カジュアルとドレスの黄金バランス
ジーンズと並び、男のワードローブに欠かせないチノ。では、今、もっとも大人の男にふさわしいチノとは? その最善の回答を示すのが、2014年に復活を遂げた日本ブランド、バーンストーマーである。
吉江正倫:写真 Photograph by Masanori Yoshie
バーンストーマーというブランド名を聞いて、ぴんとくる方も少なくないのでは? そう、1977年に設立され、アイビー世代から絶大な人気を誇ったパンツ専業ブランドである。その後、2000年にいったん活動を休止したが、2014年に創業者の息子にあたるデザイナー、海老根紋郎氏がブランドを復活させたのだ。
そんな新生バーンストーマーの看板アイテムが、海老根紋郎氏が誕生させた「NOP ドレスチノ」である。目の肥えた有力セレクトショップのバイヤーたちを唸らせるチノの魅力は明快。はき心地はゆったりしているにもかかわらず、脚がスマートに見える、のだ。
はいてみるとその特異さがはっきり分かる。深めにとられた股上や立体裁断のおかげではき心地は実に快適だが、なぜか腰回りにだぶつきはなく、脚のラインもすっきり長く見えるのである。
その秘密はセンタークリース(パンツのセンター部分に付ける縦の折り目のこと)の「カーブ」にあるという。このチノを置いた状態で真横から見ると、フロントからワタリ、膝にかけて、センタークリースが前方に膨らんだようにS字カーブになっているのが分かる。これは側面の生地が膨らまないよう、アイロンを使って生地を内側に寄るようにクセがつけられているから。そして、このセンタークリースは置いた状態だとカーブしているように見えるものの、実際にはくと、ストンと真っすぐ落ちるように計算されている。ゆったりとしたはき心地のパンツが驚くほどシャープに見えるいちばんの理由はこのカーブにある。
さらに随所に見られる「切り替え」にも秘密が。日本人の体形に合わせて立体感を追求していくと、どうしてもパーツ間に隙間ができてしまう。そのため腰や股の部分に生地の切り替えが設けられているのである。
テーラードの技法が駆使されたチノは、肩肘張らずにはける快適さに加え、ジャケットにもマッチする上品なシルエットを併せ持つ。まさにカジュアルとドレスの黄金バランス。バーンストーマーのドレスチノは、大人の男の着こなしに多大な恩恵をもたらしてくれるだろう。
「ドレスチノ」と呼ばれるノータックの定番チノは、アイロンワークが駆使されたセンタークリースと、裾に向かってだんだん細くなっていくテーパードシルエットが織りなす美脚効果が持ち味。生地は旧式のシャトル織機で織られたチノクロスで、仕立ては長年スラックス生産を手掛けてきた東北のスーツ工場が担当。この完成度で1万円台というプライスも驚きの一言だ。ブランド名はアメリカの曲芸飛行をするパイロットの通称に由来。1万4800円。