ユニークなBRケースで時計好きの支持を集めるベル&ロス。パブリックイメージは華やかだが、実のところ、同社が一貫して目指してきたのは、プロフェッショナルが使える時計作りなのである。その好例がダイバーズウォッチだろう。1992年の創業以来、ベル&ロスはダイバーズウォッチのスペックで世界記録を塗り替えてきたのだ。
2017年に発表された「BR03-92 ダイバー」とは、ベル&ロスが追求するハイスペックを、やはり同社が得意とする実用性に接ぎ木した試みと言える。スクエアケースにもかかわらず防水性能は300m。しかもISO6425に準拠した、正式なダイバーズウォッチ規格をクリアしている。今までも、高い防水性を誇るスクエアウォッチは存在したが、ISOに準拠したダイバーズウォッチとしては、本作が世界初ではないか。
スクエアケースに高い防水性を与える場合、普通は裏蓋を丸く成形し、ケースにねじ込む。しかし裏蓋も四角くするとこの手法は使えない。現在に至るまで、スクエアケースのダイバーズウォッチが存在しなかった理由である。
ではベル&ロスは、どうやってはめ込み式の裏蓋で、不可能とされた300m防水を実現したのか。鍵となったのはケースの高い加工精度である。ケースサイズ以外は同じように見えるBRシリーズだが、実は新しいモデルほど、ケース構造は洗練されている。例えばBR01とBR03。前者のケースは複数の部品に分かれていたが、後者では標準的な3ピース構造に改められた。
ケース構造に洗練をもたらした切削技術の進歩は、当然により高い気密性を与えるだろう。裏蓋とミドルケースのかみ合わせが精密になった結果、今やBRシリーズのケースは、はめ込み式にもかかわらず、高い防水性能を持てるようになったのである。また本作では、強い水圧を受けても変形しないよう、裏蓋の中心が大きくせり上げられている。BRシリーズの美点である優れた装着感は少し損なわれるが、300mの水圧でもケースは変形しなくなる。
ここからがベル&ロスの巧みさだ。裏蓋の中心がせり上がると、ムーブメントとの間には隙間ができる。ベル&ロスは、そこに軟鉄製の耐磁ケースを差し込んだのである。ダイバーズウォッチには不可欠の耐磁性能を強化しつつ、それ自体が支えとなって裏蓋の変形を防ぐ。プロフェッショナル向けの時計作りを目指す、ベル&ロスらしい設計ではないか。また同社はこの時計に、いかにもダイバーズウォッチらしいディテールを与えた。例えば時分針。水中での視認性を高めるため、同社としては初の3面ダイヤモンドカット針を採用した。夜光塗料の面積は大きくないが、立体的な形状のため、よく光を反射して視認性を高める。グローブを着けたままでも回しやすくするため、周りにラバーを巻いたリュウズも、実用性に対する配慮といえるだろう。
もっともこうしたハイスペックを、きちんと普段使いに落とし込んだところに、ベル&ロスの手腕がある。300m防水の耐磁ケースにもかかわらず、ケースは相変わらず薄いうえ、BRシリーズのデザインコードに従い、ベゼルを細く絞って文字盤を拡大した点も、ダイバーズウォッチらしからぬポイントだ。
ハイスペックと高い実用性に、ベル&ロスらしさを盛り込んだBR03-92 ダイバー。同社の経験値は、初のスクエアダイバーズウォッチに、かつてない洗練をもたらすことに成功したのである。
ISO6425規格に準拠した、初のスクエアダイバーズウォッチ。大幅にスペックが向上したにもかかわらず、価格は十分に抑えられている。ブラックラバーとブラックキャンバスストラップ付き。自動巻き(BR-CAL.302、ETA2892A2ベース)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(直径42mm)300m防水。45万円。
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