クオーレ アズーロ(中目黒) / この世ならぬ美味のクリエイター

2018.11.09

命への敬意と果てなき雄心

6年目を迎える中目黒の小さなイタリア料理店。郷土の魅力豊かで多彩なメニューを手掛ける大貫浩一シェフを突き動かす信条とは?

外川ゆい:取材・文 Text by Yui Togawa
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
パスタ ミスト
手前右から時計回りに、形状に魅了されたエミリア=ロマーニャ州の「ガルガネッリ ボロネーゼ」。修業時代に毎週食べたサルディニア島の「イカ墨タリオリーニ ウニバター」。20分かけて生米から丁寧に炊くピエモンテ州の「バローロのリゾット タレッジョチーズ添え」。オーダーは2名分4500円~。写真は1名分。盛り合わせの内容はご相談を。

 青い扉の奥に続く店内は、いつ訪れても陽気な空気に包まれている。席に着き黒板を見上げれば、魅力的なメニューが並び、選ぶ楽しさに心躍るだろう。中でも手打ちパスタは常時約15種類を誇るほど。そこにオーナーシェフである大貫浩一氏の想いが詰まっている。
「修業時代、白金にあった『ピオラ』では、パスタ場を担当させてもらいました。常に10種類の手打ちパスタをラインナップしていることに加え、食材の素晴らしさにも刺激を受けましたね。いよいよ本場で学びたいという気持ちが強くなると、オーナーシェフのヴァルテル・ダル・コル氏が紹介状を書いてくれました」と恩師への感謝を懐かしく振り返る。

 その後、ピエモンテ州アルバの名店「トラットリア ラコチネッラ」や、サルディニア島のミシュランひとつ星獲得店「リストランテ サポセントゥ」をはじめ、トスカーナ、
プーリア、マルケの5州で研鑽を積んだ。北から南までイタリア各地を巡ったことで、手掛けるパスタやソースそれぞれに、自身の経験が投影されている。だから、食べ手も記憶に残る味なのだろうか? などパスタを口に運びながら考えてしまう。そして、ワインがまた進む。

 カウンター越しに厨房を臨むと、いくつものフライパンを使い、次々と料理を完成させる様子に釘づけになる。実に鮮やかで機敏。妥協を許さず、じっくり手を掛けて調理する料理人の姿だ。ところが曰く、「料理人だとは思っていません。作りたいのは料理ではなく店。一番大切なのは、楽しい空気をつくるサービスです。だから料理は一番の名脇役」。意外な言葉に驚いたが、すぐさま納得した。だから、この店は居心地がいいのだ。手打ちパスタの多彩さも、ゲストを楽しませたいという想いに尽きる。彼には料理人という肩書きより、料理もうまいエンターテイナーという表現がよく似合う。

大貫浩一 Koichi Onuki
1978年、神奈川県生まれ。高校卒業後、調理師専門学校に進み、イタリア料理店で働きながらバンド活動に熱中。その後、本格的にイタリア料理の世界へ。銀座「ポルト・ファーロ」や白金「ピオラ」で修業
後に渡伊。およそ3年間、計5州の名店にて研鑽を積む。帰国後、神戸「ファーベル」の立ち上げなどを経て、2012年5月に独立を果たす。

イタリア語で“青い心”を意味する店名にちなんだ青い椅子と木の温かな質感が印象的な空間で、カウンターをメインに奥にテーブル席がある。イタリア各地の銘柄を揃えるワインは、グラスでの提供も豊富。


クオーレ アズーロ
東京都目黒区上目黒2-42-12 渋谷ビル 1F
☎ 03-5708-5101
火曜休 18:00~24:00(L.O.23:00)
アラカルト各種あり