リーブル(白金) / 食による創造と最高峰の在り方

2018.12.03

食による創造と最高峰の在り方

10年近いフランスでの経験を経て、独立を果たした田熊一衛氏。パリと東京のふたつの都市を知る料理人が、独自の感性とスタイルで、新たな食文化を発信していく。

外川ゆい:取材・文 Text by Yui Togawa
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
鶉と海老
静岡県産の鶉を丸ごと使い、中心に車海老、間に豚肉を層にしている。110℃、湿度40%のコンビオーブンで13分間火を入れ、しっとりとした口当たりに。半分にカットして皿に盛り付け、鶉の骨から取ったソースと、葉をかたどったジャガイモとニンニクで作るチップスを添えて完成。ディナーコースはおよそ10品、食べ手を刺激する緩急ある料理が提供される。

 樹々の緑が揺れる白金の閑静な通りに誕生した一軒。ガラスの扉から奥へと店舗が広がるのだが、街を歩く人々が興味津々に足を止めて覗いていく。表のディスプレイにはスイーツが並んでいるので、パティスリーだと認識され、それも正解だが、夜にはおまかせのコースでフランス料理を提供するレストランとなる。

 店頭から続く壮観なカウンターは、赤灰色のイタリア産大理石ロッソオロビコ。幅およそ1mで、オープンキッチンとフラットな状態でつながっており、まるで立派なダイニングテーブルをシェフとゲストが分かち合うような構図に。椅子に座れば、シェフの自宅に招かれたような錯覚に浸れ、仰々しさは一切ない。オリジナルの器の数々やカトラリーの色が料理ごとに変化していく様に至るまでこだわりが徹底されている。この空間で料理を生み出しているのが、シェフ・田熊一衛氏。料理においても、それを取り巻くデザインに通じる視覚での驚きを備えている。ビジュアルで息を呑み、口に運べば思わず頷いてしまう味わいの説得力がある。

 遡ることおよそ10年前、田熊氏はドミニク・ブシェ氏に誘われて渡仏を決意した。「いつも親身に気にかけてくれました。同じ厨房で働いたのはわずか1年ほどでしたが、その後三つ星『ベルナール・ロワゾー』のシェフとして働くことができたのもドミニクのおかげ。その当時共に働いた優秀なパティシエに、ショコラや飴細工を学んだことは現在につながっています」。

 帰国後、「まずはクリエーションの自由度の高いパティスリーから」スタートし、1週間後に、追ってディナー営業を開始した。活躍は店に留まらず、グッチやカルティエなどからのオファーも多い。さらに、今冬にはグランドメゾン級のレストランの開業も予定している。なんとも軽やかなテンポ。すでに最高峰の経験値を持ちながら、これから先の伸び代にこれほど期待高まる料理人は稀だ。その一方、「日本の料理人の地位を上げたい」という、パリと東京を冷静に比べる目を持つ彼ならではの言葉も印象に残った。

田熊一衛 Ichiei Taguma
1981年、福岡県生まれ。18歳で料理の道を志し、福岡「メゾン・ド・ヨシダ」、代官山「レザンファン ギャテ」などで研鑽を
積む。2009年に渡仏、三つ星「ル・サンク」などで腕を振るう。2018年6月、白金高輪に「リーブル」を独立開業。9月に福岡天神店をオープン。

内装は、DAIKEI・MILLSの中村圭佑氏によるもの。パリのレストランのデザインに田熊氏が惚れ、独立する際には依頼すると決めていた。外観から続くカウンター下の土を層にした台も目を惹く。


リーブル
東京都港区白金1-15-36 1F
☎ 03-6447-7077
不定休
パティスリー10:00~16:00、レストラン18:00~
L.O.21:00、バー21:00~
ディナーコース8500円、
ペアリング5000円(消費税別)