2892系の代替機として誕生した薄型自動巻きムーブメントであり、“本家”を超える約56時間のパワーリザーブが与えられている。
汎用ムーブメントは修理用部品が潤沢に出回っているため、修理しやすいことがメリットだ。また、多くの腕時計で採用されてきた実績から信頼性も高く、まさに実用時計にとってはうってつけの存在である。自社製ムーブメントに比べ、所有満足度に差が生じるのは否めないが、この価格帯で上質な仕上げの薄型ケースを実現するとなれば、最適な選択肢と言えるだろう。
操作は、リュウズを押し込んだポジションで手巻き、一段引きで時刻調整というシンプルなもの。針を回した感触も滑らかで、簡単に時刻を合わせることが可能だ。Cal.SW300-1はもともと日付機能付きのムーブメントだが、本作ではきちんと二段引きから一段引きへと変更され、日付調整のポジションが省かれている。
上質なデイリーユースウォッチ
本作の魅力のひとつは、毎日着けたくなる軽快さにある。ステンレススティールとチタンを組み合わせた外装によって、長時間着用しても全く腕に負担がかからない。ステンレススティールの重量感とチタンの軽量さが噛み合うことで、高級腕時計らしい満足感と道具としての使いやすさが両立されているのだ。重心の低い薄型ケースも、装着感の向上に貢献している。
平面を主体とした薄型ケースとはいえ、立体感にも注目だ。外装のポリッシュとヘアライン仕上げは、光が当たることで異なる輝きを放ち、コントラストを生み出す。ケースサイドのガドゥルーンも、見た目のアクセントとして効いている。
ミントグリーンのダイアルは、ありふれていない個性的な色合いながら、オンオフ両方で使いやすい優しい印象をもたらす。視認性も確保されており、エンボスパターンが時刻を確認する際の邪魔になることもない。

ラグジュアリースポーツウォッチとして後発ということもあってか、これまでのルイ・エラールのコレクションとは異なる方向性でありながらも、その完成度は高い。しかし、ブレスレットに関しては少々取り扱いに注意が必要だ。
まず、コマのエッジが鋭く立っており、衣服などの引っ掛かりに注意したい。腕から外してブレスレットを指でなぞると、その感触は顕著だ。個人的には、もう少しエッジを落としてほしいところである。加えて、板バネを組み込んだバックルの開閉には慣れが必要だ。ある一点を超えるとバチンと勢いよく開閉するため、コツを掴むまでは慎重に操作した方が良いだろう。

ルイ・エラールの新たな柱となるか?
近年、独立時計師やデザイナー、アーティストとのコラボレーションモデルを多く発表してきたルイ・エラール。そのベースとなっているのはクラシックウォッチであり、同社にスポーツウォッチの印象は薄い。そのような中、突如として発表された2340に若干の疑問を感じたことは否めなかった。
ここ数年において、ブレスレット一体型ケースの腕時計は多くのブランドからリリースされてきた。各ブランドがアーカイブを復刻し、あるいは完全新規のデザインによって新コレクションを生み出し、まさに“ラグスポ”ブームという状態だ。とはいえ現在ではその勢いも落ち着き、定番化したものとそうでないもので明暗がはっきりとしつつある。このタイミングでのルイ・エラールの動きは、その流れを逸したもののように思えたのだ。
しかし実際においては、ルイ・エラールの2340は一過性のブームに乗ったものではなく、今後の同社の新たな軸となることを見据えて作り上げられたコレクションなのだろう。単にブレスレット一体型ケースという外形的な特徴を与えるだけであれば、凝った仕様は必要ない。ステンレススティールとチタンを組み合わせた外装や、板バネを用いたバックルは不要だったはずだ。ダイアルのブランドロゴを大きく目立たせても良かっただろう。
クラシカルなデザインを得意とする同社がコレクションの幅を広げるとなれば、ダイバーズウォッチよりも、ドレスウォッチとスポーツウォッチの中間に位置するラグジュアリースポーツウォッチの方が合っている。そう考えればこそ、2340はルイ・エラールが新たな一歩を踏み出すべく作り上げた、ブランドの決意が表れたアイコンとなるべき存在なのだ。



