さまざまな産地の茶の特徴を知り、それをいかに上手にいれて頂くかに、人々は興味を持ったのだった。
当時、台湾茶業の大手であった「天仁銘茶」が、陸羽茶芸という教室を作り人気を博していたのを思い出す。
取材の旅は台北を振り出しに、台中郊外の中興新村の農林廳、名間郷の茶問屋街、鹿谷郷農会、天仁茗茶の最高級茶である「天霧茶」「天盧茶」を産する標高1500mの畑など、銘茶のふる里である台湾のほぼ中央部一帯に及んだ。行く先々で身に余るもてなしを受け、多くの人々にお世話になった。そしてそれぞれの里で、食事の後に、最高の茶を味わわせていただけた。春茶製造の時期を外してしまったから、ひょっとすると採茶や製茶の光景は見られぬかと危惧したが、場所によっては早い夏茶づくりが始まっていたのはさいわいだった。書物によっては知っていたが、製茶の実際を見、その音を聞き、香りを感じてすべてが頭に入った。
それにしても、台湾は今、烏龍茶や茶芸(中国式茶道)への熱気を強く感じさせてくれる。自家栽培の高山茶や上質の凍頂烏龍茶を売る天仁茗茶のチェーンをはじめ、張さんの「和昌茶荘」など台北の街では茶を商う店がたくさん目につくし、茶芸を楽しむ茶芸館も市中にふえつづけている。茶芸館は今、台湾社会のオアシス的存在なのかもしれない。東京と同じくらい混沌とした都市の中で、一刻中国の琴の音に耳を傾け、棚の古い書物が読める。中でも「陸羽茶芸」は、中国茶を知ろうと思うものには欠かせぬ場所だ。ここでは烏龍茶の普及のために、毎夕茶芸講座が開かれ、茶の小史、泡茶法などをくわしく教えてくれる。いわば中国茶のカルチャーセンターなのである。
茶芸館にはいろいろな茶が揃えられている。文山包種茶、白毫烏龍茶、雀舌龍井、南岩鉄観音など、それぞれに固有の味と香りを持つ茶の中から好みの茶を選ぶ。それをテーブルの上にセットされた茶具を用いて、自分でいれて楽しむのだ。店により、また茶によって料金は異なるが、いろいろと珍しい茶を試せるのがよい。茶芸館によっては小姐がつきっきりで茶をいれてくれる所もあるが、やはり早く馴れて、自分で思うままにいれるのがよい。