【ブレゲ新生マリーンが拡張する 〝エレガンス スポーティー〟の 版図】前編
新生マリーン研究 内外装の神髄は細部に宿る
ブレゲは、新生マリーンの全モデルに共通のデザインコードを行き渡らせ、統一感を持ったコレクションに仕上げるため、周到な準備を重ねてきたに違いない。そのプロセスでどのようなエステティックを選んだのか。併せて、ムーブメントにどのような新しさを付与したのか。そのディテールをひとつひとつ検証していくことで、〝新生マリーン〟に息づく世界観が分かり、今後のコレクション展開の予想も可能になる。
Photographs by Eiichi Okuyama
菅原 茂:文
Text by Shigeru Sugawara
前編の「マリーン 5517」でも触れたように、第3世代となる今回の「マリーン」は、デザインを形作る要素のすべてが新しく、微妙に手を加えたアップデートというよりは、抜本的なモデルチェンジと呼ぶにふさわしい。
まずケース。これまでと決定的に違うのはラグだ。ブレゲの場合、ケースに別体のラグをロウ付けするのが通常の作りだが、新型ケースではラグが一体化し、中央でストラップを支持する、いわゆる〝センターラグ〟構造を採用している。これに合わせて、従来とは異なる太いスクリュー固定バーを導入する。線から面へと置き換えられたラグには、表面に縦方向の繊細なサテン仕上げが施され、ストラップと境を成す面取りと固定バーの両端をポリッシュ仕上げにして輝きのアクセントにするなど、光の効果を演出する凝りようだ。その結果、ケースからラグ、ストラップへと淀みなく続く洗練されたラインが形成され、同時にストラップもしっかり固定できるようになった。つまり、新型ケースの狙いは、ラグジュアリーウォッチにふさわしいエレガントなスポーティールックとアクティブな行動にも適した耐久性の両立にあった。それはまた、ケース側面にぐるりと施されたブレゲ伝統のフルート装飾についても言える。縦溝の間隔は従来より広く取られ、ブレゲらしい意匠に力強さを加えた。
「マリーン」のデザインコードのひとつであるリュウズガードは控えめな形状に変わり、一方でリュウズの刻みは凹凸が深くなり、ブレゲのイニシャル〝B〟も立体感が増し、鮮明になった。これらは、たとえ小さな変化であっても、全体の印象を左右する重要な要素になり得る。
時計のフェイスを形作るダイアルは今までとはまったく似ていない、完全に新規のデザインであり、3種類のモデルにそれぞれ展開するケース素材に合わせて個別の意匠が用意されている。ゴールド製モデルは、以前の渦巻き状ではなく、大海原の波頭を思わせるウェーブ模様のギヨシェ彫りが施され、ホワイトゴールドはマリンブルー、ローズゴールドはシルバー仕上げというように彩りも変えている。チタン製モデルのダイアルにはギヨシェ彫りを用いず、サンバースト・スレートグレーという実に渋い仕上げだ。
先端に丸いモチーフを抱くブレゲ針は、鋭いファセットを刻む針の峰がモチーフを縦断する形になり、秒針に至っては、国際海洋信号旗の〝B〟をかたどったカウンターウェイトを採用している。立体感を強調したローマ数字のアプライドインデックスも、タイポグラフィーや溝に施された蓄光塗料が独特だ。ちなみに数字自体に蓄光を施すのは初の試みだが、それも新生マリーンのダイナミックなスポーティールックに効果を発揮する。
時計の裏面にも見逃せないディテールがある。透明なサファイアクリスタル製のケースバックから見える自動巻きムーブメントのローターも、以前の渦巻き状のギヨシェ彫りを施したものから、船の舵から想を得たデザインへと変わり、さらにブリッジの直線的な装飾パターンも船の甲板をイメージしたものだという。
さらに、ムーブメントの機構で裏面から鑑賞できるものとしては、「クロノグラフ 5527」に新たに組み込まれたLIGA製中間車が興味深い。頻繁なフライバック操作でこの中間車がいかに機能しているかが見える。「アラーム ミュージカル 5547」は、アラーム作動中のハンマーの動きが見て取れるので楽しい。