『クロノス日本版』の精鋭?エディターたちが、話題の新作モデルを手に取り好き勝手に使い倒して論評する好評連載。13本目のテスト機は、ボーム&メルシエの「クリフトン ボーマティック」(2018年)。発表以来、同モデルを推し続けてきた本誌編集長の広田雅将がインプレッション!
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
『クロノス日本版』に、ボーム&メルシエの広告は入っていない。“営業的”に見ると、じゃんじゃん取り上げるのはよろしくないわけだが、今年発表の「クリフトン ボーマティック」の出来はずば抜けて良かった。他メーカーの人間に、ボーム&メルシエに鼻薬をかがされたんじゃないかと言われるほど、本誌(および筆者)はこの新型自動巻きを推してきたし、今後も変わらないだろう。これはオメガの「シーマスター ダイバー 300M マスター クロノメーター」も同様だ。営業部の不評にもかかわらず猛烈に推奨してきたのは、時計の完成度が高いから、である。
あんまりにも褒めたので、ボーム&メルシエがテスト用にサンプルを貸してくれた。で、筆者はここ1カ月ほど使ってみたが、結果は“Outstanding”。何も考えずに使える点、現行自動巻きの中では突出している。以下、何が良かったのかをレポートしたい。なお、ムーブメントの設計については、本誌No.78(8月3日発売)で詳細に書く予定。自分で言うのは変だけど、これだけボーマティックを取材した媒体は他にないと思いたい(たぶん)。
短評
〇:クロノメーター級の精度、優れた耐磁性、長いパワーリザーブ、薄くて取り回しの良いケース、ブレスレットへの変更を前提としたバネ棒の位置、魅力的な価格
×:夜光がない、日付の切り替わり音がやや大きい、日付の切り替え禁止時間帯がある
ムーブメント
搭載するBM12-1975Aの基本設計は、カルティエのCal.1847MCにさかのぼる。このムーブメントは、ベースムーブメントと巻き上げ機構を完全に分離した設計を持つ。そのため、ベースムーブメントの直径を拡大して大きな香箱を載せれば、容易にパワーリザーブを延長できる。事実、このムーブメントの輪列設計はCal.1847MCに同じだが、地板(=香箱)を大きくすることで、パワーリザーブを約5日間に延ばした。なお、自動巻き機構は、セイコーのマジックレバーを模した、通称「マジッククリック」。設計の難しい自動巻きだが、問題のないCal.1847MCの自動巻き機構をそのまま転用することで、信頼性を担保している。常時腕に装着していたが、巻き上げ効率にはまったく不満がなかった。
このムーブメントには、約5日間という長いパワーリザーブ以外にも、ふたつ特徴がある。ひとつは、耐衝撃性と等時性に優れるフリースプラングテンプを採用したこと。ただし、コストを下げるためか、緩急装置にはあまりコストが掛かっていない。テンプに片重りが生じやすそうだが、静態・動態精度ともに問題はなかった。
また、ヒゲゼンマイと脱進機はシリコン製に変更された。加えて、ヒゲゼンマイの安定性を高めるために、2枚のシリコンを貼り合わせるツインスピアーというテクノロジーも採用された。ボーマティックの約1500ガウスという高い耐磁性能は、明らかにシリコン製ヒゲゼンマイの恩恵を受けている。
クロノメーター仕様ではないが、約1カ月使用した携帯(動態)精度は約3秒。姿勢差誤差はほとんどなく、磁気の影響も感じられなかった。リュウズのガタもIWC並みに小さく、針合わせの感触も100万円クラスの自社製ムーブメント並みに滑らかだった。筆者は発表当初のCal.1847MCの感触を好まなかったが、改良されたのだろう。もっともエントリーモデルのためか、ローター音と日付の切り替え音はやや大きかった。といってもこれらは、高級機に慣れた人以外、気にならないだろう。